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直感が導く紙の世界。神宮前・PAPIER LABO.にて

液晶ディスプレイに慣れた今、まじまじと印刷物を眺めると、その情報量に驚く。インクのにおいや凹凸、てざわりを含む、直感を呼び覚ます媒体としての紙、そして印刷の世界をもっと知りたくて「PAPIER LABO.」を訪れた。

北参道駅と原宿駅のほぼ中間あたり。セレクトショップやカフェ、住宅街がバランス良く建ち並ぶこのエリアで、デジタル隆盛の時代に、「紙と紙にまつわるプロダクト」をコンセプトにした気概ある店が存在する。それが「PAPIER LABO.」だ。

店主の江藤公昭さんは、前職で家具やインテリア、内装などを手がける「ランドスケープ プロダクツ」に所属し、主にグラフィックデザインを担当していた。印刷技術がデジタルに移行していく中、手仕事を残した活版印刷に興味を持ち、海外の活版ポストカードなどを集めていたという。

「店をはじめる何年か前ぐらいから、海外では活版印刷が再評価される動きがありました。その後、私が2007年に『活版再生展』という展示に参加した際に、若い人が気軽に頼めるような活版印刷屋が少ないと感じ、窓口となるべく、この場所にお店を開きました」

2007年より営業を続け、すでに15年。「ずっと低空飛行のままやってきましたね」と江藤さんは苦笑いするが、グッズ販売、印刷物のオーダー以外にも、書籍やフライヤーなど、だれもが知る企業の仕事も多数請け負ってきた。

店内に目を向けると、ベルリンの文具店「LUIBAN」のカッパー(銅)テープ、味のある和紙のコースターなどがある一方で、長年交流のあるイラストレーター、ノリタケ氏のドローイングが描かれたノートなど、緩急ついたアイテムが店内にところ狭しと並ぶ。

「セレクトの基準的にはずっと変わっていなくて、“紙にまつわるもの”と“良いと思ったもの”、いたってシンプルです。『売れそうだから』という基準で置くことはしませんし、並べるときも『この商品がいいんです』という伝え方をしていません。手に取るか否かは、お客さんのセンスにおまかせしています。いまは仕入れたものとお店オリジナルでつくったもの、ちょうど半々ぐらいのバランスで構成されていますね」

国も製法も、さらには書き心地もバラバラだが、江藤さんたちが直感で惹かれたアイテムが、いつしか“PAPIER LABO.らしいもの”と思われるようになった。

「その中でも定番化しているのが、ポスタータイプのカレンダー。広げて1年を眺めることにすることもできますし、折りたたんでひと月ごとにもできます。」

「同じくオリジナル製品のTATAMI MODULE NOTEBOOKは、畳の1/10サイズで作った縦長のノートです。中の罫線はページごとにバラバラ、紙もざらつきがありますが、だからこそ、しっくりくるペンや使い方をみつけるのが楽しい一冊かなと」

「あとは、インドの村でつくられているカードセットや封筒なんかは面白いですね。捨てられたコットンが紙に生まれ変わり、鮮やかな色や柄が施されています。フランス産の紙は、ほかの国より手触りが格段に良いなど、地域によってアウトプットが全然違うんです」

PHOTO BY MISA SAKUMA

今年、「PAPIER LABO.」では、例年とは違う試みを行った。それが、東京を拠点に広告やファッション誌、カタログなどで活躍する写真家・三部正博氏との展示「PRINT MATTERS」だ。

「三部さんが近年撮りためているランドスケープの写真を素材として、私たちが活版、リソグラフ、シルクスクリーンなど、さまざまな方法で印刷。それらを展示販売するというものです。予算に限りがある中で、どうアプローチすれば最適なものが出来上がるのか、なかなかチャレンジングな企画でした」

毎年、三部氏と「PAPIER LABO.」は、ニューイヤーカードを共作。今回それを発展させて、印刷物10点と、印刷物の素材となった写真を含むクロモジェニックプリント10点ができあがった。写真従来の目的でもある、“被写体の忠実な再現”ではなく、印刷のプロセスを経ることによって変わる、“見え方や在り様の可能性”を探る体験は、普段お店に来るお客さんにとっても刺激的だっただろう。

PHOTO BY MISA SAKUMA

「時間と労力が必要になるので、しばらくこういった展示はやらないと思います(笑)。今回の展示を通じて、『なるほどこういう印刷技術の可能性もあるのか』という思いを持ってもらって、本来の紙印刷への興味がわいてもらえれば何よりですね」

いまやスマートフォンの普及で、社会人だけでなく、高校生や中学生も「メール」「メッセンジャー機能」などでコミュニケーションを図ることがほとんど。手紙に代表されるような「手書き文字」は手放されつつある。

「たびたび、アナログの良さに再注目されるんですけど、実際手紙って、書き損じると捨てちゃうことになるし、送るにしても郵送代がかかるし、デジタルと比べるとどうしても手間がかかる。だから、今後も手書きの工程はどんどん減っていくと思うんです。それでも、選択肢として消えることはないので、ちょっとしたイベントごとのときに、どういう紙で、どういう封筒で送るのか、服をあれこれ試着するように、お店に来て特別なひとつものを見つけてほしいですね」

紙の利用が減っていくならば、印刷なども同様。シルクスクリーンなどの商業印刷はまだしばらくは使われていくが、活版印刷はオフセット印刷の発達などにより、日の目を見る機会が日に日に少なくなっている。

「それでも、お店の姿勢はずっと変わらないでしょうね。活版印刷って奥深くて面白いものだから、今後もちゃんと取り扱っていきます。ただそれだけではなく、新しい技術や才能に出会ったときは、コラボレーションを積極的に図って、外に広く伝える“ハブ”の役割が果たせたらと」

SHOP DATA

PAPIER LABO.

東京都渋谷区神宮前1丁目1−1 原宿タウンホーム
TEL:03-5411-1696
営業時間 12:00〜18:00(日曜・月曜定休)
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