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「2023年のうちに読んでほしい」一冊

2023年になりました。

早いもので、来年はもう次の夏季オリンピックがパリで開催されます。

2020年のいまぐらいの時期でしょうか? 五輪関連の雑誌やムックの発行情報が続々と飛び込んできました。いずれも入荷数の事前指定が可能。当時雑誌担当だった私は、店長から「専用のコーナーを店頭に作って大々的に盛り上げる」「数は任せる」と告げられました。

いや、それ全然任せてないじゃん。

すべて自由にできるなら、どれも20か30。さっさと売り切って終わりにする。どれだけ世間が騒ごうとも、普段と変わらぬ平常運転を貫く。すでに猛威を振るいつつあった例の感染症とは関係なく、それが東京五輪に対する私の考えでした。

とはいえ、現実的には店の売り上げを作るのが責務です。結局、本心を反映した数にゼロをひとつ余分に付け加えました。

いまの私はその書店では働いていません。

やがて開催は延期になりました。関連雑誌やムックの発売も。大会が始まった頃には同業他社へ移っていたので、あのとき指定した数がそのまま入ったのか、あるいはリセットされたのかはわかりません。興味もない。

ただ数日前に↓を読み「もしこれが開催時に発売されていたら、フェア台の隅に積みたかったな」と考えました。

発売は2021年12月。同名映画の公式冊子です。映画は開会式のおこなわれた同年7月23日から先行上映されていたとか。

東京五輪を理由に長年住み慣れた住居を一方的に奪われ、仲間同士の繋がりも断たれた人たちの記録です。

152ページの文庫本サイズ。装丁も地味なグレーです。だからこそ「たとえ小さな声でも、この事実を多くの人に伝えたい」「華やかな大会の陰で、こういう理不尽を強いられる人たちがいたんですよ」という作り手の強い意志を感じました。

都営霞ヶ丘アパートが作られたのは1960年代の半ば。最初の東京五輪がおこなわれた頃です。老朽化はしていたはず。でもだからといってスタジアム建設のために壊し、いくつかのアパートへ半ば強制的に引っ越しを促すのは別の話です。しかも世帯員数によっては前よりも狭い部屋に。

「福島の汚染水は制御されている」という嘘のスピーチから始まったオリンピックにはいまも納得していません。ただ百歩譲って開催はやむなし。すさまじい努力を積み重ねた選手たちの輝ける舞台はあっていい。しかし、そのために競技場近隣で暮らしていた人たちの住宅が奪われるのは。。。

そもそも本当に国立競技場を建て替える必要があったのでしょうか? 

恥ずかしながら、つい最近までこの本の存在を知りませんでした。新たな五輪イヤーを迎える前に、ぜひ多くの人に読んでほしいです。

オリンピックのあり方、見直しませんか?

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