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「文庫化」を待てない作家

来ましたね。

新作長編が刊行される。これがニュースになる作家は、いまの日本では春樹さんぐらいでしょう。発売日は4月13日で価格は2970円。タイトルはまだ発表されていません。アマゾンによると672ページとあるので、なかなかのボリュームです。

前作「騎士団長殺し」が出たのは2017年の2月。当時働いていた書店はもう閉店してしまいました。6年は長いようで短く、やっぱり長い。

ちなみに私が書店員として初めて体感した「春樹の新作長編」は2009年の「1Q84」です。

BOOK2との同時発売でしたが(BOOK3は翌年)、平積みが面白いようにスイスイ減っていきました。ほとんどのお客さんが2冊を一緒に購入。少なくない数の同僚も、休憩時間や退勤後に嬉々として買っていく(私もそのひとりでした)。「何の賞とも関係ない小説の単行本がこんなに売れるのか」と驚きました。

池井戸潤さんや東野圭吾さん、宮部みゆきさんの新作もいいペースで売れます。最近は新川帆立さんの勢いもすごい。しかしあくまでも私の実感ですが春樹さんには及びません。まず客層の広さが違う。中学生ぐらいの子からお年寄りに至るまでの全世代が等しく買いに来るのです。「面白い本を前にしたら、すべての人間は平等である」といわんばかりに。

宇佐見りんさんの「推し、燃ゆ」が大ヒットしてから、若い層が小説を単行本で買うことを覚えてくれたという実感があります(TikTokの影響も大きいでしょう)。彼ら彼女らは、いい意味で「文庫になってからでいいや」という大人の冷静さとは無縁。書籍化すら待ちきれないのか、文芸誌を予約する学生も見掛けます。

私も似たようなものです。少なくとも春樹さんの新作に関しては、文庫になるまで待つという発想はありません。そもそも待てるわけない。2007年に北方謙三「水滸伝」と出会ったのですが、毎月の文庫刊行を待ち切れず、8巻ぐらいから単行本で集めました(全19巻)。すべては心に響く物語を多数書いてくれた作家に対する信頼の高さゆえ。

近頃は本も地味に値上げしています。我々の給料は相変わらずですが、心苦しい部分は正直あります。でももし「いま読みたい」と感じてもらえたのであれば、ぜひ単行本を。

大事なことなのでもう一度言わせてください。村上春樹さんの新作長編は4月13日発売です。

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