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どこかの街で

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いつか・どこかの街の光景
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#イタリア

2018/06/27 (回想録 Vol.9: イタリア[7])

2018/06/27 (回想録 Vol.9: イタリア[7])

聖堂の裏の広場には人が集まってきていた。ちょうど昼時だったので、ふらついていると次第にランチやカフェを目当てに人が増えてくるのが実感された。さっきまではいなかった大道芸の人が十字路の真ん中にボストンバッグを広げていた。

この小さな町のどこにこれだけの人がいたのかが不思議だったが、人に満たされたテラスは正しい状態であるように感じられた。

聖堂の脇にある酒屋は閉まっていた。店の前のショーウィンドウ

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2018/06/26 (回想録 Vol.8: イタリア[6])

2018/06/26 (回想録 Vol.8: イタリア[6])

イタリア・パヴィーア。快晴。
この町で唯一観光地然としているのはこの最大のドゥオーモ。小さなこの町には異様な大きさだった。正面には騎馬の像の男性が手を伸ばしていた。この馬の像の陰嚢だけがカラフルに塗られていた。いたずらなのか、そういう計らいなのかはわからなかった。

観光地というものがあまり好きではない。だからあまり記憶がない。
ただ、昼食で入ったカフェの店員がいい人だった。一人でいたうえ、資料を

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2018/06/25 (回想録 Vol.6: イタリア[5])

2018/06/25 (回想録 Vol.6: イタリア[5])

イタリア・ランツォ=トリネーゼ。快晴。
山の裾野には小さなグラウンドがあった。そこでは地元の子供たちがサッカーの試合をしていて、先ほどのコーヒーステーション周辺の賑わいにも肯んずるところがあった。

しかしそこを過ぎると間もなく普通の登山道だった。ほどなくすると、向かいから、ハイキング用のステッキやリュックなどの装備は完全にもかかわらず、下着以外はほぼ裸状態の中年男性がこちらに歩いてきた。イタリア

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2018/06/25 (回想録 Vol.4: イタリア[4])

2018/06/25 (回想録 Vol.4: イタリア[4])

イタリア・ランツォ=トリネーゼ。快晴。
早朝にバスでパヴィーアを出て、田園風景を眺めること2時間。トリノの街が右手に見え、それをさらに通り越すとランツォという地域に至った。地中海性気候のこの国は基本的にからっとしていていい天気である。

そもそも、イタリアを訪れた理由は、自身の研究調査のためが半分・学会参加のためが半分である。このランツォにあるモンテ=ミュッジーネはアルプス山脈の南西の端に位置し、

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2018/06/24 (回想録 Vol.3: イタリア[3])

2018/06/24 (回想録 Vol.3: イタリア[3])

イタリア・パヴィーア。快晴。
パヴィーアの美術館は古城をそのまま改築した美術館である。かつてこの土地の貴族が戦争を想定して築いた城だが、建築後に戦火に巻き込まれることは無かった。それゆえ、現在では威厳と優美さを兼ね備えた佇まいをしている。

その日、美術館ではゴヤの展覧会をやっていた。門の傍らにはモノクロのその大きな看板が立っているが、城までの距離には公園が広がっている。ベンチでは歓談する老夫婦や

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2018/06/24 (回想録 Vol.2: イタリア[2])

2018/06/24 (回想録 Vol.2: イタリア[2])

イタリア・パヴィーア。快晴。
この小さな町は四方から橋で繋がれている。かつては神聖ローマ帝国皇帝の戴冠式が行われたり、オスマントルコとの激しい攻防の舞台ともなった重要な立地ゆえ、南は川で、他の三面は城壁で囲われていたらしい。しかし今では悠然と流れる南側の川と、北側の古城と教会の一部にその痕跡を残すのみである。

西側の鉄路を越す石造りの橋は所々凹凸があり、旅鞄を曳くには不都合であった。背の高い街路

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2018/06/24 (回想録 Vol.1: イタリア[1])

2018/06/24 (回想録 Vol.1: イタリア[1])

イタリア・ミラノ。快晴。
空港を出た特急はしばらくすると地上へ出た。点在する林、牧草の山、ところどころ崩れた古い倉庫、そこに書かれたペンキの落書き。人影は見えないが、人の生活がそこにはあった。
車内放送のイタリア語は、日本の鉄道と変わらぬ口調で聞きなれない言葉を流し続けていたが、乗換駅につくころには何を言っているのかだいたいを理解した。斜向かいに座っているゲルマン系の女性が、電話ごしによく笑ってい

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