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夏休みの宿題【八幡湯@荏原町駅】(2/2)

 6月12日(土)ともなると、「もう今年も折り返し地点か」という気持ちになる。今日はなかなか良い天気で、夕方になると空が濃く鮮やかな茜色に染まり、少しじっとりとした空気と相まって夏の気配がした。

 僕が東急大井町線「荏原町駅」に到着したのは18時40分ごろ。そこから4〜5分歩いたところに、目指していた建物はあった。

「意外と近かったな〜」

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 そう、今回訪れたのは品川区にある八幡湯(はちまんゆ)である。自宅から比較的アクセスが良く、設備や泉質になにかしらの特徴があり、さほど混雑していないであろうサウナ付きの銭湯をインターネットで探したところ、ここに辿り着いたのだった。
 そのレトロな風情を感じる外観から、この時点で僕は勝利を確信した。今までの経験上、このような住宅街の中にある昔ながらの銭湯で満足しなかったことが無いのである。

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 八幡湯は入口が地上階にあり、受付と浴場が地下にある珍しい構造になっている。僕はさっそく建物の中に入り、下駄箱にサンダルを預けて階段を降りると、年季の入った番台には僕の母親と同年代であろう女性(僕は心の中で「お母さん」と呼んだ)がにこやかに座っていた。
 僕はそこでサウナを利用をしたい旨を伝えて720円を支払い、手渡されたバスタオルを持って脱衣所へと進んだ。お母さんの説明を聞き取ることができなかったのだが、このバスタオルはサウナマットとして使用したほうが良さそうだ。

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(品川区公衆浴場商業協同組合: https://shinagawa1010.jp/list/yawatayu/ )

 脱衣所は昔ながらの銭湯らしい雰囲気で、堅苦しさが無く居心地がとても良い。そこで準備を済ませて、僕はいよいよ浴場へと足を踏み入れた。

「今日はこういう銭湯らしい銭湯を求めてたんですよ」

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(品川区公衆浴場商業協同組合: https://shinagawa1010.jp/list/yawatayu/ )

 昔から地域住民の方々に愛され続けてきたであろう風格がある浴場は、ジェットバスや水風呂、そして黒湯の温泉があるシンプルな構造で、明らかに常連と思われるお客さんが数人いるだけで空いていた。
 僕はまず身を清めて、お風呂で体を温めることにした。ここで浸かった黒湯は少し熱めに沸かされていて、すぐに全身がぽかぽかとしてきた。

「さて、では行きますか」

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(品川区公衆浴場商業協同組合: https://shinagawa1010.jp/list/yawatayu/ )

 程よく体を温められたところで、僕は立ち上がってバスタオルを片手にサウナ室の中に入った。

「ほ〜! 渋い!」

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(品川区公衆浴場商業協同組合: https://shinagawa1010.jp/list/yawatayu/ )

 ガス遠赤外線ヒーターによって96℃まで熱せられたサウナ室の中は、4人が横に並んで座れるほどの広さがある二段構成で、湿度は低くカラッとしている。
 先客は1名。常連と思われる男性が、座面ではなく床の隅に座って漫画を読んでいた。そこに流れるBGMは1970〜2000年代に流行した(であろう)ピンクレディーやサザンや松崎しげる、そしてファンモンだ。いったい誰がプレイリストを作っているのか気になったが、そのアンバランスさが逆に愛おしい。
 僕はそれら全てを八幡湯の持ち味だと思い、周囲の状況を受け入れた上で僕なりにサウナを堪能させてもらうことにした。そして、上段に腰をかけて静かにじっと蒸されていると、気付いた時には全身から滝汗が流れ出していた。

ーーそろそろ出よう。

 ゆっくりと立ち上がり、サウナ室を出て全身の汗を流してから、僕は水風呂に肩まで沈み込んだ。

「ほぉ〜、これはなかなか」

 温度計は壊れていたが、体感ではおそらく15〜16℃ほどだろう。バイブラの効果もあってか十分に冷たく感じる。そこで30秒ほど冷やされると、先ほどまで激しく動いていた心臓の鼓動も徐々に落ち着き、頭がぼーっとしてきた。
 その後は本能の赴くままに水風呂から立ち上がり、風呂椅子を持って浴場の隅に移動して、他のお客さんの邪魔にならないように壁に持たれかかって休憩をした。大きく深呼吸。

「は〜、最高だ……」

 僕はそのまま時間を忘れて全身を脱力させて、”なにもしない”時間を堪能したのだった。
 そこで数分休んでいると、お母さんがお風呂場にやってきて、そのままサウナ室へと入り、中から重たそうにサウナマットを持って出てくるところが目に留まった。

ーー体力が必要なサウナマットの交換も脱衣所の掃除も受付も一人でやっているなんて。あの年齢で力仕事をするには無理もあろうに……。

 僕はお母さんが一人で銭湯を切り盛りしているその光景に心を打たれてしまった。

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 結局、僕はそのあとに2セット、合計3セットをいただいて八幡湯を後にした。帰り際、番台にいるお母さんに「お風呂、とても気持ちよかったです」と声を掛けると、満面の笑みを浮かべて「本当ですか! 営業してる甲斐がありました」と嬉しそうに返事をしてくれた。その温かい笑顔に、僕の心はすっかりと満たされてしまった。

「郷に入っては郷に従え」という言葉がある。僕は温浴施設に伺う時、たいていそのスタンスでサウナを利用させてもらっているのだけれど、周りのペースに合わせてみることで新しく見えてくるものや感じられる喜びは、きっとある。

(written by ナオト:@bocci_naoto)

YouTube「ボッチトーキョー」
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①僕たちは自費でサウナに伺います ②それでお店の売上が増えます ③noteを通して心を込めてお店を紹介します ④noteを読んだ方がお店に足を運ぶようになります ⑤お店はもっと経済的に潤うようになります ⑥お店のサービスが充実します ⑦お客さんがもっと快適にサウナに通えます