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立方体の思い出。#ショートショート

なにげなく耳に入ってきたことばが耳の中を
よぎって、みぞおちのどこかしらに着地する。

言葉は必ずみぞおちの辺りに行き着くんだと
教えてくれたのは元カレだった。

そして指がなにかを四角くなぞる。

箱のようなものを彼の指が描いた。

みぞおちの形って聞こえた。

いにしえからみぞおちは立方体の形を
していて。

そこに言葉がたまっているらしい。

書き落としたり、書き忘れたものがその
立方体のみぞおちのところで待っている
らしい。

おとし物とわすれ物。

おとすは直前まで憶えていたのに不注意な
ことだと教えてくれる。

でも、わすれるほうは、かつては思っていた
はずなのにわすれてしまうことらしい。

そばにあることが、むかしからの約束であった
ような言葉たち。

言葉には時々心が宿る。 

何処かの学者さんが言っていた。
そして心は言葉になることを待っているのだと。

わたしはみぞおちに指を置く。

紡げなかった言葉たちは、みぞおちの立方体の
なか心の形で眠っていた。


    


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