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「売らない」という選択肢

松本さんの見解は「『炎上マーケティング』に失敗したのでは?」という趣旨でしょうか。私の職場にも同じ考えの人がいました。「気になってYou Tubeを見たら向こうの思うツボ。無視するのがいちばんいい」と。

たしかに彼らの見解にも一理あります。ただ我々書店員はこの人の書いた本を店に並べて売っています。どうしたってスルーするだけでは済まない。

数年前の木曜日。雑誌担当だった私は朝8時前に出社し、開店前のギリギリに全てを棚に出し終えました。「何とか間に合った!」と汗を拭っていた矢先に店長から「今日発売の○○売らないで。全部返品して」「本部の通達だから大至急!」という指示が来ました。未成年犯罪者の顔と実名が載っているのがよろしくない、と。

全書店がそういう処置を採ったわけではなく、近隣のライバル店やコンビニでは普通に販売していました。あの行為に意味があったのかどうか、今でもわかりません。被害者の顔と名前は曝されるのに加害者は守られるのか、という疑問もあります。

納得のいく答えは出ていません。ただ、あの一件で「書店には『売らない』という選択肢もある」ことを学びました。

東京表参道にある青山ブックセンターは「ヘイト本を置かない」と公言しています。私が以前勤めていた別の書店では、いわゆる「少年A」氏の著書を販売しませんでした。今回の件で「DaiGoの本は今後一切置かない」と決めた店もあるかもしれません。セレクトショップ的な色合いの強い個人経営店なら十分あり得る話です。

ウチではそういう決定は出ていません。ただ私は担当する棚にあった彼の本の一部を自発的に返品しました。同じような結論に至った書店員は他にもいらっしゃるでしょう。

と同時にここで大事なのは「自発的に」という部分。第三者がSNSなどで「すぐに返品しろ」と店に圧力を掛けるのは違うと思います。お気持ちはわかりますが、そこはくれぐれも間違えないで欲しい。この一件で書店員も少なからず困惑しているという事実をご理解いただけたら幸いです。

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