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ブックデザイナー森下陽介が伝えたい!本の表の裏ばなし。『性の歴史』の誕生秘話!

本を選ぶときに一番最初に目に入るのが、表紙(書影)です。「本の顔」と言ってもいいほど大切なもの。今回は、『性の歴史』を題材に、ブックデザイナー目線で、こだわりや注目ポイントを熱く語ります。

皆さん、初めまして!文響社デザイン部の森下陽介です。主に、書籍デザインやうんこドリル製作を担当しています。今回は、特に思い入れの強い、2021年3月11日発売の新刊『性の歴史』の話を、ど~しても伝えたくて、こうして記事を書きました。カバーの装丁や中面のデザインに込めたこだわり、情熱、マニアックな一押しポイントをご紹介します!

この本のテーマは、「性をめぐる人類1万年の歴史」。読んだ瞬間、「うわ~、なんだこれ!めちゃくちゃ面白い!」と感動しました。1人でも多くの方の手に取っていただきたい!という気持ちが沸き起こり、デザインが始まったのです。

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まるで禅問答!カバーに込めた2つの狙い

「性」というテーマに、気恥ずかしさや抵抗感を覚える方もいるであろうことが、大きな懸念点でした。そこで、「心理的ハードルを下げるために、清潔感や重厚感といった品の良さが感じられるデザインにしたい」と考えました。一方で、「性に関する本ということがひと目でわかるようにもしたい」という編集者からのオーダーもあり、知恵を絞ることになりました。

“「性」という要素は分かりやすく。でも、持っていても恥ずかしくない。これってパラドックス? まるで禅問答じゃないか……”

うまい解決案を求めて、アイデアを練ること数日間。色々な案が浮かびました。

〇アイデアの卵
・公衆トイレのような男女ピクトグラムを使う
・歴史的な名画をあしらってみる
・いっそバナナと桃の写真を撮って可愛い感じにする など

脳みそに汗をかきながら、色々と案を描き出していきました。そして辿り着いたのが、シンプルイズベスト。ストレートに♂♀マークを使おうと決めました。そこからさらに、自分の中で検証を重ねます。

・自分だったらこれを電車で読んでいても恥ずかしくないかな?
・レジに持っていくのに抵抗感はないか?
・気になる女友達の前で堂々と読めるだろうか?
・友達の誕生日にプレゼントしても引かれない?

などと具体的なシチュエーションを頭の中で想定しながら、アイデアを詰めていきます。自分自身が一人目の読者なのです。

男女のマークを色々と組み替えてたり、背景にスタイリッシュな世界地図を入れたり、アンティークな雰囲気のある古紙のイメージを用いたり、とにかく思いつくアイデアは試してみました。そんな試行錯誤の末に決定したのは、

表紙前面にエレガントな飾り模様を配置して、男女マークはその真ん中にビシッと配置するという、最もアカデミックな雰囲気の案でした。

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そこからさらにゴールドの箔押し加工もつけて豪華さをアップさせ、カバーが完成しました!(余談ですが、前職で企業の社内報や株主向け資料といったお堅い紙面ばかりをデザインしていた僕は、縁のなかった箔押し加工にめちゃくちゃテンションが上がっていました笑)

完成形を見てみると、自室の本棚に並べてもドヤ顔できるくらいの品の良さと、「性がテーマ」と一目瞭然の分かりやすさが体現できたと自信を持っています。禅問答のような相反する2つのお題に答えるべく試行錯誤したデザインを、気に入っていただけたらとても嬉しいです!

う~っすら見えるラインがポイント!

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この本には、全体に細かな横向きのラインが引かれています。実はこれ、すごーく細かいことなんですが、僕のこだわりポイントです。実は、「学校の歴史の教科書」をモチーフにしています。学校の教科書ってやたらと横のラインが入っていたような記憶があるんですよね(僕だけですか?)。この線があるだけで、知的な雰囲気がぐっと増す気がしますし、ほんのちょっぴり懐かしくもあります。そんな狙いを込めた横ラインです!う~ん、マニアックですね(笑)

どうかパラパラめくってみて!年表にご注目!

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(上写真:様々な年表のレイアウトが検討された)

この本の下部には紀元前8000年から西暦2020年に至るまで、1万年が数直線で表され、その上に各章の年代を示すマーカーが置かれています。「本文に年表を入れる」いうアイデアを、編集者から聞いた僕は、「いいですね!2021年という今の瞬間も、悠久の人類史の一部だとメッセージを具現化してます!めちゃくちゃ良い仕掛けですよ!」と若干暑苦しいほどに感心しました。早速デザインに取り掛かるものの、決めることは沢山あります。

そもそも位置はどのあたりがいいのか。本文の上?下?それとも左右?縦方向の年表にする?年表一つとっても、あり得るオプションは、いくらでもあるのです。年代の感覚も悩みどころでした。時代ごとに、内容の紙幅にバラつきがあるため、1万年間を等間隔で割り振ると、いびつな年表にになってしまうんですよね。マーカーの形も最終系の♂♀マークに落ち着くまでに、ダイヤ、黒丸と、様々な変遷をたどりました。最終的にはカバーのメインモチーフとマッチさせ、可愛らしくポップなイメージに仕上がりました。

そんなこんなで完成した渾身の年表です。是非パラパラ漫画のようにページをめくってみてください。♂♀のマーカーが、紀元前から現代まで少しずつ移動していきます。この動きに身をゆだね、1万年という壮大な時の流れを感じていただければ、デザイナー冥利に尽きるというものです。

まとめ

『性の歴史』に込めた僕のこだわりポイントをご紹介させていただきました。 本の中身に興味を持っていただき、魅力を余すところなく伝えるために、ブックデザインも心を込めて作っています。僕たちデザイナーのこだわりが、読んでくださる皆さんの楽しみに少しでも繋がることを願っています!では、次の本でお会いしましょう。

プロフィール

プレゼンテーション1

文響社デザイナー。埼玉県の山の中出身。武蔵野美術大学造形学部デザイン情報学科卒。在学中にエディトリアルデザインを専攻し、卒業後は出版社で企業の社内報製作を中心に紙面デザインの経験を積む。文響社へ転職後は、うんこドリルシリーズや書籍のデザインを担当。学ぶことだらけの毎日の中で、多くの人に楽しんでもらえる本づくりを模索中。

(文章・画像)デザイン部 森下陽介
(企画構成)出版マーケティング部 中西亮

▼『性の歴史』編集者のインタビュー

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