「排除」はしたくない。でも「一線」は守りたい

3~4年ほど前。

ある人が政府の某感染症対策に対し、疑問を投げ掛ける本を出しました。

読み込んだうえで当時は少数派だった彼の主張に同意し、多くの人に紹介したいと平積みにしました。しかし休み明けに出勤すると平台から姿を消し、2冊だけ棚差しになっている。売れたのかと思いきや、データを見るとごっそり返品されていました。発売されたばかりなのに。

店長に訊ねたら「右の人の本を置きたくない」「そういう店だと思われたら困る」という返答でした。右? たしかにリベラルな思想の持ち主ではない。でも反原発で女性天皇に賛成しているし、むしろ右の論壇から嫌われているはず。

確信しました。「店長、最近のこの人の本や主張に触れてないな」「昔の過激なイメージに囚われているな」と。

一方、同じ職場にいた社員の人がこんな昔話をしていました。

「○○店にいた頃、平台の右側に右系の本を、左側に左寄りの本を集めて積んだことがある」

店長にはすぐ気づかれたそうです。でも介入はされなかったとのこと。

書店員によって考え方は様々。私のそれは後者に近いです。

正直「この人の本を置きたくない」という書き手はいます。でもそれを理由に即返品はしたくない。私の判断が正しいなんて確証はないから。価値相対主義に甘えて思考停止しているわけではなく、読んで考えた人が何が正しいかを決める主体だと思うから。

ただそうはいっても、自分が読んで感銘を受け、お店の客層に合ってそうな本を仕入れることはあります。スペースが限られている以上、他の本を棚から抜かないといけない。その際は直近の売り上げという客観的なデータだけではなく、棚担当の主観も判断基準になる。

売れている本を、内容に賛同できないという理由だけで返すことはしません(会社判断で置かないことはあります)。しかしそういう本でなおかつ売り上げが立っていなければ、早めに返品するケースはあり得る。そしてその判断が正しいかどうかを己に問う。例の店長と同じ過ちを犯さぬためには、情報のアップデートが欠かせません。

そんなわけで、いま興味を抱いている本がこちら。

著者の福嶋聡(ふくしま あきら)さんは書店員です。↑によると1982年にジュンク堂書店へ入社。仙台店店長、池袋本店副店長などを経て2022年2月まで難波店店長を務めました。

福嶋さんはいわゆる「ヘイト本」に批判的です。だからといって排除はしないとのこと。まだ読んでいないので推測ですが、おそらく棚から削除しても差別をなくすことには繋がらないという見解ではないでしょうか? 

これは本当に難しい。雑誌担当をしていた頃、差別的な特集を組んだ月刊誌が爆発的に売れたことがあります。でもあえて追加注文をしなかった。精一杯の抵抗でした。

両論併記。排除はしたくない。お客さんのニーズに応える姿勢も大切。しかし売り逃したとしても守るべき一線は守りたい。バランス感覚を磨くべく、先人の知恵からいろいろ学びたいです。

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