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【読書】勝てるデザイン

またしてもデザイン書を読みました。

著者は芸術大学を出て任天堂に入り、独立したという方で、面白さを感じるデザインをする方だなぁと感じました。一方で私と似ているところも結構あるぞと感じました。

この本はデザインに関するやり方や考え方はもちろんですが、それだけではありません。著者自身が挫折を何度か経験しており、また独立しています。それゆえ著者の経験談や、独立したデザイナーが仕事や仲間を獲得する方法などが解説されています。

それでは気になったところを振り返ってみます。


楽しさを伝えることを大事にしている

本書を読んで全体的に感じたことが、楽しい雰囲気になっていることです。著者自身の個性なのでしょう。

私はデザインとは伝えることが大事だと考えています。決してビジュアルを整えることではありません。

だからこそ著者が楽しく語るように書いていることに好感を持てました。

圧倒的な勉強量と練習量はものを言う

著者は自身を凡才と言っています。独立して上手くやっていて、書籍も出せる人が凡才なわけがない、凄い才能があるんでしょ?と思ってしまうかもしれません。

しかし著者自身は何度も挫折を味わっているようです。美大受験を目指すも浪人し、美大に入ったら今度は優秀な人だらけ。何とか卒業して任天堂に入るも優秀な人だらけでついていくのに苦戦。

自分の実力がどの程度か知りたくて転職活動をするも失敗。しかもキャリアの中で2回転職活動をして2回とも失敗。

上手く行っている人が挫折や失敗なく順調に行っているとは限らないのです。そういう優等生タイプもいるでしょうけど、著者は優等生側というより、泥臭くやってきたタイプのようです。

本書を読んでいると、著者の勉強量が何度か出てきます。自分は凄い人とは違うから、圧倒的に勉強や練習が必要だと考えているのです。そして勉強したいことがあれば、気になる本を片っ端から読み、上手くできないと感じたことがあれば、練習を繰り返しています。

おススメの本は?と聞かれて、気になる本を片っ端から読めと答えているそうです。これは中々できない回答だと思います。ひたすら勉強に励んだ著者だからでしょう。

この辺が私と似ていると感じました。私は凡才どころか高校すら行けなかった落ちこぼれです。就職もできませんでした。

だから沢山勉強して挽回しようとしました。気になる本を片っ端から買ってひたすら読みました。気になる勉強会に毎回出ていたこともあります。

元から優等生人生を歩めていれば、勉強習慣があり、要領よく物事をこなすことができて、上手く行くのでしょう。

そういう器用なタイプならいいですが、そうでないタイプなら、やはり圧倒的な勉強量や練習量が必要です。それにより自分の知識やスキルに自信が付いてきますから。

自分の個性を大事にする

著者は自信のデザインの特徴をトイチックと呼んでいます。おもちゃのtoyみたいなデザインという意味です。

本書には著者のデザインが掲載されています。見てみるとトイチックという表現がしっくりきます。子どものおもちゃ風とかドット絵が多いのです。

私は仕事には個性が必要だなと感じることがあります。技術だけで勝負すると、どんな職業でも上には上がいます。そして適性の差とかスタートの差がどうしてもあります。だからこそ個性での差別化が必要です。

著者の場合はそれがトイチックだったのでしょう。自分に合った作風というものです。

私の場合ですと、顧客との関係構築、顧客側の視点で考えること、残業せずにQCDを守るマネジメントなどです。

私よりもっと技術がある人はいますし、もっと大きなプロジェクトをマネジメントしたことがある人もいます。しかし顧客評価や残業の少なさは自信があります。

特に残業の少なさは飛び抜けているでしょう。残業の多いIT業界で、しかも残業が多くなりがちな受託開発で、自分でマネジメントしているから長年毎日定時帰りなんて人はほとんどいないでしょうし、聞いたこともないというITエンジニアがほとんどでしょう。

同職種内で自分の実力がどの程度か気になる

著者は任天堂の宣伝・広報部門にいたそうです。業界用語でいえばインハウスデザイナー、つまりデザイン会社ではなく事業会社のデザイン部門ですね。IT業界で言えば、いわゆる社内SEという職業です。

事業会社の中の人だと、制作を専門に行っているデザイン会社の人たちと比べるということが難しいでしょう。

それゆえキャリアの途中で、デザイナーの中で自分の実力がどの程度か気になって、デザイン会社に応募したそうです。

なんと私もよくデザインノートで事例を読んでいるgood design companyに応募したのだとか。しかし面接では褒められたけど結果は不採用。

自分の実力がどの程度かというのは、上には上がいくらでもいるので、気にしすぎると辛くなってしまいます。しかし気になると言えば気になります。自分が食いっぱぐれないかどうかにも関わりますので。

結果的に著者は独立して軌道に乗ったので、他のデザイナーと比べても十分な実力があるのは間違いありません。しかしキャリアの途中で気になる機会は何度か出てくるものでしょう。

私も気になったことが何度もあります。私は就職浪人してスタートが遅かったので、中小のコンサル会社で経験を積んできました。

元請けとして顧客企業の課題に関わるという仕事をすれば、大きな経験になりますし、技術的に難易度の高いこともやれるし、システム全体に関われるから経験値も増やしやすいと考えたのです。

そして小さなベンチャーを活用して経験数年でマネジメント経験を積みました。経験6年とかそんなもので顧客折衝からプロジェクトマネジメントをやり、設計や実装まで、システム全体の仕様に関して責任を負うという仕事をしました。

しかし小さなシステムでは技術的に難易度の高いことをできませんし、マネジメント人数も5~6人程度です。また自己流では上手い開発の方法がよく解らないのが悩みでした。

結果的に会社が行き詰ってブラック企業に身売りし、サービス残業毎月100時間で病院送りにされたのを機に、転職しました。そして技術では国内屈指のITコンサル会社に入りました。

そうして解ったことが、私は技術的には平凡であること、とんがった強みがある人は強いこと、私は顧客対応力やマネジメント力が高いことでした。

やはり上には上がいます。しかし自分の実力がどの程度かを知って、自分の強みや個性を磨いていくことも大事ですね。

デザインは思考と造形から成る

本書に何度か出てくるのが、「思考」と「造形」という言葉です。造形という言葉は美大卒でないと中々使わないかもしれませんね。

デザインに思考が必要なことは言うまでもありません。とはいってもデザイナーでない方の場合、デザインはセンスという得体の知れない才能でするものだと思っている可能性が高いのですが。

センスについては先ほども名前が出てきたgood design companyの水野学氏の書籍が参考になります。

より砕いた表現にするなら、デザインは考えることと作ることを交互に繰り返すものだということです。

ただし一般的には考える方から入るケースが多いと感じます。なぜなら何をやるかが最初にあるからです。クライアントの課題は何か?、これから作りたい作品は何か?などです。

そしてここからトップダウンで詳細を詰めていくという作業が行われます。どんなモノづくりでも企画や要件定義から始まって、設計、製作と進んで行くのが一般的なやり方です。

しかし作る方から入ってもいいと著者は言っています。もうちょっと具体的に言うと、こういう形にしたら面白いんじゃない?という方から入って、考えては形を修正するを繰り返してもいいんじゃないかという話です。

私の場合、創作をやるときは何を作るにしても徹底的に情報収集して、考え尽くしてから手を付けることが多いです。でもまず何か候補となる形を揃えてから、絞ったりバリエーションを増やしたりしてもいいのかなと。

普段と逆の発想も入れて、もっと柔軟に考えた方がいいですね。

モノづくりにこだわる

著者は任天堂を受けたときに、任天堂の会社案内に感激したそうです。著者が受け取った会社案内は2000年版で、ネットで調べても簡単には見つかりませんでした。

しかし調べてみると任天堂の会社案内は毎年違うようで、しかも過去の会社案内がネットオークションに出品されています。2008年度の会社案内が21,000円というものを見つけました。

著者自身もNASU本というナスの形をした本を出しています。

https://p-prom.com/print-general/?p=34194

こういう面白いとかカッコいいモノづくりって大事ですよね。エンジニアでもクリエイターでも、いいものを作りたいという思いで仕事に励んでいると思います。

だったらたまには面白いものやカッコいいものに触れてみるといいかもしれません。

コミュニティの力を活用する

著者は自称寂しがりだそうです。学生時代は一人暮らしをしてみるも、寂しくなって1年で実家に帰ったとか、寂しいからサークルを作ったという話が出てきます。

独立してからも、コミュニティに入ったりコミュニティを作ったりしています。

私も寂しがりで孤独に弱いです。一人でも大丈夫な人はいいなと感じます。しかし寂しがりは裏を返せば社交性が高いでしょう。

コミュニティは様々なメリットをもたらしてくれます。友達ができることや知識・情報が得られることはもちろんですが、人との交流を通してストレスも低減してくれます。

寂しがりだったらそれを逆手にとって、コミュニティに積極的に関わってみるのもいいと思います。私もそうやって人と出会い、学んできました。楽しい想い出も沢山できました。

私の場合は趣味の自転車と音楽です。自転車なら1日かけてサイクリングしたり、遠くの都道府県へレースで遠征したりするのも楽しいものです。また強い選手から刺激を受けて、練習に身が入るということもあります。

音楽ならバンドやセッションですが、音楽仲間を集めて花火大会に行ったこともあります。バンドで課題曲を決めてやってみると、技術は上達しますし、セッションやライブの後の打ち上げの解放感はたまりません。

コミュニティにの力は有効に活用したいものです。

発展性があるならタダでもいい

本書には図書館のデザインの報酬が図書券5,000円という話が出てきます。これがニュースになって炎上したそうです。しかし著者はそれでもいいと言います。

100万円の仕事と0円の仕事は違うという話が出てきます。また独立したばかりの顧客に対して、初回だけ無料で仕事を受けたことがあるそうです。

100万円の仕事と0円の仕事の話は面白かったです。100万円の仕事はキッチリ真面目にやるのは当然ですが、0円の仕事は試せるのです。無料だからこそ試すチャンスでもあり、学びにもなるのです。自主制作とかプロボノを活用したいものですね。

初回だけ無料という話は、要するに宣伝です。初回は無料で受けて、自分の仕事を知ってもらう。ここで気に入ってもらえれば、次回からはしっかりと対価を頂く。もちろん初回の仕事でキッチリ対価を支払う価値があることを知ってもらう。永遠に無料で受け続けるわけにはいきませんから。

ようはLTV(Life Time Value、顧客生涯価値)を増やすという話です。顧客と長くいい関係を築けるなら、初回が無料とか割安でも、その後に継続的に仕事を頂ければ元を取れるという話です。

会社員だったら営業職でもないと気付かないかもしれません。しかしモノづくり職の人でも、独立したら必要な考えなのですね。

終わりに

本書はデザイン書であると同時に、デザイナーの生き方の本にもなっています。

もちろんデザイナーと言っても、得意・不得意や個性は様々で、会社員もフリーランスもいますし、インハウスデザイナーと制作会社のデザイナーという違う立場の人たちがいます。

しかし勉強とかコミュニティの活用、クライアントとのやり取り、自分の個性の出し方など、10年以上経験を積むと考えるであろうことについて、本書を参考にしてみてはいかがでしょうか?

私もまだまだ色々試してみたいです。


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