「夜空ノムコウ」のムコウを想う。

窓を開けると、鋭くてすぐ怪我してしまいそうな

ぐらいのとがった月がこの間、出ていた。

そして、満月でもないのに夜の空は明るかった。

ふいに、「夜空ノムコウ」を思い出したりして、

ひゅんとせつなくなりそうな気がした。

画像1

むかしはこうして、よくせつなさにずるずると

簡単に負けていた。 そうずるずると。

あれから ぼくたちは 何かを信じてこれたかなぁ……
夜空の向こうには 明日がもう待っている
誰かの声に気づき 僕らは身をひそめた
公園のフェンス越しに 夜の風が吹いた

もうこの歌詞には、なんど聞いてもやられた。

みんなそう思っているよって。

思っていない奴なんていないだろって

畳みかけるのだ。

はじめて聞いた時もこの歌詞の第一行目に

ぼこっと殴られた気分だった。

一度聞いたものは、なかったことにはできない。

君が何か伝えようと 握り返したその手は
僕のこころのやらかい場所を 今でもまだしめつける

あの頃、この歌詞の中の君にきみを重ねていた。

君はきっとそういうふうに僕を重ねるなんて

偽善だなぁって怒っているんだろうと思いながら

それでもなんどもこの歌詞の君にきみをふわっと

ミルフィーユのように重ねた。

あれから僕たちは 何かを信じてこれたかなぁ……
マドをそっと開けてみる 冬の風のにおいがした
悲しみっていつかは 消えてしまうものなのかなぁ……
タメ息は少しだけ白く残って すぐ消えた

あの頃わたしは広告の仕事をしていて。

憧れていたけれど。

あの憧れはまぼろしのように日々、

砂にまみれていくようだった。

こんな夜中に窓の外で、かっしゃんかっしゃっと

音がする。

犬のIDタグが犬が歩く度に甲高い音を立てる。

今、聞こえているその音はたぶん仕事帰りが

遅くなった飼い主が、眠れなくなったついでに

夜の散歩にでかけてきたのかなって想像する。

広告事務所で働いていた頃は、よく徹夜した。

それがあたりまえの日常だった。

いつもおろおろしていたわたしのたてになって

くれたすーちゃんと、よく徹夜した。

思ったよりも現場はきつくて。

夜オフィスのマンションのエレベーターの

中でいつが辞めたいという想いだけが

よぎる日々だった。

歩き出すことさえも いちいちためらくせに
つまらない常識など つぶせると思ってた。

常識を破ってなんぼでしょって。

そんなコピーばかり書いていて叱られた。

プレゼンではごり押しでコピーを通そうとして

嫌われた。

ただ嫌われたけど、社長さんだったヨーコさんは

それでいいんやでって、笑って先方にフォローして

くれた。

大人の事情がよく呑み込めないで自爆しそうな

日々だった。

遅い時間になると、なにをみても可笑しくなる。

コンビニのお弁当とかおにぎりが並んでいるの

をみても可笑しくなってすーちゃんと笑った。

画像2

ふたりで、おしゃべりしながら、時折、

凪のように無言になって、えんぴつで原稿用紙に

コピーを書いたりしていたあの頃。

徹夜はひとりではなく、だれかとするから楽しさが

ちがう方向に転がってゆくのが面白かった。

あまりよく知らないメンバーとも、同じ時間を

共有したことで、ぐっと瞬間近寄った気分になる。

誰かといっしょに夜を徹しているときは、

その誰かに、なにかあたらしい部分を発見したり

して、いつもそのベクトルは誰かに向いている。

思いがけず、やさしかったり。

おなかがすくと、機嫌が悪くなるんだなって

気づいたり。

すごい、集中力でものを考えるひとだなって

落ち込んだり。

そのだれかに、なにかあたらしい部分を発見したり

君に話した言葉はどれだけ残っているの?
ぼくの心のいちばん奥で 今もから回りし続ける

この歌詞の中の君は、あの頃のすーちゃんでも

あるし、きみでもある。

すーちゃんとずっと仕事を続けたかったのに

わたしは続けられるエネルギーのようなものが

日々失せてゆくのを感じていた。

このまま磨滅してゆくのだと耐えきれなく

なって、すーちゃんよりも先にその後会社を

辞めてしまった。

言葉をみるのもいやになって。

絵ばかり見ていた。

辞めたのにそれでもすーちゃんは、ええよ

身体とか家族の理解とかの方がずっと大事やから

って言ってくれた。

きみとは、結婚の約束もレッドカードものの違反を

して反故にしてしまった。

なかったことなんかにできないのに。

ほんとうに、あの頃を思い出すのはとても痛い。

痛いけれどあれ含めてわたしなのだ。

そこから目をそらしてはいけない。

そしてわたしは彼らをあの「夜空ノムコウ」

共に思い出している。

なんかふいに、いいひとたちだったなって思う。

当時だって思っていたけれど、今、年を重ねてきて

そういうことをとみにおもう。

きみとは、酷いけんかしたけれど。

嘘みたいにいい人だったなって思うことがある。

ちっぽけだけれど、かけがえのないそんな瞬間で

日々は成り立っているって、どこかで聞いたことが

あるけれど。

あれからぼくたちはなにかを 信じてこれたかなぁ……
あの頃の未来に ぼくらは立っているのかな……

この歌詞が今日の日がいつか過去になっていった

その時にもまた思い出しながら、その時たっている

自分の足元を確かめたくなる、そんな歌なんだと思う。

問いかけは 半球体の かたちで眠る
真夜中は 沈黙とゆめ ないまぜにして


       

 

この記事が参加している募集

私の作品紹介

いつも、笑える方向を目指しています! 面白いもの書いてゆきますね😊