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書店員が語る「最大の喜び」

本屋の仕事には「返品」も含まれます。売れない本を出版社へ返す作業です。楽しいとは言えませんが必要なこと。

在庫を抱えているとそれだけで財政的に店を圧迫します。かつて働いていた町の書店では「末日までにこれぐらい返さないと来月の仕入れができない!」なんてケースがザラにありました。

ただし返品されるからダメな本ということでもなく。。。

数年前、仕入れ室で雑誌に付録を挟み込む作業をしていたら文芸担当が返品する本を置いていきました。その中に「おや?」と目を引く一冊がありました。クールな装丁は大事。本の内容が焼き鳥の「味」なら装丁は「匂い」です。まず食欲をそそらなきゃ良し悪しを判断する俎上にも乗れません。

さっそく手に取り、パラパラと捲ってみました。外国の詩集です。「面白い」「何で返すのか」と首を捻り、退勤後に購入しました。

その本が↓です。

裏表紙に「ぼくの精神には一筋の白髪もないし、年寄りにありがちな優しさもない!」「声の力で世界を完膚なきまでに破壊して、ぼくは進む、美男子で二十二歳」とあります。この引用だけで惹き込まれませんか?

マヤコフスキーは19世紀末~20世紀初頭に活躍したロシアの詩人です。37歳で謎の死を遂げた際の遺書には「これでいわゆる<一巻の終わり>」「愛のボートは粉々だ、くらしと正面衝突して」という詩が書かれていたとか(満州映画協会理事長・甘粕正彦が遺した辞世の句「大ばくち 身ぐるみ脱いで すってんてん」を連想しました)。

何度も読み返し、シリーズをどんどん購入しました。当時の文芸担当が返品したおかげで存在を知ったわけですから感謝しています。一方で「どうにかして売らなきゃダメな本でしょ。価格も良心的だし」という思いもあります。

結局何を言いたいかというと「売れない良書を売れるように持って行くのも書店員の腕」「むしろそれこそが最大の喜び」ってこと。

私が「いい本だからどうしても売りたい」と考えている本が1冊あります。詳しくは今週土曜の記事にて。

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