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【エッセイ】夏なんて。

 朝の風はかすかに冷たさを含み、夕の暮れる時間は早くなり、わずかながら秋の気配。日中はまだまだ暑いけれど、僕にとってはようやく待望の季節。しかし。この季節になると大量に発生する、「夏の終わりは淋しい」「夏が終わるのは切ない」と激しく主張する謎の勢力。僕の周囲にだけ生息しているのか、あるいは全世界的な一大組織なのか。
 夏が終わる。淋しくない?
 そんなふうに同意を求められても、そういう種類の感傷の持ち合わせがないのです。7月の迎えたころから10月を待っているような人間なんです。適当に合わせておけばいいではないかという意見もあろうけれど、それもそれで不誠実な気がするし、思ってもいないことを口にするのもどうかと思うし。
 夏の終わりって切なくなるよね?
 いいえ。暑いのは苦手だし、僕は夏の終わりを待っています。夏の終わりを待ちわびているんです。などと返そうものなら、人間らしい感情がないのではないかとまで追求される。そんなの人それぞれじゃないかと思うのだけど、「夏の終わり淋しい一派」は思想と言論の統一でも目論むのか、夏こそ至高の季節であるという主張を僕にも迫るのだ。
 折れてはなるまい。負けてはなるまい。
「だいたい、ビリーの大好きな野球は夏のスポーツじゃないの。それでも夏が嫌い?」
 確かに野球は夏のスポーツなんですけど、僕の愛する阪神タイガースは盛夏には優勝戦線から離脱していることが多いのですよ。8月にはオフのドラフト会議やキャンプを考え始めて、来季以降の戦力構想を練るべきタイミングなんです。
「甲子園は? 高校野球は?」
 高校野球はそれほど見ないけど(プロ注目の有望選手をチェックしておくくらい)、それは別として、炎天下にやるのはどうかと思ってるんです。秋に変更してもいいし、ドーム球場でもいい。決勝だけ甲子園にするとか、工夫が必要な時期だと思ってます。選手や応援している人たちのこともあるのだから。
「夏はビールが美味しいやんか!」
 ビールが美味しいのは通年のことですし、近年の僕はあまりビールを飲まないんです。最初の一口で充分。
「そんな……。私は夕暮れが早くなってくるとテンション落ちてしまうのに……」
 だから、人それぞれなんですって。僕は蒸し暑くなってくるとテンションが下がり(そもそも低いのに)、真夏の朝は起きぬけから亡霊のような気分で生きてます(笑)。
「寒いのが苦手な人のことも考えてよ」
 暑いのが苦手な人のことは考えてくれないくせに(笑)。そもそも、高知県の冬は寒くなんてない。気温こそ関西圏と変わらないけど、真冬でもあの強い陽射し。昨冬なんて、ダウンもウールも着なかった。霜も降りてこないし、積雪どころかちらつきもしなかった。福島県から移り住んで来られたローソンのお姉さんは「高知は冬がない」って言っていた。
 そんなこんなで。やれやれ。よたよたと今年の夏もそろそろ終盤。僕は昨年と変わらず、涼しい部屋にこもっていただけのようにも思いますけど、とりあえず、初めての挑戦になった、長編小説を書き終えて。それから、昨年、賞をいただいた高知県の文芸祭に出品するための短編小説と詩を書き終えて提出も終わって。
 あとは涼しくなるのを待つのみ。8月半ばから、今冬に着るコートの品定めをしていたし、すでに何枚か購入。
 それはそうとして、来年からは6月〜10月まで北海道で暮らして、涼しくなってから、いまの太平洋近くで暮らそうと考えています。
 夏を避けて暮らすのもいいじゃないか。

photograph and words by billy.

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