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10.涙は枯れた(最終回)

もう泣かなくていいんだ。
泣きたい気持ちはあるにはあるけど、
これはもう、ちゃんと、おわったんだ。


彼女がいたことを知って、
これまでの信頼は崩れて、
いろんなことは嘘になって、

もう、友だちには、戻れなかった。


3日前まで、戻ろうとしてた、できてた。
そのままでいる選択肢もあった。
終わらないことも、アリだと思った。
自分にはできると思った。

だけど、終わらせたくない気持ちが
たぶん、自分をジリジリと追い詰めてた。

毎日自分を奮い立たせてた。
迷わないように、揺らがないように、
これを正解にしていくんだと。


自覚した恋心を封じて、なかったことにして、
友だちとしての関係を選んで、続けて、
いまやっているSNS運営の共同作業を、
楽しみながらまわして、目標に向かって走って、
走って、一緒に…ずっと…?


…だめだ、どうしても距離感が保てない。
連絡をとっていてもそれ自体は
苦しくはならないんだけど、
常時接続がキープ状態。
むしろ、3日ごとの電話、加速している。
これは、異常だ。
意識がどうしても、占有されてしまう。

有意義だし、楽しいし、求められてるし、
わたしにしかできないと思っちゃってるし、
誰とも比べられない「何か」になれそうな
気持ちになっちゃうんだ。
比べて誰よりも特別な「何か」になれそうな
期待がわいてきちゃうんだ。


同じものを見ているよね。
これって楽しすぎるよね。


この楽しさの裏側で、
いろんなことが怖くなる。不安が増える。

求めてもらえてるのは役に立つからか、
期待されてることを返せるか、
この楽しさにいつか「おわり」がくるのか、
何もない状態ではもうつながっていられないのか。


友だちなら本当は怖くないはずのことも
とにかく怖い。
脆く曖昧なものの上に立つかんじ。
しっかりしなきゃ。やれるはず。
楽しいのは本当、でも、怖い。
この、いったりきたりの振り幅に
どんどん耐えられなくなってくる。

これは、自分が自分じゃいられなくなってる。

どうなりたいか、がブレてる。
このままでいいのに、の前提が虚構だから。
ないものを望んでる。嘘の世界を見てる。


こうして崩れていくバランス。
これは、ちがう。
この先に、望むものは、ない。

こうして「絶つこと」を決意した。


このあと少し話せる?と、電話の約束をした。
 
電話口で「大丈夫?疲れてる?」と彼が言う。

テンション低めの声に、すぐに気づく。
泣ける。はやいぞ。笑

私「ごめん、聞いていてあまり気分のよくない話に
  なっちゃうんだけど」

はい、もう、泣いた。はやい。

私「結論から言うと、もう手伝いはできない。
  やってて、楽しかったのは本当だったんだけど、
  距離がたぶん近づきすぎて、バランスが崩れて、
  怖いものがふえたり、気にしすぎちゃって、
  気にしなくていいことに不安になって、
  楽しかったんだけど、
  この振れ幅に耐えられなくなって、
  自分が自分でいられなくなって、
  もう無理だな、ってとこに至った」

最初はたぶん背景までわかってなくて、
普通にしんどくなったからSNS手伝うのやめる、
で聞いていたみたい。
「ぜんぜん大丈夫だよ、ごめんね、ありがとね」
みたいな。


彼女いるのかくしてんじゃねぇよ!
どんなつもりだったんだよ!

…とは言えず。
というか、そこはわたしには言わせないでよ、、

だんだん回りくどくわたしは言う。
私「いつも言いたいことも思ってることも
  すごくよくわかってくれちゃうから
  たぶん言わなくてもだいたいわかってるのかなって
  思っちゃうんだけど。
  知らなくていいことを知ったとおもうのね。
  わたしはいつも、わかってくれてるそのままだった
  けど、君はちがったよね。
  それによって変わってしまったよね。
  過去が変わってしまうよね。
  わたしは自分がよくわからなくなってしまった。
  役に立つ必要があるだけだっけ、とか
  そこに応えればいいんだっけ、とか」

まわりくどすぎたかな。

「なんの話かよくわからなくなってるけど、なにかわかる?」みたいに聞いて「うん、わかる、そういうことだよね」みたいなリアクションではあった。
(肝心なところ、ちょっと記憶があいまい)

彼「つらいおもいさせてごめん」

私「まぁ、つらい、うん、つらいんだけど
  ずっとつらいわけではなくて
  楽しいだけがよかったのにな
  楽しいだけでよかったのにな
  違ったからな
  違ったことになったからな」
 
なんだか意味のわからないことを言うわたし。
ぜんぜんうまくいえない。

彼「利用したとかではないよ。
  俺も楽しかったよ。」

そっか。
そう、楽しかったよね。
ここは本当に、そうだったんだよ。

だけど、もう終わるんだよ。
これは、さいごなんだよ。

私「せっかくのプランが、やるって言ってたことが
  途中になっちゃってごめんね」
彼「それはぜんぜん大丈夫だよ、
  つらいおもいさせてごめん」
私「楽しかったということ、
  本当にありがとうだらけだったこと、は
  伝えておきたい」
彼「俺もありがとう、楽しかったよ、
  これは伝わってほしい」

こうして、「じゃあね、おやすみ」で電話を終えた。


きっとわたしは、
「嘘ついててごめん、傷つけてごめん」が
聞きたかったんだと思う。
この結果になってしまったことを、自分のせいだと
自覚して彼にも傷ついてほしかったんだと思う。

きっと、本当はもっと責めたかったんだ。
けど、できなかったんだよね。

核心ワードにはふれない会話だから、
そうしたのは自分だから、仕方ないんだけど
表面上のごめんみたいな気がした。
受け止め方まで見えなかった。
直球を投げていないから、なんだけどさ。

これは、これで、しゃーなし。
そんなにうまくいかないよね。
この会話にキレイな着地なんてないもんな。
どう転んでもどっちもしんどい時間、ってだけ。
やるだけやったさ。


途中、BGMはイスラムの祈りの声。
ちょうど夕方の礼拝タイム。
こんなところで、異国を感じる。

彼はいつも、遠いところにいる。

それでも、すごくすごく近くに感じてた。
コミュニケーションがこんなにも成り立っていたから。
たくさんの会話をしてきたから。
わかりあえてたから。
そこに距離も時差も感じなかった。

でも、遠かった。


縁は、切った。

彼のためにはもう泣くな。

自分のために進め。

あんなに泣いてたのに、電話を終えると
不思議と、涙は止まった。


わたしは、世界平和までは到底引き受けられないけど
わたしは、わたしのまわりの世界の平穏を祈る。

世界を変えようとする君へ
どうかたくさんの命を救ってください。
未来をつないでください。

ー完ー

このマガジンに最終回がくるとは
予測してなかったんだけど。
無事に終えました。マガジン「失恋ライフハック

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