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ナマケモノとマグロ【サウナ&カプセルミナミ 下北沢店】(2/2)

 東京だけかもしれないけれど、電車は路線によって客層が異なるのでおもしろい。きっと、地域によって生活環境や文化が大きく異なるためだろう。

 それでいうと、マルシンスパに行く時くらいしか利用したことがない京王線の客層は、僕が普段利用している路線とは明らかに異なる雰囲気がある。うまくは説明できないけれど、僕が普段使っている路線は「オン」のスイッチが入っている人たちが多い印象がある一方で、京王線に乗っている人たちの雰囲気は「オフ」なのだ。日常生活の延長にそのまま電車があるようなイメージである。
 もちろん乗客全員がそのような雰囲気を醸し出しているわけではないのだけれど、車内にはなんとなくそんな空気が漂っていて、それが僕にとっての非日常でもあり、少しだけ心が躍った。

 下北沢駅に着いたのは13時半ごろ。久々に訪れた気がするが、いつの間にか駅周辺は開発が進んで、下北沢特有のサブカル感が少し薄くなり、大衆向けの街に変化を遂げようとしていた。
 そんな街並みを気にしながら歩いていると、駅から5分ほどで今日の目的地が現れた。

「やっと来ることができたぞ」

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 そう、今回訪れたのは「サウナ&カプセルミナミ 下北沢店」である。ミナミといえば六本木や学芸大学、立川にも同じ名前のサウナがあるけれど、それらの関係性については調べていない。ただ、「ミナミ」と名の付いたサウナは総じて良い評判を聞くことが多く、どこかしらの店舗に伺いたいと思っていたのだ。

(※館内の画像が見当たらなかったため、ここからは想像しながらお楽しみください)

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 夏の日差しは強く、ただ立っているだけで汗をかいてしまうほど暑かったため、僕はさっそく建物の中に足を踏み入れた。
 まずは下駄箱に靴を預けて、フロントの男性スタッフに「ショートコースで」と声をかけて1,100円を支払うと、ロッカーキーを手渡された。タオルセットはロッカーの中に入っているそうだ。
 それから階段を上がって脱衣所と浴場がある2階に向かい、指定されたロッカーを開けると、その中にはタオルセットだけではなく、膝丈の薄手のズボンが入っていた。おそらくサウナパンツなのだろうが、なにも説明を受けていないので履くべきなのかどうかわからず、迷った僕はフェイスタオルとサウナパンツを持って浴室に入ることにした。

「お〜、コンパクトだけどガラガラだ!」

 浴室には、左側に大きなお風呂が一つと水風呂が一つ、そして突き当たりにサウナ室が見える。決して広いとはいえないけれど、僕のほかにお客さんは一人しかおらず、快適に過ごすことができそうだ。そして店舗に入った時から感じてはいたが、全体的に年季が入っていてなかなか渋く、その場末的な雰囲気がたまらなく良い。
 僕はさっそく身を清めてお風呂で体を温めてから、タオルで体の水分を拭き取って、サウナ室前に置かれているサウナマットを1枚手に取り、いよいよサウナ室の扉を開けた。

「ここは意外と広いのか」

 サウナ室の中は2段構成になっていて、ざっと15人前後が座ることができそうなゆとりのある設計になっている。湿度は低くカラカラ系で、ガス遠赤外線ヒーターによって100℃まで熱せられていた。先に蒸されていた常連と思われるお客さんに倣って、サウナパンツは手に持ったまま履かないことにした。
 僕はそのヒーター脇の上段に腰をかけて、音声が切られたテレビ画面を眺めながら蒸されることにした。おそらく古いテレビだからか映像が乱れることもあったが、それもまたミナミの雰囲気に合っている。
 そのまま7分ほどじっとしていると、全身からは滝汗が流れ出し、眺めていたテレビ画面に同調するかのように僕の呼吸も乱れ始めた。明らかに心拍数も上がり、こめかみの血管を勢いよく血液が流れている感覚がある。僕は限界を迎えようとしていた。

「そろそろ出よう……」

 僕は立ち上がり、サウナ室を出て汗をお湯で流してから、水風呂に肩まで沈み込んだ。

「ほぉ〜……、これはなかなか良いセッティングだ」

 水温計は壊れていたので正確な温度はわからないけれど、体感では18〜20℃くらいだろうか。「水風呂は冷たければ冷たいほど良い」という低温至上主義のような考え方もあるけれど、僕は15℃以下のキンキンに冷たい水風呂でシャキッと仕上げるよりも、人によっては避けたがる20℃前後のほどほどに冷たい水風呂でじんわりと時間をかけて冷やされるほうが体が喜ぶことが多いのだ。
 それは今日も同じで、いつもより少し長めに水風呂で体を冷やすことで、僕の身体は少しずつ鎮められていき、次第には頭の中がぼーっとしてきたのだった。

ーーそうか、これが僕のペースなんだ……。

 1分ほど水風呂に浸かって十分に身体を冷やした僕は、ゆっくりと立ち上がって隣のお風呂に移動し、浴槽に腰をかけて足湯状態で壁にもたれかかった。大きく深呼吸をして、そっと目を閉じる。五感が覚醒して、浴室内で水が弾けるクリアな音が僕の鼓膜を揺らした。

ーーまるで世界の中心がここにあるかのような錯覚だ。これは唯一無二の没入感だな……。最高の気分だ。それぞれの生き物には、生命を維持するために適したペースがあるはずだ。僕には僕のペースがある。その自分のペースを、これからも大切に生きていこう。

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 結局、僕はそのあとに2セット、合計3セットをいただいてミナミを後にした。
 ナマケモノがマグロになる必要も、マグロがナマケモノになる必要もない。僕がほかの誰かのペースで生きる必要も、どこにもないのだ。

(written by ナオト:@bocci_naoto)

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①僕たちは自費でサウナに伺います ②それでお店の売上が増えます ③noteを通して心を込めてお店を紹介します ④noteを読んだ方がお店に足を運ぶようになります ⑤お店はもっと経済的に潤うようになります ⑥お店のサービスが充実します ⑦お客さんがもっと快適にサウナに通えます