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夏の残り香とクラフトジン。隅田川「東京リバーサイド蒸溜所」にて

日差しの中、ほのかに夏の終わりを感じる季節。かすかに残る湿気を洗い流すようなジンの香りは、心を清々しくしてくれる。
今回訪れたのは東京発のクラフトジンをつくる「東京リバーサイド蒸溜所」。まだ私たちが知らない、ジンが持ついくつもの顔が垣間見えた。

都心の喧騒から離れた下町、蔵前。ここにエシカル・スピリッツ株式会社が運営する、世界初の再生型蒸留所「東京リバーサイド蒸溜所」がある。

「世界中の人が訪れやすい、また私たちも日本の中心からクラフトジンを発信していきたいということで、東京での物件を探していたのですが、蒸留器を置くためには、天井高が4〜5メートル必要でした。そんな中、職人が多いこの街に理想の場所を見つけることができたんです」

話してくれたのは、同社COOの小野力さん。蒸留所のほかにも、ストアやダイニングバーなどを併設。一見すると瀟洒なコーヒースタンドのようにも見えるため、通りすがりの人がふらりと近寄ってくることもあるとか。

「ジンは“アルコール度数の高いお酒”というイメージがありますが、私たちが作っている『LAST』シリーズは、これまでのジンとは異なる華やかな香りがするので、興味を持っていただくことが多いですね。バー&ダイニング『Stage』は、その名の通り、ジンのさまざまな顔を知ってもらう“ステージ”として、料理とジンの組み合わせを提案しています(料理:白鳥翔大共同監修)。実は『Stage』で使用しているハーブは屋上のボタニカルガーデンで栽培しているんですよ」

エシカル・スピリッツの代表をつとめる山本祐也氏は、もともと日本酒のセレクトショップを運営。なぜこの「ジン」という分野に足を踏み入れたのか。

「酒造りの生産者さんたちと会う中で、『酒粕』が大量に排出され、使い道に困っていることを知り、その問題解決できる取り組みをしようとしたのがきっかけです。そして作り上げたのが、酒粕を再蒸留したクラフトジン。ここから利益が出て、酒粕を提供してくれた酒蔵がまた酒米を購入し、日本酒を生産するという“循環製造スタイル”が生まれました」

そもそもジンという蒸留酒だが、その定義は幅広く、

・アルコール度数95%以上のベーススピリッツにジュニパーベリー(木の実)で香味付けし蒸留
・瓶詰め時のアルコール度数37.5%以上

以上のことをクリアしていればOKという自由度が魅力。そのため、ベーススピリッツとなる穀物によって風味が大きく異なってくる。

「とくに私たちのところでは、酒粕で造るベース・スピリッツが多いため、それぞれ香りがまったく異なります。日本オリジナルの原料を使い、誰も体験したことのないものを、最高のクオリティで届けたいですね」

「まるで香水のよう」と表現されるエシカル・スピリッツのジン。店頭に置かれた香水瓶でその香りを楽しむことができる。

「エシカル」という言葉はついているものの、あくまで「味で勝ちたい」――
そんな取り組みは昨年実を結び、代表作『LAST』シリーズは、ロンドンの権威ある品評会「IWSC2021」で、日本のブランドとして唯一となる最高賞を受賞するなど、素晴らしい評価を得た。

「最近でもバドワイザーさんとの取り組みで、コロナ渦で余ったビールを元にジンを作ったり、廃棄されてしまうみょうが、しいたけのいしづき部分を地方の農家さんからもらって利用したりと、『エシカル=おいしい』とするべく、クリエイティブなジンにも積極的に取り組んでいくつもりです」

実際に、エシカル・スピリッツのユニークなプロダクトラインナップを紹介していこう。まずは、酒粕を元にして作った『LAST』シリーズ。その中でも「ELEGANT」は、慶応元年に創業した鳥取県の老舗酒蔵「千代むすび酒造」の酒粕を元にしている。

LASTという英語には「最後の」という意味以外にも「続く」という動詞の意味がある。酒造りの工程の最後に残ったもの(酒粕)が、次の命へと続いていくという意味を込めての命名だそう。

次に、「蘇る」の言葉の意味通り、コロナ禍で余剰となったビールや日本酒を再生した「REVIVE」シリーズ。先ほど小野さんが触れていたが、バドワイザー約2万ℓをジンにした世界でも初となるクラフトジンのほか、古木茶、間引きされた摘果すだち、みょうがの茎を合わせたプロダクトもある。

他にも、エスプレッソを抽出したときに出る、コーヒーの出し殻を利用した、なめらかな口当たりと甘味が特徴的な「COFFEE ÉTHIQUE」、チョコレート作りの途中、カカオをローストした後の加工工程で分離して、廃棄されているハスク(皮)を使った「CACAO ÉTHIQUE」など、「普通なら捨てられてしまうもの」のポテンシャルを引き出している。

ちなみに、ジンの美味しい飲み方としては「シンプルにソーダ割りがオススメです。もし、トニックソーダを店頭で見つけることがあったら、バーの味に近くなるのでそちらも試してほしいです。比率は、ジン1に対し、割り物4がベストです」とのことだ。

エシカル・スピリッツが掲げる「循環」は、素材だけに限った話ではない。今年に入り、被災地の再生を応援する取り組みもスタートさせている。

「福島県双葉町という、東日本大震災による影響で人が住めなくなった原発エリアに、また住民が戻ってきたんです。そこで、新たに特産物を作ろうということで、『ふたば』という名のクラフトジンを作りました。郡山市の酒蔵、いわき市産のトマト、宮城県仙台市産のマリーゴールドなど、近隣の市町村も使った自信作です」

いまや、大手メーカーもマーケティングコストをかけ、「ネクストハイボール」との呼び声もあるジン。その中でもエシカル・スピリッツは、新しい市場のニーズを開拓し、世界中に販路を広げていく。

「ウォッカとかウイスキー以上の多様性があるお酒なので、今後消費者が広がってくることによって、我々のやっていることが認知されていくのかなと思っています。『美味しい』ことを第一に、生産者さんの方にも目が向いて、関わった人すべてが幸せになればこの上ない喜びです」

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東京リバーサイド蒸溜所

東京都台東区蔵前3-9-3
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■営業時間
1F オフィシャルストア13:00〜19:00 ※月曜定休
2F Bar&Dining Stage18:00〜23:00 ※月曜定休

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BLUE WELLMAGA(ブルー ウェルマガ)は「自分だけの心地よい時間」を追い求めるインナーウェルネスマガジンです。
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