美しいという言葉を禁じられていた。

美しいって感じるのは、ひとそれぞれ

だから美しいって思った人がなにかを

美しいって言えばいいし。

誰かが想った美しいをそれは違うって

言う人には、あなたはわたしじゃない

からって伝えたらいい。

美しいはじぶんひとりの城だから、

それを守ればいいんだと思う。

美しいって言葉を知ったのはいつだった

のか忘れたけれど。

大人になって俳句の師匠が仰った言葉は、

美しいを美しいという言葉を使わないで
表現できるようになりなさい。

だった。

あの頃20代でわたしが何を美しいと

想っていたのかは忘れたけれど。

中学生の頃から

谷崎潤一郎の「痴人の愛」は美しいと

想っていたし、

痴人の愛 (新潮文庫)

いつか小悪魔になるつもりだったのかは

知らないけれど。

誰にも許されない価値観で生きる

ナオミの破天荒な立ち居振る舞いに

魅了されていた。

うたかたの日々

ボリス・ヴィアンの「うたかたの日々」を

マンガにした岡崎京子のこの世界観にも

惹かれていた。

お金持ちのコランとクロエ。

ある日、クロエは胸に「睡蓮」が巣食ってしまう

病にかかる。

ザンコクなのに、彼らと彼らをとりまく

友人たちも同時に破天荒に無邪気で。

そのアンバランスさが美しいとわたしは

思っていた。

現実を逃避するためには、異次元の美しさが

必要だったのかもしれない。

コピーを書いていた頃も会社のボスの

洋子さんが同じことを言った。

ボンちゃん、美しいって言葉を使わんで美しいを
表現できるようになりや。

美しい発言禁止令が出そうになるぐらい

わたしとちと先輩のスーちゃんは、

なるたけ美しいを発しないように話した。

そして、今はそんなに厳密に美しいと

何かに対して発することを禁じられた

生活をしてるわけじゃないので、気楽だけど。

今日、好きな詩人の最果タヒさんの言葉に

であった。

The Current 北澤平祐作品集

イラストレーターの北澤平祐さんの

作品集へのレビューだった。

　「美しいな」と何かを見る時、私はそれそのものも
そうだけど、それに出会えたこと、それを見つけたこ
とで変る空気そのもののことも「見ている」と思う。

そうそう、空気感なのだと思う。

じぶんの立っている位相が変わるって

いうのか、ちょっとなにかがずれたような

出会った時のあの時にしかあじわえない

瞬間って何にも代えがたい。

美しいだけじゃいえない美しさってある。

　美しい山や美しい海を見た時の世界に満ちている
大気ですら愛おしく感じるような、そんな感覚。

まったくもってそうだと、つかまえがたい

想いを言葉でみせてくれるのが

やっぱり上手いなって思う。

わたしはこの文章に出会えただけで

今日一日の模様がそして色が変わった。

気持ち穏やかじゃない日々が続いて

いたので救われた気持ちになった。

きれいな出来事に遭遇した時、

こんなわたしでもそのことをそっと

伝えたいなって思う人がいる。

そして最果タヒさんの言葉に出会って

いつかあなたが、教えてくれた小説のことが

ふいによぎる。

ながれぼしをみたよ。きれいだったんだよとかたるひとの
そのことばだけがのこってゆく。
そのことばをおぼえておくひとのなかにのみ　りゅうせいは
そんざいする。

その小説の中の流星のことを語ってくれた

あなたのことばだけが、わたしのなかに

ずっと生きていて。

まちかまえていた流星に出会うと、それは

わたしがいつかきいたあなたの教えてくれた

お話の中の流星をみているそんな想いが

する。

まぼろしめいてはいるけれど、

美しいということの尻尾をつかまえたような

そんな気持ちになる。

おぼえてる　ずっと昔の　さっきまでのこと
寄る辺ない　雲もちぎれて　うつぶせの耳