カルピス 2
このお話は カルピス の続編です。このお話だけでも読めます。
ワイングラスを傾ける。視線が痛い。たいして仲良くもなかった大学の同級生たちが、私を気遣うような優しげな視線を送ってくる。
ふう、と息をつく。それからにっこりと笑ってみせた。隣に座る日向さんに、次お色直しかな、わくわくするね、なんて、言ってみせる。日向さんは、ほんとね、花嫁さんどんなドレスかな、と言う。
ワインはあまり好きではなかった。渋みもあるし、そもそもアルコールが得意ではなかった。もっと甘ったるい、子ども用のジュースが飲みたかった。カルピスみたいな。
「カルピスって牛乳入れても美味いよ」
記憶の中の芳人が言う。付き合っているときはそんなわけないじゃんとあしらっていたけれど、別れてから試してみると本当に美味しかった。
伝えたかった。でも、もう敵わない。
物語の主人公のような、美しい二人が登場する。
花嫁は淡い水色のドレスを着ていた。その手を取る芳人はグレーのタキシード。幸せそうに花嫁を見つめるその瞳は、私がずっと目を背けていたものだ。
「いいなあ」
日向さんが呟いた。私は芳人から目を逸らして、そちらを向く。
「結婚したいの?」
「したいよ、そりゃあ。ここに来てるみんなももうほとんど既婚じゃない。私たちくらいよ、まだなの」
結婚、か。私は形を作りたくなかった。夫婦とか、家族とか、そういう形。器にこだわるほど中身が疎かになると思うから。だから、芳人からのプロポーズも断った。
「ほんと、佐倉さん、もったいないことしたよね」
私が芳人と長く付き合っていたことは、知り合いにはほとんど知られていた。芳人は人付き合いをちゃんとするひとだったし、二人でいるところを見られるたびに自慢をするような質だった。
確かに、愛されていた。私は贅沢だったのかもしれない。
「そうかもね」
呟くと、日向さんが、ふっと笑った。
「招待されたの、花嫁からの嫌味だったりしてね」
それがほんとうなら、大成功だろう。
ただ、そばにいたかった。形になんてこだわらずに、ただそばに。同じ濃さのカルピスを一緒に飲むような、そんな小さな幸せを噛み締めたかった。
私は愚かだった。些細な嫌なことより、一緒にいられないことのほうがずっと悲しいということに、失ってから気がつく。
「ごめんね」
なんか言った、と日向さんが問う。私は首を振る。
「いや、幸せになってほしいな、と思って」
ね、と頷く。
昔は片思いのお話が好きだった。叶わなくて涙が出るくらい強く誰かを愛するということが、なんと美しいのだろうと憧れていた。
美しくなんてない。なんて独りよがりな、歪んだ愛なんだろう。それでも抱かずにはいられない。
幸せに、と発音した舌に、ざらりと後味が残っていた。
いいタイトルが思いつかなかったので、カルピス 2 になりました。芳人くんとは価値観が合わずにお別れしまして、その後ですね。想像もつかない、と言っていた感情を実際に味わうことに…。ハッピーエンドではないけれど、佐倉さんらしいお話になったなと思います。お読みいただきありがとうございます。
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