Sweet Stories Scrap マンスリー Vol.9 2021/9
先月は半年ぶりにこの特集記事を書いたから、いかに厚顔無恥なオレでもタイトルに「マンスリー」って付けるのは遠慮したんだよな。失礼な物言いと、噓をつくことは別のことだもんな。失礼な物言いで嘘をつくのは政治家ぐらいのもんでね。いけね、意外と真面目なこと書いてらあ。
では、今月のオススメ３作品を。まずはこちらから。
カルピス／金とき
びっくらこいた。
作者は名を「金とき」さんと言う。何とも人を食ったような名前だ、と勝手に思い、ユーモラスな30前後のおねーちゃんを想像して読み進んだ。若い頃を顧みて「アオハルだったよねえ」などと、しみじみ思いだしながら書いたんだろうなあ、とか。
しかし、小汚い初老オヤジのくだらない妄想は、作者の（noteを始めて）『一周年です。』という記事を見た途端に、瞬殺で砕け散ることになる。
去年の今頃は、もう暇で暇で。大学受験が終わって解放された気持ちと、大学が始まらなくてつまらない気持ちと、遊びに行けなくて寂しい気持ちと。
ダイガクジュケンガオワッテ？一年？
み、未成年なのか、この人？浪人してたとしても二十歳とかなのか。うーむ。しばし考える。この話は20歳やそこらの女性の話ではない（あくまで一般的には、だけれど）。だってさあ…
薬指をそっと撫でる。そこに指輪はない。私が、拒んだから。
こういう話なんだもん。
もちろん二十歳ぐらいの女性がどういった感覚で、結婚について書いたのかは知る由もない（ちなみにこれを書いたのは昨秋なので当時は18歳か19歳！）。それを結婚生活ほぼ30年のオッサンが読む。その脳裏に浮かぶ結婚像と、そこに繋がるまでに在った人生模様には、大きな隔たりがあるはずだ。でも、それは作品として読みごたえがあり、オッサンの脳内でもきちんと感傷の焦点を結ぶ。そこがスゴイと思う。
ちなみにこの作品には続編「カルピス２」がある（実はそっちを先に読んで、遡って今回選んだ作品にたどり着いた）。これまた女心の内面をしれっと描いている。ほんとに20歳（推定）なの？この人。ちなみにほかの作品も面白い。
いやあ、びっくらこいた（って、19歳には絶対通じないギャグだな）。
スパゲティを啜る人／しめじ
秋の気配が深まったから、こういう話ばかりを選んでいる訳ではないが、この1ヶ月で読んだのは（必然、最近書かれたものだけれど）、ハッピーな恋のお話よりも枯れ葉の似合うアンニュイな作品が多かった気がする。
が、この作品に登場する男はアンニュイには程遠い。
｢なぁエリ、おまえまだ結婚してないのか｣
こんな無神経なセリフ、ワシでも吐かんぞ。今時こんなセクハラ丸出しのセリフを吐くやつがいるか？だからと言って、リアリティの欠片もないなどと批判するつもりはない。今時いそうにないからこそ、一見、無礼で思いやりがなさそうだからこそ、裏表がなく真っすぐで魅力的に思えることだってあるのらしいのだ、オンナには。それも随分と時間が経ってから。
夏の終わり。秋の入り口。季節は変わる。不躾でむき出しの季節はバックミラーの中で遠ざかる。お行儀が良くなった大人たちの耳に、スパゲティを啜る音が響く。カルボナーラ啜ると飛び散るんだよねえ。ああ、腹減った。
月に吹く風／山羊メイル
メイルさんの作品を選ぶのは確か二度目。去年もほぼ同時期に書かれた作品を選んでる。何でだろう。九月ってそういう時期なの？という訳で今回は中秋の名月にふさわしいお話。
相変わらず構成が上手いんだけど、シンプルなストーリーではある。粗筋だけ書いたら200字で足りるかも。それを文章で紡ぐ。一つの繭から長い一本の糸を引き延ばして艶々の絹糸が出来るみたいに。
その艶々ポイントの演出が多彩だ。JAのキャップ。芥川龍之介。スピッツ。何だそれ？全部分からない人もいるだろう。でも、いずれもリアリティを持って表現の小道具として作中に登場する。書いてる側が目に浮かべながら書いてるから、取って付けたような浮ついた印象がない。その小道具たちが次から次へと出てくるところが小刻みなリズムを刻む。そのリズムの上を若い二人のはにかんだ会話が躍るように転がる。こりゃあ、いつまでも読んでいられるぞ――。
ところが、物語は終盤、二度ほど急転する。えっ？あら！鮮やかなこと極まりない。って、褒めすぎたか、オレ。きっと月に吹く風のせいだ。
🍌
という訳で、今月の締めの曲はもちろんこれでしょ。
♪走ぃる～はるかぁ～この星の果てまでぇ～
🍌
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