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【徒然旅行記1】モロッコのシャウエンで迷路みたいな道に迷う。自分の目と心で触れないと本当のことはわからないということを教えてくれた旅になった。

モロッコは僕が初めて行ったイスラム教の国だ。それまでイスラム教には怖いイメージを持っていたけど、それは間違いだった。宗教が国の背骨になっている。厳しい戒律を持ったイスラム教のモロッコ人は優しかった。自分の目と心で触れないと本当のことはわからない、そんな話。

W杯でモロッコが躍進したことで久しぶりに思い出した。クロアチアに最後負けたけどアフリカの国がベスト4に勝ち上がるのは初だという。2018年2月、僕はモロッコにいた。大手アパレル会社の出向が終わり電通に戻るタイミングだった。当時、僕はまだ出向先にいて経験を積みたかったのに志半ばで帰国した頃の話だ。

アフリカ大陸に足を運びたかったこと、モロッコのシャウエンという街に惹かれていたこと。何よりも暇だった。暇だから日本から離れたところに行きたかったのだ。だいたい1人旅行も読書も目的は自己実現だなんだと格好つけて言うけど本物の真実じゃない。単に暇なだけだ。

街の全景。山に囲われているのでアフリカだけど寒い。
シャウエン。かわいいけど階段の上で猫は何をしているかと言うと・・

シャウエンは街が水色から藍色まで美しく多彩な青で染められていることで有名だ。その理由として最も有力なのが、その昔スペインから追われシャウエンに住みついたユダヤ人によるもの、という説。ユダヤ教にとって青が神聖な色であったことから、家や道をつくる際に青色で染めていったのだそう。あくまで説で、虫除けという説もある。ネット検索で何もかもわかってしまう世の中で何のために作られたのかよくわかっていないものって興味深い。

これだけカサブランカ。ハッサン 2 世モスク。

成田からドバイ経由で丸一日かけて着いたモロッコの都市カサブランカは控えめに言っても野暮ったい街だった。カサブランカから大型バスで8時間。ひたすら砂漠と小さな街を往復しながら進み22時にシャウエンに着いた。山間部で寒く、しかも雨が降っていた。モロッコの街で特徴的なのが車も通れないような迷路のような入り組んだ道。Googleマップも使い物にならない。毛細血管のように複雑な道に彷徨うことしかできない。ホテルを探しながらうろうろすること1時間。街灯もあまりないので暗いし、寒いし、困り果てていた。ちなみに、僕は方向感覚はかなり優れているほうだ。

そんな中、ひとりの現地のおじさんに声をかけられた。英語もいまいち伝わらない。雨で濡れてぐちゃぐちゃになったホテルの名前が入った紙を見せると知っているような知らなそうな雰囲気。とりあえず着いてこい、というジェスチャーをされた。これは怖い。おいはぎの可能性もある。でも、怖いものみたさという言葉もある。曲がりくねった道をさらに曲がり、ここか?と示したホテルは違うホテルだった。どうやら真剣に一緒に探してくれるらしい。僕はスマホの画面でホテルの外観の写真を見せた。そうすると合点がいったようで「OK~OK!」と言った。彼から聞いた唯一の英語だった。そこから傘もない中、雨に振られるままに僕たちは坂を登って、坂を下ってうねうね歩いてようやくお目当てのホテルに着いた。彼がいなかったら着いていたのか着いていなかったのかわからないぐらい、どこを歩いたのかよくわからなかった。感謝を身振り手振り伝えるとニカッと笑って雨に振られたままシャウエンの街の闇に消えていった。時間は0時になっていた。

朝、礼拝の時間を知らせる大音量の音で起こされた。ここにいる全員が信じている何かを自分がまったく信じていないというのは不思議な感覚だった。イスラム教は戒律が厳しい。モロッコにはお酒が売っていない。戒律が厳しく、信じるものがあると人はどうなるのか?人は人に優しくなる。イスラム教と言えば過激派の印象が強烈すぎて怖い集団なんだと思っていたけど、それは極々一部の人だけだ。大多数のひとは生活の中に信じているものを同居させながら毎日を過ごしている。

色の対比が美しい〜Part.1〜
色の対比が美しい〜Part.2〜

昨晩の名も知れぬおじさん以外にもモロッコの人は誰しもが優しかった。マラケシュでもカサブランカでも。戒律が厳しいと不良が生まれる余地がないと言ったら言い過ぎだろうか。見知らぬ人に優しくするというのはイスラムの教えのひとつであることを帰国後に知った。

モロッコの旅は信じるって何だろうと考えさせる旅だった。僕は何を信じているのだろう。格好つけて言えば自分。僕が電通を辞めたとき、誰もが血迷ったなと思ったに違いない。でも、僕は僕のことを信じてみた。自分が自分を信じないで誰が信じてあげられるのだ。そんな肥大した自己愛のもと僕は起業した。自分ではないとてつもなく大きい何か(それを神という)を信じられる人を羨ましいと思うけど自分はそうじゃないから仕方ない。日本によくある無宗教で育ったけど、何かあるときは「神様頼む!」と心の中で叫んでいる、そのくらいの距離感。だから行動規範に宗教や神がくることはない。行動規範はこれまでの環境や経験や学びから生まれた自分だけのものになる。

モロッコのおじさんは僕に印象と実物は違うことを教えてくれた。怖かった印象があったイスラム教の人々の実像は全然違った。印象だけで終わらせずに正しく知ることの大切さを知った旅行になった。これから生きていて自分が抱いていたイメージを正しいものに変えてくれるような旅にあとどれだけ行けるだろうか。


タイルもそうだけど扉そのものも綺麗だ。
青色だけどナチュラルな緑も映える。
何でもない街角も味がある。

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