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『バカの壁』養老孟司

概要

『バカの壁』は、解剖学者である養老孟司氏が2003年に発表したベストセラーで、私たちが無意識に持つ「壁」について考察した一冊です。養老氏が言う「バカの壁」とは、知識の有無や学歴とは無関係に、人が理解できない、理解しようとしない事柄をシャットアウトしてしまう姿勢のことを指します。この壁がある限り、どれだけ説明しても分かり合えない、ということが本書の核心です。著者は「話せばわかる」とよく言われますが、それは幻想であり、人にはそれぞれに越えられない壁が存在するということを指摘します。本書では、そんな「バカの壁」を形成する具体的な特徴や、それにどう対処すべきかが議論されており、自己啓発的な要素も感じられる内容です。

本のジャンル

哲学、自己啓発

要約

『バカの壁』の中心にあるテーマは、「人には他者と分かり合えない部分がある」ということです。これは、単に学歴やIQの問題ではなく、人が持つ心理的・認知的なバリアが原因であると養老孟司氏は述べています。このバリアを「バカの壁」と表現し、著者は私たちが無意識に設ける「壁」によって理解やコミュニケーションが遮られる様子を解説しています。

まず、著者は「話せばわかる」という考え方を批判します。現実には、どれだけ説明を尽くしても、相手に理解されないことが多くあるからです。特に自分の知らない世界を拒否し、理解しようとしない姿勢が「バカの壁」の主要な要因であると指摘しています。養老氏が述べるように、バカの壁は学歴や知識の多さとは無関係で、東大のような高学歴の学生でさえもバカの壁を持っていることがあるとしています。

本書では、特に「自分の知らない世界を知ろうとしないこと」がバカの最大の特徴だと述べられています。この「壁」は、自分に関係ない情報や不都合な事実を遮断し、自分に都合の良い情報だけを取り入れようとする心理から生まれます。これによって、人は自分の世界観を守るために、他者や異なる意見を理解しようとする努力を怠ってしまうのです。

さらに、養老氏はバカな人々の三大特徴を挙げています。それは「わかった気になりがち」「個性を大事にしすぎる」「正解が一つだと思い込む」というものです。

1. わかった気になりがち
養老氏は、特に「わかった気になる」という心理状態を危険視しています。人は、浅い知識だけで物事を完全に理解したと思い込むことがよくありますが、これは誤解のもとであり、深く考えたり調べたりすることを避ける原因となります。例えば、養老氏は授業で妊娠や出産の映像を見せた際、女子学生は深い理解を示したのに対し、男子学生は「保健体育で習ったこと」として浅い理解しか示さなかったと述べています。これは、男子学生が「わかった気」になってしまい、深く知ろうとする姿勢が欠如していたことを示しています。

2. 個性を大事にしすぎる
養老氏は「個性を大事にしすぎる」という現代の風潮に対しても批判的です。個性を重視するあまり、他者との共感や理解をないがしろにし、自分だけが正しいと考えるような態度が「バカの壁」を強化します。成功者の個性とは、多くの人に受け入れられる「理解できる個性」であり、真の意味で「人と違う個性」は成功に直結しないことを指摘しています。

3. 正解が一つだと思い込む
最後に、養老氏は「正解が一つだと思い込む」ことの危険性について述べています。特に、学校教育において唯一無二の正解を求める姿勢が強調されることが、社会に出た後の柔軟な思考を阻害していると指摘します。例えば、解剖学の授業で学生が「この頭蓋骨は大きい」とだけ答えた事例を挙げ、もっと複雑で多様な視点から物事を考える必要があることを強調しています。

これらの特徴をもつ人々が持つ「バカの壁」は、自己中心的で、視野が狭く、他者と共感や理解を深めることができない人々を指します。しかし、養老氏はこの「バカの壁」が誰にでも存在する可能性があり、自己反省を持って取り組むべき課題であると説いています。

まとめ

『バカの壁』を読んで感じたことは、人間関係において「分かり合えない部分がある」という現実を受け入れることが大切だという点です。特に、自分の知らない世界を知ろうとする努力を怠ることが、無意識に私たち自身の「バカの壁」を形成してしまうという指摘にはハッとさせられました。私たちはしばしば、わかったつもりで物事を片付けてしまいがちですが、実はそれが大きな理解の妨げとなっていることが分かります。

また、個性を大事にすることのリスクや、正解が一つだと思い込む危険性についても、現代社会で再考すべきテーマだと感じました。私たちが成功や自分らしさを求める一方で、他者との共感や理解を無視してしまうような姿勢に陥らないよう、注意が必要です。

『バカの壁』は、他者とのコミュニケーションや自己反省を促し、私たち自身の「壁」を乗り越えるためのヒントを与えてくれる一冊です。養老氏の鋭い洞察力に基づく提言が、日常の行動や思考に対する見直しを促してくれることでしょう。

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