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#27 Yongtae Hwang: 単にプロダクトではなく、「良い組織」を創るための汎用ソリューションそのものをプロトタイピングしたい- Interview with Beatrusters

Beatrust 株式会社、Product Marketing Manager の Atsushi Tsukada です。いつも Beatrust on note をご覧頂き有難うございます。アーリーステージのスタートアップ企業:Beatrust の社員、通称 "Beatrusters(ビートラスターズ)" へのインタビュー記事の連載企画 Interview with Beatrusters。第 27  回は、2023 年 4 月からMachine Learning Engineer を担当している Yongtae Hwang / 黄 勇太さんにお話をうかがいました。

あらゆる分野横断で学んだアカデミック時代の経験が、“out-of-the-box thinking(型破り思考)” の原体験になっている。

――早速ですが、読者のみなさまに向けて、簡単に生い立ちのご紹介をお願いします。

京都府の出身です。大学院で東京に出てきて、そのまま東京で就職しました。卒業後は JX 通信社に入り、そこで 2 年ほど Senior Machine Learning Engineer(ML Engineer)として働いた後、今年 2023 年の 4 月に ML Engineer のポジションで Beatrust に転職した、というのが簡単な略歴です。取材を受けている本日時点でようやく 1.5ヶ月経ったばかりの Beatrust の社員としてもホヤホヤですね。

――若くして経験豊富な ML Engineer の方に参画いただけて、我々としても光栄です。既に存在感を発揮されている Yongtae さんですが、エンジニアとしてのキャリアを築いていこうと決意されたのはいつ頃・どういったきっかけだったのでしょうか?

最近でこそ Chat GPT をはじめとした AI の大ブームの真っ只中にありますから、学生の中でも将来はエンジニアになるべく情報学科やシステム工学科を志す人が増えてきましたが、私が学生だった頃はまだ今ほどの加速的トレンドは来ていなくて。私自身も、学生時代の専攻は基礎科学でした。大学院の時にたまたま興味を持って独学でプログラミングを勉強し始め、友人の紹介で企業でインターンさせていただく中で楽しさを実感し、その延長でファーストキャリアに選択したという感じです。

プログラミングに興味を持った直接のきっかけは大学院の時に出席した講義だったのですが、ざっくり言えば、「タンパク質が結晶化するための最適な条件を AI を使って見出す」みたいな内容で。マニュアルの実験をひたすら繰り返して精度を高める、といった “実は地道な職人芸の世界” である理系研究にどっぷり浸かっていた自分には、「なるほど!こんな合理的なアプローチがあるのか!」という衝撃があったんですね。それが原体験となり、AI の開発、その中でも特に 機械学習(ML)と呼ばれる分野を自分の中の専門領域として志すようになりました。教科書的に言えば、データ処理とモデリング、さらにそこから「分類」「認識」「予測」といったまさに AI が得意とするアルゴリズムの開発と実装(コーディング・テスト・環境構築・運用)を行う仕事ですね。

――エンジニアでありながら、実は学生時代は全く無関係なサイエンスのご出身というのは珍しいですね。確かに Yongtae さんの思考方法を見ていると、例えば「組織の中の人の振る舞い」みたいなものを分析するにも、理論的なアプローチをすごく重視しておられるような傾向をお見受けします。どんな学生時代だったのでしょうか?

一言で言えば、「THE 理系」です。数学・物理・化学なんかは全般的に好きでした。学生時代から文系科目はからっきしで笑。大学学部生の時は物理学科で、その時は相対性理論や量子力学といったいわゆる “理論物理” にどっぷりハマり、将来は研究者になろうと思っていましたね。大学院に進学すると、今度は物理学を応用して生体メカニズムを研究するという、いわゆる “生物物理” の領域に興味が移り、心臓の筋肉(心筋)の収縮のメカニズムを一分子レベルで分析してモデリングするという研究をしていました。

物理・化学・生物といった縦割り分野は、あくまでも学習レベルでの習得効率のために便宜的に区分けされているものに過ぎず、最先端の研究というのは実際には “融合領域(クロスドメイン)” になっていきます。それぞれの分野の知見を理論的手がかりとして持ち寄りつつも、どんどん分野外の知見を取り入れながら拡張していくというアプローチは、このあたりのアカデミック時代の経験によるのかもしれませんね。

――経験主義(やってみて、学ぶ)のと、理論的裏付け(体系化し、再現性を持たせる)ことの両方が大事ということかと理解しました。スピード感が求められるビジネスの世界はとかく前者の重要性が強調されがちですが、「何故その方法を試すのか、何故それで上手くいったのか」を考えることは大事ですよね。

はい、何事においても重要だと思いますが、ML Engineer というポジションだからこそ特に強く心がけている部分でもあります。これはある意味 Data Scientist との違いでもあると思いますが、ML Engineer の場合は、データの分析・評価に留まらず、そこから「モデル化」を行って、実際に特定の機能を持った AI アルゴリズムを開発・実装するところまでを仕事とする職種です。だからこそ、個人の行動でも組織の振る舞いでも、何かモデル化できる部分はないか常にアンテナを立てていることは職種上の基本所作でもありますから、常に意識するようにしています。

とはいえ、ML Engineer の面白さはそれだけではありません。人も情報もビジネスも、「ルールベース」で動くものなどごく一部です。常に偶然性高く揺れ動く現実に対していかに柔軟に対応していくかという究極命題への 1 つのソリューションとして開発されたものが機械学習でもあるわけですから、環境や実績からスピーディに学び取りながら振る舞いを変える「弾力性ある仕組み」をいかに作るかというのも、ML の醍醐味ですね。

――普段 ML に触れていない人に向けて、何か ML の提供価値を分かりやすく説明いただけませんか?

ML の強みは、単純なルールでは対応できない複雑な問題に対し、人間のような柔軟な発想でアプローチできる点です。例を一つ挙げてみましょう。文章の背景に存在する “発話者の感情”(ポジティブ or ネガティブ or どちらでもない)を判別するアルゴリズムを設計する、といった具体的なケースを仮定します。

最も直感的なアプローチは、「嬉しい」「好き」「楽しい」などのポジティブな単語を事前にリストアップしておき、対象の文がそれら(と類義語)を含んでいれば “ポジティブ” と判断。逆に、「嫌い」「悲しい」「つまらない」などのネガティブな単語が含まれていれば “ネガティブ” と判断、なにも含まれてなければ “どちらでもない” に分類するというルールベースの方法です。

しかし、これでは単純過ぎて、前後の文脈や特定の単語の持つ多義性が考慮されていません。例えば、『昔は犬が好きだったのに、今はちょっと。』という文章は、「好き」という単語こそ含んでいますが、文章全体としては「今は嫌いだ」というネガティブなメッセージの伝達にフォーカスがあります。このように、文脈全体を加味してニュアンスを確定しなければならないようなハイコンテキストな文章に対応するためには、ルールを一つひとつ手作業で追加する必要があります。しかし、それではあまりにも手間がかかり、ルールの数は事実上無限になることでしょう。

そこで AI の強みが発揮されます。AI、特に自然言語処理(NLP)の技術の進歩により、前後文脈や発話背景からも学習できるようになり、まるで人間のように思考する能力を持つようになりました。このおかげで AI はルールベースのアプローチが困難とする問題に対しても柔軟に対応できるのです。AI を有効活用することで、文字通りの意味だけでなく、背後にある発話者の意図や感情にまで迫ることができるということです。

一方で、AI というと本当に人間のようにイチから全てを自分で考えるような自立的システムを想像しがちですが、AI がどう考えるかの仕組みをデザインして実装するのは(今のところは)あくまでも人間であり、私のやりがい・悩み・腕の見せ所だということですね。


博士課程終了の日の一枚。アカデミックガウンが似合っていますね。

スピーディなプロトタイピングとコミュニケーションを武器に、顧客納得度の高い AI プロダクトを最速で提供する。

――Beatrust を知ったきっかけは何だったのでしょうか?

創業者 兼 CEO の原から Linkedin 経由で連絡をもらったことですね。最初の印象は「おー!海外進出を目指してるんだー!」でしたね。なかなかこのステージのスタートアップでは聞かないですし、日本でビジネスを確立しきった大企業にもないほどの本気度でアピールしていたことが印象的でした。私自身も学部生の時に 1回(1ヶ月ほど)、大学院生の時にもう 1 回(半年弱)、どちらもアメリカに留学していた経験があり、自由な雰囲気やスケールの大きさに魅力を感じていました。将来は絶対に海外に行きたい!むしろ移住してもいい!くらいに考えていた時期があったくらいなので、たちまちその時の気持ちが再燃しましたね。具体的なプロダクトの内容・事業計画・ビジネスの状況・メンバーなどは、カジュアル面接の中でキャッチアップさせて頂きました。じっくりと話を聞く時間を設けてくれたことも有り難かったですね。

――実際に採用プロセスを進めていく中で Beatrust に対する解像度も上がっていったのかな、と思いますが、どのような印象を持たれましたか?最終的に入社を決意された理由はなんだったのでしょうか?

「全ての出会いを最適化する」というミッションに対してとても真摯に向き合っていることと、それに対して実にピュアに設計されたプロダクトだなと思いました。「人の成長こそが、組織の成長のキードライバーだ」というのはよく聞く話だとは思うのです。組織という大きな複雑系の中で、いかに一人ひとりの成長を促すか、人と人のコミュニケーションを円滑化するか、そのために会社は何をすべきか、いろんな媒体でいろんな専門家の方が研究し発信しておられますよね。昨今でも様々なバズワードが出ては消えてを繰り返していると思います。「心理的安全性」の大事さも、「人的資本」の有効活用も、もちろん 1 つひとつがファクターとしては大事ですが、ではそれを育て育むための実行計画と具体的な “ソリューション” ともなると、どれも決め手に欠けるというのが正直なところではないでしょうか。これも組織という複雑系ゆえの困難さだと思います。Beatrust はそれを正面から受け止めつつも、諦めずにそれをプロダクトのチカラで乗り越えようと志しており、そのコンセプトにもメンバーにも魅力を感じましたね。ML Engineer として、乗り越えるべき山の高さ・達成する意義にやり甲斐を感じました。

――ソリューションとしての抽象度が高いが故に、ML Engineer の立場からアプローチに迷うことなどもあるのではないでしょうか? Beatrust で仕事をする上でのご苦労などは何かありますか?

抽象度が高い = やれることがたくさんある、とポジティブに感じる部分もあれば、新しい AI プロトタイプのアイデアを思いついた時に、それを周囲に説明するのに困るといった難儀もありますね笑。ここには 2 つ私なりに工夫しているつもりです。 1 つは、手触り感の掴みやすいものからプロトタイピングすることです。いきなり全くのド新規の機能アイデアから提案するのではなく、「今ある機能が AI でこんな便利になります」みたいなパッとみて便益が伝わりやすいものから提案し、先ずは AI というものへの理解と信頼を徐々に根付かせていくようにしています。もう 1 つは、動くものをサッサと作って使ってみてもらうことです。いくら言葉やデータで説明したところで、イメージが共有できていないと否定的な意見をいただくことも多いのですが、触ればなるほど!これはすごい!と言っていただけるケースをたくさん経験してきました。なので、必要以上に悩まず溜め込まず、とにかく早く作って体験していただくことをモットーとしています。

――そのイメージはまさに Yongtae さんそのものですね。「もう作って持ってきた!」みたいな嬉しい驚きがあります。AI という “素人目によく分からないもの” に市民権を与えていく上での、Yongtae さんなりのコミュニケーションの工夫だったのですね。

「自分で体験してみること以上の説得力は無い」と思っています。触れて・使って初めて分かることもありますし、そこで得られるフィードバックがまた新しいアイデアの元になります。だからこそ、社内のメンバーだけでなくお客様にも直接ご説明に伺いたいですし、その中でのコミュニケーションを大切にしたいと思っています。もちろん、そのような N=1 のデプスインタビュー的手法だけでなく、もっとバルクでフィードバックを集めるようなアプローチも同時に実施していきたいと考えています。何を最終的にプロダクトに実装するかは冷静な判断が必要ですが、それとは別に、先ずはお客様や社内のメンバーの中に「へー AI でこんなことも出来るんだ。便利!」という理解と信頼の土壌を築いていきたいと思っています。

スペインで開催された国際学会で登壇する、博士課程の時の Yongtae さん。

プロダクト開発を通じて「良い組織づくり」の汎用ソリューションそのものをプロトタイピングしたい。

――Yongtae さんがこれから実現したい・チャレンジしたいことを教えてください。

「良い組織」というものが創られる原理原則の研究に興味があります。どういう理屈で、何がトリガーとなって、どういう経緯を辿って組織が成熟していくのか。確かに世の中には、世界的な大企業の創業者の方の体験ベース(どのように自分達の組織を大きくしたのか)の書籍が多く出版されています。そういったものを読むのが好きで、実際多くのことを学ばせていただいていますが、一方で「それはあなたの会社だからできたことだよね」と思うこともあります。会社の規模・従業員のタイプなど、そもそも前提が世の中一般の会社と異なっていることも多いからです。より普遍的で一般適用しやすい "組織成熟のサイエンス” とでも呼ぶべきものを研究したいというのは、一人の働く人間としての純粋な気持ちとして持っています。そして、それを実現するための汎用性あるソリューションとしてどういうプロダクトが理想的なのか、ML Engineer として機能提供を通じてアプローチしていきたいと思っています。同じことを言っていた社員がいて嬉しくなったのですが、プロダクトの提供を通じて顧客企業様・ユーザー様に価値を還元しつつ、自らは「社会を巻き込んだ実証実験」をさせてもらっているようなワクワク感を感じますね。

――入社されて 1.5 ヶ月、入社前後でのギャップはありましたか?

入社前と比べたポジティブなギャップとして、想像以上にメンバー皆が優秀で驚きました。先ほど述べた私の仕事の進め方上、アイデアやプロトタイプの壁打ちをいろんな人に対して申し入れるのですが、誰も彼もが「いいね!ナイスチャレンジ!」に次ぐ二の句として、「ここ、もっとこうしたらどう?」という建設的なアイデアを返してくれるんです。時には、「さっきのあれ、ちょっとデザインに起こしてみたんだけどどう?」みたいに発展させて提案をくれるケースすらあり、これには良い意味で驚きました!

もう 1 つ、プロダクトに対するイメージも私の中で大きく変わりました。SaaS というと「売り切り完結型」をイメージするかと思いますが、Beatrust はそうではないということです。既存業務の置き換え・効率化のためのツールではなく、使うユーザー側の主体性や独創性に依拠する部分が大いにあるため、導入から運用定着まではもちろんのこと、これをどう “企業内部の風土改革やカルチャー醸成に活かすか” という面での使い手側の意思が非常に重要です。つまり、「入れれば一定%のユーザーが勝手に使う・使わざるをえない」類のものではなく、Beatrust を使って何がしたいのか?そのために何を仕掛けていくか?という部分に意志と実行力が求められるということです。いま我々共のプロダクトをお使い頂いている顧客企業様は、本当に真剣に企業の未来に向き合っている素晴らしい方々ばかりです。そのような方々とご一緒させていただける光栄を、本当に嬉しく思います。

一方で、スタートアップゆえの “作りかけの苦労” も想像以上です笑。会社としての仕組み作りもそうですが、プロダクトのロードマップやビジネスプランなども、少し走ったら景色が変わる中で、柔軟に対応して行かなければいけないということです。何社もスタートアップを経験してきた別の社員らからすれば “あるある” らしいので、それを楽しむこともスタートアップの醍醐味ということなんでしょうね笑。

――最後に、これから Beatrust にご入社頂いて一緒に働きたいのはどんな人ですか?

ひとえに、サポーティブな人と働きたいです。つまりは、自分のロールから積極的に染み出して働くことを苦にせず、「なんか手伝えることある?」を自ら言い出せる人がいいですね。Beatrust はジョブ型雇用を採用していますので、一人ひとりが具体的なタイトル(職種)を持っていて、定められた Job Discription(JD:業務範囲)に基づいて働いています。スタートアップにとってはメリットが多いと思っていて、守備範囲に対する責任感を持って働くことができ、それに対する周囲からのリスペクトも生まれやすいと思います。
一方で、どうしても JD同士の隙間でこぼれ落ちてしまいがちな仕事が出てくることは避けられず、ボールの押し付けあいや責任範囲のカニばりなんかは一般論として発生しがちなイシューだと思います。だからこそ、良い意味で JD 外に染み出した行動(全体最適行動)が取れることが重要なステージにあると思っています。何より、そういう人を世の中に増やしたいと思ってプロダクトを作っている我々自身がそれを出来ていなかったら、格好がつかないじゃないですか笑。「手伝うよ。おれもやってみたい。」くらいの余裕があるオトナ集団であり続けたいですね。

お正月に親戚と過ごす Yongtaeさん。リラックスするひとときです。

いかがでしたでしょうか? Beatrust は、2020 年に創業して以来、国内外のさまざまなグローバル企業やスタートアップなどで経験を積んだメンバーが、お互いを刺激し合いながら日々仕事をしているアーリーステージのスタートアップです。最近も素敵なバックグラウンドを持った社員が続々と参画してくれています。次回の社員紹介の連載もお楽しみに!。

Beatrust は、本日 2023.4 月時点で、正社員 27 名(国籍としては 9 か国)まで成長してきております。Diversity and Inclusion を保ちつつ、社員がより自律的・機動的に働くことを可能にするための取り組みにチャレンジしてまいりたいと思っております。Beatrust のヒト・モノ・コトを感じていただけるような情報をお伝えしていきますので、少しでも興味を持っていただけましたらこちらの “Beatrust on note” をぜひフォローいただければ幸いです。また、どうぞ宜しければ他の記事やニュースリリースも併せてご覧くださいませ。

今後とも Beatrust をどうぞ宜しくお願い致します。

(お願い)Beatrust への取材依頼や各種お問い合わせは、お手数ですが marketing@beatrust.com までお願い申し上げます。現在非常に多くのお問い合わせを頂いており、回答までお時間をいただく場合がございます。予めご容赦下さいませ。


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