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「苦い経験」に囚われない男

かつてのビートたけしさんがこういう感じでした。知性とウィット、毒と優しさ、制御と非制御の絶妙なミックス。常識的なだけの「正論」や非常識過ぎる「暴論」は誰でも言えます。でも両者の長所を汲み取ったスマートな「提言」は見識に富んだ人にしかできません。

顰蹙を買うか否かのボーダーラインを綱渡りして笑いを生み、且つ読者を「確かに」と頷かせる視点を入れることで「侮り」を回避する。「森さんにスポークスマンをやらせた周りにも問題がある」「文春とか週刊誌が銀座で張ってる」など。

私の知る限り、蝶野さんもこの種の放言&報道に振り回されたことが何度もあります。

98年9月。彼は首を負傷してタイトルマッチをキャンセルし、8度目の挑戦で獲ったIWGPヘビー級王座を返上しました。ボスとして率いる「nWoジャパン」の人気がピークに達していた頃です。8月には池袋のサンシャイン噴水広場でトークイベントも催されました(塾の夏期講習をサボって行きました)。

そんな絶頂期に欠場を決めるぐらいだから、かなり状態が悪かったはず(著書によると医師から引退勧告を出されたとか。階段を下りることすらままならなかったそうです)。「1年ぐらいムリかな」と落胆しました。少なくとも半年は戻れないだろうと。ところが翌年2月に復帰。嬉しかったけど戸惑いました。いくらなんでも早過ぎます。

これも著書で知ったのですが、蝶野さんは会社に「最低でも半年はかかる」と伝えていたそうです。すると2月に復帰戦のカードを発表されてしまったと。一方的に。しかも「蝶野正洋 vs 武藤敬司&ヒロ斎藤」のハンディキャップマッチ。あり得ないですよね。

結局ファンへの責任を果たすため、彼は最後の試合になる覚悟でリングに上がりました。そして「コンディションは3%」と正直にコメント。でも週刊プロレスの記事では「蝶野の首、不安なし!」。怖くないですか? 

そういう苦い経験を重ねた人の多くは相手への憎しみに囚われます。「老害に振り回されるのはうんざり」「マスコミを信じるな」的論調に終始するはず。でも蝶野さんは言うべきことを言った上で「こうしたらどうですか?」という解決策もユーモラスに提示できるのです。器がデカい。

勉強になりました。少しでも近づけるように精進します。


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