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ハードボイルド書店員は「1秒で切る」

書店員の仕事でいちばん好きなのは棚への「品出し」です。人によっては「棚出し」とも言います。某書店では「納品」と呼びます。

新刊本を棚に出すときは、なるべく「面陳」を多くします。表紙を見せる並べ方です。過去には「面陳にすれば何でも売れる」なんて身も蓋もない持論をのたまう上司もいました。

ただしいちばん上の段と下の二段はしません。前者は落ちてきたら危ないし、後者は誰の目にも留まらないから。あまりにもスカスカだったら一時的にすることはあります。

もちろんスペースを確保しないと面陳にはできません。全てを棚差し(背表紙を見せる置き方)にした方が多く置けるのもたしか。でも雑多にあれやこれやを詰め込んでもインパクトが残りません。そもそもキツキツだとお客さんが戻しにくいし、結局売れないんです。

ゆえに売れ行きとタイトル、あとは概要の惹きの強弱で判断してサクサク返品します(返した直後に問い合わせを受けて「やべっ」となることもたまにありますが)。品出しが速いとよく驚かれますが、本人は普通にやっているつもり。たぶんこれまでに読んだ本たちが勘の拠り所になってくれているのでしょう。ありがとう。

あとは雀鬼・桜井章一の「ツモッてから1秒以内に牌を切る」という教えに影響を受けました。要は「間に合わせる」ことを意識して直感をフル回転させるわけです。

桜井さんはたくさん本を出されていますが、私は「ツキの正体」がいちばん好きです。

ちなみに「棚差しにされると売れない」とボヤく版元の営業が時々いますが、真の名著は動きます。最近だと「暇と退屈の倫理学」がそうでした。1冊棚差し→売り切れ→補充→売り切れのサイクルが続いたので、4冊注文して面陳に昇格させました。以前借りて読んで面白さを知っていたので、いけるという自信もありました。

週末に棚を見たらやっぱり売れていました。最初の章を読んで惹き込まれる人が多いようです。

お近くの書店で見掛けたら、どうぞ遠慮なく立ち読みしてみてください。私も近々買うつもりです。読みながら線を引いたり書き込んだりした方が内容が頭に残るから。ベストセラーを多数持つ教育学者・齋藤孝やソ連の崩壊を予言した歴史人口学者・エマニュエル・トッドも著書の中で同じことを言っています。齋藤氏は用途に応じて三色ボールペンの色を使い分けるとか。

お粗末な書店員トークでした。

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