「阪神タイガース・中野選手の行動」と「棚下のストッカー」
書店のストッカーをご存知ですか?
棚下にある引き出しです。本や備品が収納されています。基本的にはどこのお店でもお客さんが開けるのはNGのはず。何かお探しの場合は従業員にお訊ねくださいませ。
新人時代にお世話になった、ある女性の社員さんを思い出しました。
物腰が柔らかくていつもニコニコ。接客も絶品で、カバーの掛け方やおつりの渡し方が茶道のお手前みたいでした。年配のお客さんからよく褒められていた記憶があります。
しかしある日、見てしまいました。彼女が担当する棚のストッカーを靴の爪先で引っかけ、立ったまま開け閉めしている姿を。
その一事だけで見る目が百八十度変わることはありません。完璧な人はいないので。でも純粋にダメだろうと思いました。お客さんが見ていないとか関係なく。本に失礼みたいな話でもない。言葉にするのは難しいけど、目先の合理性へ溺れることと引き換えに、もっと大切な目に見えぬ何かを不可逆的に失ってしまう。
さて、阪神タイガースの中野選手。
ファインプレーを見せた直後、右翼の芝生がはがれていることに気づき、それを拾って丁寧に素手で元の位置へ埋め直した行動がファンに称えられています。
二塁が定位置ゆえ、働きやすい環境を整えるのは当たり前かもしれない。けど足ではなく素手で丁寧に、というのがさすがでした。一流は気構えが違いますね。
自分はどうか?
暇な時や事務所にいる際は愚痴をこぼし、誤って大事な本をしばしばフロアへ落とす。ストッカーを覗くのが煩わしいと感じた経験も一再ではない。一流とは程遠い人間です。でもせめて、絶対に足では開けたくない。仮に会社やお客さんがOKでも己の問題として。矜持とか美学なんてカッコいいものじゃなく、ただなりたい自分とは違うから。
意識づけのキッカケをもらいました。中野選手、ありがとうございます。