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「夢をかなえるゾウ」編集者・畑北斗(後編)地球に悲しみがある限り、水野敬也は書き続ける。

4月8日(木)の「夢をかなえるゾウ①②③」単行本化を記念して、編集者・畑北斗に特別インタビューを敢行!著者の水野敬也と二人三脚で歩んできた13年間を振り返り、誕生秘話から創作の裏側までを語り尽くす。

(語り手)文響社編集部長:畑北斗
(聞き手)出版マーケティング部:中西亮

一歩踏み出した、その先の物語

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(中西)
まずは、シリーズ2作目についてお伺いします。2012年出版の『夢をかなえるゾウ2 ガネーシャと貧乏神』は、売れないお笑い芸人、西野勤太郎が自分の道を見つけるまでの物語でした。

(畑)
2のテーマは「お金と幸せ」でした。夢ゾウシリーズ各巻には、水野さんが時々に抱えているテーマが色濃く反映されています。夢ゾウ1で「資本主義的な成功」を描き、水野さんご自身の生活も変わっていく中で、このテーマが浮かび上がりました。

(中西)
西野の才能は、最終的には芸人ではない方向で開花することになります。この筋書きには、どういう意図があったのでしょう。

(畑)
「自分が目指した仕事が適職ではなかった場合にも、他の道があり得る」ということを伝えたかったのです。夢ゾウ1に感化され、一歩踏み出した方が多くいました。しかし、それはゴールではなくスタートです。歩み出せば、そこにはまた壁が立ちはだかります。西野が試行錯誤を繰り返し、自分の才能の開花させるプロセスを通じ、一歩踏み出したその先を見せたかったのだと思います。

(中西)
水野先生も、そういったご経験をされたのでしょうか。

(畑)
そうだと思います。ご自身が作家という天職に辿り着くまでに、様々なトライをされていました。就職活動が上手く行かず、卒業後はアルバイトを転々とするも、なかなか自分の道を見つけられなかった。それがあるとき、天啓が降りたかのように、本を出すことを目指します。「面白いものを発信したい」という根本の動機が、「文章」という手段と結びついたのです。その過程が、西野に投影されていると僕は思っています。

女性が抱える悩みに向き合った意欲作

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(中西)
2015年の『夢をかなえるゾウ3 ブラックガネーシャの教え』は、どのような着想から誕生したのですか。

(畑)
「女性が主人公の話を作りたい」というところから創作が始まりました。実は、夢ゾウ読者の7割ぐらいは女性ですので、それは自然な成り行きでした。水野さんは男性なので迷いもあったようですが、「水野さんなら書けます」と背中を押しました。

(中西)
執筆は具体的にどのような流れで進みましたか?

(畑)
まずは、世の女性が、仕事や恋愛に関して持つ悩みを知るところから出発しました。その中で、「成功したい」「上に行きたい」という自己実現欲求を、女性も強く持っていることを理解しました。ただそれを、表層的には出さず、心の奥底に留めていることが多い。それを掘り起こし、ガネーシャなら何とアドバイスするかを考え、物語が出来ていきました。ありがたいことに、今でも女性読者から高い支持を得る作品になりました。

「死」に正面から向き合った新境地

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(中西)
昨年2020年には、最新作『夢をかなえるゾウ4 ガネーシャと死神』が発売されたのは、記憶に新しいです。

(畑)
4のテーマは「死」です。たまたま出版がコロナのタイミングと重なりましたが、死を扱う構想は2ぐらいからありました。しかし、水野さんの中で、2、3の段階で書くのは早すぎるという直感があったのだと思います。結果的に、出るべきときに出たと感じています。

(中西)
物語終盤で、ガネーシャが宗教的な死生観を説く場面があります。個人的には、シリーズの中で特に読み継がれるべきシーンだと思っています。

(畑)
そうですね。実は、初稿ではもっと宗教色が強かったんです。しかし、やや難解で一読しただけでは理解が及ばなかった。そこで、「僕みたいなものが読んでも、分かりやすい形にしてください。水野さんなら、もっと膝を打つ表現ができます」と依頼しました。言葉を足せば足すほど、水野さんが本当に感じ、考えている境地に近づきます。しかし、あまりに丁寧に言葉を尽くすと、難しすぎて読者はついてこられません。だから、編集者の立場として、「なるべくそぎ落としつつも、不足はない」というラインになるよう努めました。

作家は「原液」、編集者は「触媒」

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『夢をかなえるゾウ』が2011年のオーディオブックアワード大賞を受賞(右から2番目が水野さん)

(中西)
夢ゾウは、名言の集合体に見えて、卓越したオリジナリティがあります。これはなぜなのでしょうか。

(畑)
それは非常に重要な部分です。夢ゾウは一見、偉人の名言ありきで物語を構築しているようでいて、本当は逆なんです。実際には、水野さんの中で伝えたいことが先にあり、それに合致する名言を後から探しています。だから、オリジナリティが生まれるのです。裏話ですが、最初の原稿では名言が「空き」になっていることもあります。「偉人の〇〇が、〇〇〇〇って言うてたやろ」というガネーシャのセリフだけがあるんです。水野さん曰く、そこに当てはまる言葉は、探せば絶対にあります。調べものだけの時間を設け、国会図書館にこもって見つけ出しているのです。

(中西)
編集者目線で、水野先生はどんな作家さんですか?

(畑)
水野さんは、編集目線を持ち合わせる稀有な作家です。作家の頭でアウトプットしたものを、編集者として俯瞰できます。そのフィルターを通ったものが僕に届くので、直すところなんてほとんどありません。だから、編集者としては、めちゃくちゃ楽です(笑)

(中西)
しかし、畑さんの果たされている役割も大きいのではないでしょうか。

(畑)
僕は、編集者は「触媒」だと考えています。編集者自体は何も生み出しませんが、作家という原液に化学反応を起こすお手伝いは出来ます。水野さんのお話にリアクションをとることで、水野さんの中で考えが整理、醸成されて、アイデアが生まれていくんです。僕から色々と提案していた時期もありましたが、夢ゾウに関しては意味がないので止めました。やらない方が勢いがあって面白いものができるんです(笑)

最後まで待った。だから、水野さんと出逢えた。

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(中西)
多くの編集者がいる中で、どうして畑さんだったのでしょうか。

(畑)
強いて言えば、「待つ」ことが出来たからだと思います。仕事としての編集には締め切りがありますから、執筆が進まないと作家を鞍替えする編集者も多いのが実情です。それでも僕は、水野さんに関しては諦めきれなかった。僕にとっては水野さんという存在自体がとてつもなく面白かったので、仕事というより動物園にパンダを見に行くような感覚で(笑)、ことあるごとに会いに行っていました。だから最後まで脱落せず、水野さんを担当することが出来ました。あるとき、水野さんがぼそっと言ってくれたんです――「最後まで付き合ってくれたのは、そういえば畑さんだけでしたね」と。これは嬉しかったです。編集者冥利に尽きますよ。

(中西)
畑さんご自身にとっても、夢ゾウで人生は変わりましたか?

(畑)
もちろんです。僕は27歳で編集者になってから、夢ゾウまで7年間ヒット作を出せませんでした。編集者に向いていないんじゃないかと思ったこともあります。でも水野さんと出会い、人生が一変しました。水野さんの傍で、ミリオンセラーに携われたことは本当に得難い経験でした。そして、「自分は運が良い」と思うと、人生はどんどん良い方に動いていきました。人生捨てたもんじゃないと思います。

地球に悲しみがある限り、水野敬也は書き続ける

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イラスト:矢野信一郎

(中西)
水野先生の執筆の原動力はどこから来るのでしょうか。

(畑)
ご自身曰くですが、水野さんは学校の潮流の中で、ある種ピラミッドの下の方にいました。だから、その人たちの苦しみやジレンマがよく分かるんです。辛い環境でも水野さんは諦めず、「僕がその人達を救う」という方に向かいました。世の中、何かが欠けていて、辛い思いをしている人がほとんどです。僕自身もそうです。だから近しいものを感じていました。水野さんが考えるテーマや書く言葉は、きっと誰かを救うと信じているから、傍らで編集をやっています。

(中西)
今の水野さんの目には、何が見えているのでしょうか。

(畑)
昨今の水野さんは、達観しています。もともとは個人的な自己実現がテーマでしたが、最近では人類全体を視野に捉えていると感じます。例えば、最近の大きなテーマの一つは、「地球温暖化」です。時々の人生のテーマが本に落とし込まれているので、年代順に読んでいくと、水野さんのマインドの変遷が分かりますね。

(中西)
水野さんが満足し、創作が止まる不安はありませんか。

(畑)
それは全くありません。水野敬也は、間違いなく死ぬまで書きますね。自分では言わないですけど、作家としての使命感があるんだと思います。伝えたいことがあるんです。水野さんは、世の中の人みんなに幸せになって欲しいと本気で思っています。だから、地球のどこかに悲しんでいる人がいる限り、その人を救うために書き続けると思います。

(中西)
本日は、大変貴重なお話をありがとうございました。

「夢をかなえるゾウ」単行本発売は、4月8日(木)!夢を抱いて、書店へZO!ごっつい教え用意して、待ってるでぇ。


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