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現代詩の入り口

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2023年8月の記事一覧

「現代詩の入り口」19 ― 言葉っていつも新鮮なものなんだなと感じたかったら、柳本々々を読んでみよう

「現代詩の入り口」19 ― 言葉っていつも新鮮なものなんだなと感じたかったら、柳本々々を読んでみよう

本日は柳本々々(やぎもと・もともと)さんの詩を二篇読んでみようと思います。では最初の詩から。



「ソファーが来るまでの待つような会話」  柳本々々

青いソファーがくるという。ソファーがくるなら、部屋に空間をつくらないとだめだよね?と聞くと、くうかんってなんのこと? と言う。だってあれだよ

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「現代詩の入り口」18 ― 命をしっかりつかんでいたかったら、野木京子を読んでみよう

「現代詩の入り口」18 ― 命をしっかりつかんでいたかったら、野木京子を読んでみよう

本日は野木京子さんの詩を読みます。とてもいいですよ。

次の十篇です。

「鏡の空と幻獣」 (『クワカケルル』)
「ティルトシフト」 (『クワカケルル』)
「空の水」 (『クワカケルル』)
「ウラガワノセイカツ」 (『クワカケルル』)
「渦のもの」 (『クワカケルル』)
「声のひび割れ」 (『クワカケル

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「現代詩の入り口」17 ― 詩を書くことの、喜びとさびしさに触れたかったら石原吉郎を読んでみよう

「現代詩の入り口」17 ― 詩を書くことの、喜びとさびしさに触れたかったら石原吉郎を読んでみよう

かつて、石原吉郎の詩を読んでは、その詩とともに一日を過ごしたことがあります。ここに載せるのはそれらの日々です。99篇あります。なぜここでやめたのかを、ぼくは思いだすことができません。

(1)

時間・2   石原吉郎

それでいい町なのだろう
それでいい人間なのだろう
男とはいわない
だが来たのに

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「現代詩の入り口」16 ― わたしたちの詩の源を知りたかったら、萩原朔太郎を読んでみよう。

「現代詩の入り口」16 ― わたしたちの詩の源を知りたかったら、萩原朔太郎を読んでみよう。

本日は萩原朔太郎の詩を七篇読んでみます。

ここに載せる文章は、昨年(2022年)の講演のために用意した草稿ですが、時間の関係で話せなかったものです。ぼくの読み方で萩原朔太郎の詩を読んでいます。次の7篇です。

ありあけ
愛憐
恋を恋する人

大砲を撃つ
殺人事件
掌上の種



ありあけ

ながい疾

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「現代詩の入り口」15 ― 揺るぎない詩のあり方にふれたかったら、好川誠一を読んでみよう

「現代詩の入り口」15 ― 揺るぎない詩のあり方にふれたかったら、好川誠一を読んでみよう

好川誠一の詩を読んでみようと思います。好川さんは詩誌「ロシナンテ」の同人でした。何年か前、粕谷栄市さんとお酒を飲む機会があって、その時に粕谷さんが「松下さん、好川の詩について書いていましたね」と言ってくれたことを思い出します。ああ、読んでいただいていたのだなと、それだけでぼくは感激していたのです。

それで

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「現代詩の入り口」14 ― めそめそしていない叙情に浸りたいなら、富岡多恵子を読んでみよう

「現代詩の入り口」14 ― めそめそしていない叙情に浸りたいなら、富岡多恵子を読んでみよう


富岡さんの詩を読んでまず感じることは、詩というものを書こうという焦りや、変な欲が感じられないということです。なんだか普通の文章をそのまま書いて、どこかの縁側で足をぶらぶらさせても詩が書けちゃう、そういうのが詩だと考えている、そんな感じがするんです。
言い方を変えれば、なんでも詩にできちゃう人っていう

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「現代詩の入り口」13 – 言葉の前に立ち尽くしたいなら、三角みづ紀の詩を読んで見よう

「現代詩の入り口」13 – 言葉の前に立ち尽くしたいなら、三角みづ紀の詩を読んで見よう

本日は三角みづ紀さんの詩を読んでみようと思います。三角さんともZoomで対談をしました。その時に用意した資料になります。

次の10篇です。さて始めましょう。わくわくします。



ヒューストン (『オウバアキル』)
しゃくやくの花 (『カナシヤル』)
切愛 (『はこいり』)
追伸 (『はこいり

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「現代詩の入り口」12 - 胸に直接響く詩を読みたかったら、宮尾節子の詩を読んでみよう

「現代詩の入り口」12 - 胸に直接響く詩を読みたかったら、宮尾節子の詩を読んでみよう

この原稿は宮尾さんとの対談のために用意した原稿です。宮尾さんがご自身で詩を朗読して、そのあとで僕が解説をするという手順でした。書いた本人の前で詩を解説するというのはとても緊張します。

(1)

グッド モーニング 宮尾節子

コップ一杯の
水道の水が
ひとりの大人の人間を
立ちあげる
いちばん正しい
飲み物

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「現代詩の入り口」11 – 息をのむほどの表現に出会いたいのなら、石松佳の詩を読んで見よう

「現代詩の入り口」11 – 息をのむほどの表現に出会いたいのなら、石松佳の詩を読んで見よう

それでは、本日は石松佳さんの詩を4篇読んでみます。

絵の中の美濃吉    石松佳

たとえば長い回廊があったとして、同じ服を着た二人の女が理容院の鏡のように並んで走り抜ける。売れ残った林檎。瑞々しい陶片を拾うために美濃吉は労働をして過ごした。玻璃質の冷涼な大気の中で、美濃吉の腎臓はとく、とく、と健やかに

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「現代詩の入り口」10- 死について考えるのなら、北村太郎の詩を読んで見よう」

「現代詩の入り口」10 -死について考えるのなら、北村太郎の詩を読んで見よう」

朝の鏡 (北村太郎詩集 1966)
存在 (北村太郎詩集 1966)
冬林 (おわりの雪 1977)
直喩のように (おわりの雪 1977)
おわりの雪 (おわりの雪 1977)
ハーフ・アンド・ハーフ (あかつき闇 1978)
ピアノ線の夢 (ピアノ線の夢 1980)
<悪の華> 30 (悪の花

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「現代詩の入り口」9 ― 世界を新鮮に見直したかったら、竹中優子の詩を読んでみよう

「現代詩の入り口」9 ― 世界を新鮮に見直したかったら、竹中優子の詩を読んでみよう

本日は、竹中優子さんの詩を3篇読んで見ようと思います。

「攫う」「なぞる」「草冠」の3篇です。竹中さんは若い詩人です。今年の初めにZoomで対談をしました。ただ、文字おこしができていないので、できたらいつかここに対談を載せようと思います。

それでは読んでみましょう。

攫う 竹中優子

川をする、というのが

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「現代詩の入り口」8 ー 愛について考えたくなったら、吉原幸子の詩を読んでみよう

「現代詩の入り口」8 ー 愛について考えたくなったら、吉原幸子の詩を読んでみよう

「現代詩の入り口」8 ー 愛について考えたくなったら、吉原幸子の詩を読んでみよう

★第1回「路線」〜「花のもとにて 春」1983
★第2回「母恋ふる日記3 かゆい日」〜「花のもとにて 春」1983
★第3回「母恋ふる日記4 マンガを読んだ日」〜「花のもとにて 春」1983
★第4回「花占ひ」〜「花のもとにて 春」1983
★第5回「覚え書」〜「花のもとにて 春」1983
★第6回「あのひと」〜「

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「現代詩の入り口」7 - 叙情にさわったまま眠りたかったら、峯澤典子の詩を読んでみよう

「現代詩の入り口」7 - 叙情にさわったまま眠りたかったら、峯澤典子の詩を読んでみよう

叙情にさわったまま眠りたかったら、峯澤典子の詩を読んでみよう


それでは本日は峯澤典子さんの詩を二篇読んで見ようと思います。峯澤さんとは昨年何回か対談をやっていて、そちらの方は昨年の「現代詩手帖」(10月号)に載っていますので、興味のある方は見てください。それでは読んでみましょう。



「袋」

ベルクール広場からバスに乗り
丘のうえの学生寮に向かう
くねる道を登り
さっき電車を降

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「現代詩の入り口」6- 言葉の自由さを知りたかったら、廿楽順治の詩を読んでみよう

「言葉の自由さを知りたかったら、廿楽順治を読んでみよう」

それでは、今日は廿楽順治さんの詩を二篇、読んでみます。廿楽さんとは、これらの詩についてZoomで対談をしていますので、その文字おこしが済んだら、対談もここに載せるつもりです。ともかく詩を二篇、読んでみましょう。

「新大津歩道橋」

おじいさんが
なんにんもつながって橋になっている
(あぶないなあ)
ひとがしずかにわたっている風景を
みん

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