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ボタニカルコミュニケーター

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「なぜ人は花を美しいと思うのか」という答えのない問いを追いかける連載です。
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#お花のある暮らし

#17 花びらの引っかけ問題④

#17 花びらの引っかけ問題④

花弁とガクの境界がどこにあるのか、というお話は、実は植物の研究者の間でもまだ答えが出ていません。

多くの植物では、ガクには葉のように葉脈があり、緑色をしていることが多いです。花弁と比べて厚さがあることが多いです。また、花弁が散ったあとも茎にくっついたままであることも多いです。
一方で、花弁にも葉脈のような脈(花脈)があります。食紅で色をつけた色水を吸わせてみると観察できます。花弁は薄くて柔らかく

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#16 花びらの引っかけ問題③

#16 花びらの引っかけ問題③

さて、第3問です。これが一番難しいかもしれません。

写真の花、グロリオサの花びらは、どれでしょうか?
ヒントは、グロリオサはユリの仲間なので、ユリと同じ花の作りをしています(ヒントになってるのかな?)

よく花の形と要素を見て、考えてくださいね。
ちなみに、花屋ではユリの花粉がお客様の所で服や壁につくと大変なことになるので、花粉が入った葯(やく)はなるべく取るようにしています。

さて、そろそろ

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#15 花びらの引っかけ問題②

#15 花びらの引っかけ問題②

さて第2問です。
写真の花、クリスマスローズの花びらは、どれでしょうか?

さて、こういう問題になるということは、私たちは植物の思惑によくひっかかるということです。
花のつくりをじっくり観察してみて下さい。ガクはありますか?雄しべや雌しべは?じっくりと分解してみていくと、答えはわかるはずです。

そう!クリスマスローズの花びらは、ありません!(なんと!)
花弁は退化して、雄しべの周りにある"蜜腺"

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#14 花びらのひっかけ問題①

#14 花びらのひっかけ問題①

前回までは、花びらに見えている部分が実は花全体、というパターンをお話してきました。
花をみるときには、注意しておかないとよくひっかかってしまいます。

では、写真の花、カラーの花びらはいったいどこにあるでしょうか?

カラーの花の白い部分は、実は花びらではなく、ガクです。真ん中の黄色の部分が花です。こういった花を包み込むようなガクの形は、仏像の背中側にある炎の彫刻に似ていることから、仏炎苞と呼ばれ

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#13 私たちが花びらと呼ぶもの③

#13 私たちが花びらと呼ぶもの③

"花びら"、つまり1つ1つの花が全て舌状花になったら、どうなるのか。
写真のキク(ピンポンマム)は、まさにそのような花の形をしています。

舌状花がたくさんあつまると、ボリュームが出て、全体として豪華に見えるようになります。こういった花の形を"八重咲き"と呼び、様々な植物の花で八重咲きの品種が作られています。

では、植物目線だと、八重咲きってどうなんでしょうか。

ほとんどの場合、舌状花の雄しべ

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#12 私たちが花びらと呼ぶもの②

#12 私たちが花びらと呼ぶもの②

キク科の花では、花びらに見えるものが、実は1つ1つの花になっています。
タンポポをイメージすると分かりやすいかもしれません。タンポポの綿毛は、1つ1つに種がついていて、飛んでいきますよね。

花が咲いた後、実や種ができたときに、花だったものがどんな形になっているかを考えると、どれが本当の"花"なのかが見えてきます。

さて、花の形が広がった舌状花になるか、すぼまった管状花になるかは、CYCLOID

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#11 私たちが花びらと呼ぶもの①

#11 私たちが花びらと呼ぶもの①

花占いをしたことはありますか?
花びらを1枚ずつ取りながら、あの子は私のことを、スキ、キライ、スキ、キライ…
最後に残った花びらで、スキになるのか、キライになるのかを占う…そういう遊びです。
花びらの数がぱっと見て数えられてしまうと面白くないので、花占いをする時は、花びらがたくさんある花を選びます。

さて、私たちが普段"花びら"と呼んでいるものは、実はそれぞれが1つの花です。

写真のようなキク

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#10 花のつくりはABC

#10 花のつくりはABC

茎の先端にある茎頂分裂組織の小さな細胞がそれぞれ、ガク、花弁、雄しべ、雌しべという花の器官に分かれて成長していくために、植物はどういう制御をしているのでしょうか。

植物の研究者は、前回のカーネーションのような様々な"変な花"を集め、観察し、ABCモデルという考え方によって花器官の制御の仕組みを明らかにしました※。

2枚目の画像でABCモデルを簡単に説明します。

茎頂分裂組織では、A、B、Cの

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#9 花の先祖返り

#9 花の先祖返り

写真は何でしょうか。マリモ?

実はこれはカーネーションです。テマリソウという品種です。花びらが全部芽のような緑の葉になる変わり咲きです。
花のつくりは、一般的に外側から内側へガク、花びら、雄しべ、雌しべの順に並んでいますが、このカーネーションのテマリソウは全部がガクになってしまっています。

もうお分かりになると思いますが、花は葉から生まれた器官です。花が葉と同じ緑色だと目立たないので、花は花び

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#8 花から葉っぱが出た?

#8 花から葉っぱが出た?

植物に花というものが無かった所から、花がどうして生まれたのか、その答えも植物が教えてくれます。

植物の体の組織は色々ありますが、大きくは3つに分けることができます。根、茎、葉です。体を固定し水分や養分を吸い上げる根、体を支え血管のように水分や養分を行き来させる茎、光合成によって養分を作り出す葉です。
では、花はこの3つの中でどれに属する組織でしょうか。

写真の花を見てみてください。この花もバラ

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#7 花の形はいろいろ

#7 花の形はいろいろ

前回まで3回に渡って、花の進化の歴史を駆け足でたどってきました。現在、地球上の全植物種数は約27万ともいわれ、日々新種が発見され続けています。

植物の分類は、形態や交配可能かどうかや遺伝子解析で行われます。それだけたくさんの植物があるということは、花の形も様々あります。例えば、バラ、チューリップ、アジサイでは、花の形が違いますよね。

花は、交配して子孫を残すため、花粉や生殖器官を守るための植物

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#6 植物の進化と花の誕生③

#6 植物の進化と花の誕生③

#6 植物の進化と花の誕生③

前回は、植物にとっての種の発明と、マツやスギなどの裸子植物の戦略をお話しました。

しかし植物はこれに満足せず、さらに考えます。「もっと効率よく、短期間で種を作るにはどうしたらいいか」と。

例えば、スギの花が咲く季節、つまりスギ花粉の季節は早春ですが、種が完成する季節は12月です。交配してから受精して種ができるまで、とても時間がかかります。せっかく大量の花粉を飛ば

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#5 植物の進化と花の誕生②

#5 植物の進化と花の誕生②

植物は他の個体との交配によって、様々な遺伝子を獲得し、環境の変化に適応していきました。
花の進化とは、植物がどうやって他の個体と効率よく交配するか、どうやって様々な環境で生き残っていくか、その試行錯誤の結果とも言えます。

植物は、初めはシダやコケのように胞子で自分のテリトリーを広げていましたが、ある時、"種"という画期的な発明をしました。

種は小さく軽く、風や水の流れによって遠くに運ばれ、まだ

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#4 植物の進化と花の誕生①

#4 植物の進化と花の誕生①

地球上で最初に生まれた花とは、どういうものだったのでしょうか。

地球上で初めて"植物"と呼ばれた生き物は、光合成をするひとつの緑の細胞でした。
そこから植物は自分の体を分裂させて、仲間を増やしていきました。
(実は植物は自分のコピーをクローンのようにどんどん増やせます。このあたりのお話は後ほど)

しかし、自分を分裂させたコピーは、自分と全く同じ性質なので、今現在の環境には適応できていても、急に

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