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弟にコンプレックスを抱いてきたけれど。

仲良きことは美しきことかな、さねあつ。

みたいなことは、なかなかよいことだと

されていますが。

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とくにご夫婦や兄弟などこんなに仲がいいん

ですっていうnoteに出会うと少しだけ心の

バランス崩している時などは、凹みます。

凹みますとかって言葉が似合うお年頃では

ないですが。

そういうことがあるんです。

父と母は離婚していますが、父とは今も

連絡とっていますし弟も近所に住んで

います。

弟とは年々疎遠になるというか。

小さい頃から正直コンプレックスは

ありました。

彼の方がきっと、いわゆるスペックは高い

という点で。

疎遠になった理由はいろいろあったんです。


いろいろありますよ、それはそれは。

おかしなことですが、わたしは週に一度だけ

宅配便を頼んでいて。

その担当の方と配達してくれる時に

マスク同士で喋ります。

おもえば弟よりもよくしゃべっていることに

なるなってこの間、気づいて。

つらつらと別の場所で書いていた日記を

読んでいたら。

あんなに疎遠なはずなのに、なにかと

わたしは弟のことをそこに書いていた。

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やさしい赤と白のチェックのテーブルクロスに

すっと差し込むひかり。

ひかりを手繰ればきっとそこにはあるのかも

しれない窓の気配を感じるしあわせな表紙の写真が

印象的な1冊の本を貸してもらった。

彼はときどきそうやってふらっとやってきて

一冊の本をリビングに置いてゆく。

その本はわたしと血のつながりのある彼が

すこし熱を持って愛読している編集者

後藤繁雄さんのぶあつい日記だった。

はじめてわたしは後藤繁雄さんという名を持った

彼の文章にふれたとき、たまたま新幹線の中

だったのだが。

世界中をかけめぐる折々が綴られたそんな

ページをめくる指を急が急いているのか

留まらせたいのかわからなくなるほど、

夢中になった。

そしてすぐにでも次の日記が読みたくなった。

これで同じ著者の日記を読むのは2冊目になる。

他人の日記に記してある日付ってどうして

あんなに気になって仕方がないんだろう。

たくさんの鍵穴の扉の前に立っている感じが

するような。

ひとつしかない鍵にぴたりとあてはまる扉が

どこかにあるかもしれないというささやかな

希望みたいなものに似ているような。

彼の日記はふしぎにカレンダーどおりではなく

記されている。

<時間は時順番でなくじぶんの記憶で決まるような気がする>

そう綴られていたコトバ。

後藤さんとわたしに流れていた時間は重なっていないのに

じぶんの過去の日記を右に左に繙きながら彼の文章を

目で追っていると不思議な気持になってくる。

ひとつとして同じ時間は存在しないのに、わたしも

彼の日記の片隅に棲んでいた瞬間があったような錯覚に

陥りそうになってしまう。

今もリビングにあるその日記は毎日すこしずつ

わたしと過去をやわらかくつなげてくれる大事な

一冊だ。

だからちびりちびりと小さな器で飲む日本酒の

ようにだいじにページをめくっている。

そのなかのとある1ページの耳が折られていた。

見過ごしてしまいそうなことばのつらなりの

なかに、つかのまひかる言葉をみつけて、わたしは

おだやかになる。

表紙の写真がいつまでも好きなのは、一枚に

写らなかった窓のたしかな存在をひかりによって

確認できるからなのかもしれない。

その理由がいまわかった気がした。

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かなり以前にこんな日記を書いていたんだって思った。

彼が置いて行って手元にあるのは1冊だけ残って

いたので耳の折られたページを探してみた。

このページのどこに彼が心動かされたのかは

わからないけど。

こんな1節をみつけた。

人間が地球を覆いつくし、自然の力が衰えてゆく。
森も死に、海も死ぬ。と、同時に、人間も消える。
独特の人は、大いなる自然でもあった。果たして、
このような人はこれからも生まれ得るか。p11

この文章が好きなんじゃないかって思いながら。

俺ももうオヤジやんって、弟がこの間言っていた。

彼は若い頃からもうオヤジやんが口癖だったけど。

ふたりしかいない姉弟なんだよなって思いつつ。

本のページの角を折ることをドッグイヤーって

言うらしいけど。

この癖やめなよって思いながらも、彼が折った

ページに残されたしわになった犬の耳を、わたしは

不思議な気持ちで眺めていた。


1冊の ページの耳を やわらかに折る
はじまりの 種子のかたちに 眠る言葉は


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