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【食欲の秋編(兼読書の秋)】おいしい酒の肴

ミステリー小説を読んでいて、そこに出てくる食べ物が食べたくなったことってありませんでしたか。

食べたい度合いが高いのは、手の込んだ料理などではなく、たいてい誰でも簡単に作れそうなものだったりします。

例えば、藤原伊織の「テロリストのパラソル」のホットドッグがそうだし、

最近なら佐藤正午の「アンダーリポート/ブルー」のリンゴのせトーストだったりとか。

【参考記事】

焼きあがった食パンに、櫛状にスライスしたリンゴをのせただけ。

小説の筋は、もう空覚えだけど、リンゴの酸味とトーストの食感がいい具合で、朝食の時に、ときおりマーガリンを塗ったりしてアレンジして食べていました。

シンプルなメニューといえば、安倍夜郎さん作のマンガ「深夜食堂」。

「ビッグコミック」の連載をまとめたもので、静かなブームを呼んでいたけど、気づけば、もう26巻まで出ているんだね。

場所は、とある繁華街の片隅で深夜に店を開いている、カウンターだけの食堂。

わけありげな主人が、間に合わせの食材を用い、客の注文で一品をつくる。

タコの形のウィンナー炒め、一日寝かした「きのうのカレー」、炊き立てのごはんにかつぶしと醤油をかけた「猫まんま」、昔ふうのナポリタンに、ポテトサラダ、タマゴサンド、秋刀魚の塩焼き、等々。

客はそれぞれ席に着くや「いつもの」と注文する。

その仕種、食べ方から、客の物語が見え隠れして、短編小説ふうの空気を生み出していましたね。

とりわけ食指が動いたのが、山盛りのオニオンリング。

常連の若者客は、まずレモンを絞り、塩とコショーをふって腹を落ち着けます。

次に、ソース、ケチャップ、マスタードをからめ、ビールを片手に、いかにもうまそうに口に運んでいく。

そして、すこしだけ残したものを、卵とじにしてもらって平らげる。

読みながら、唾がこみあげましたね。

誰もが食べた味をネタにしているあたりは、美食を売りにしたマンガの対極をいっています。

このマンガは、ドラマや映画化されていましたね。

「おつまみ横丁 すぐにおいしい酒の肴185」瀬尾幸子(著)

さて、長い前置きになったけど、この料理本のシリーズがびっくりするくらい売れていたのは、試してみたくなる読者が多いからだろうね(^^)

「たこのガーリックソテー」に「しらすとししとうのペペロナンチーノ」、「あじフライ」から「わさびおにぎり」まで、居酒屋メニューを集めた「おつまみ横町」は、50万部以上を売り上げたという。

「もう一軒おつまみ横丁 さらにおいしい酒の肴185」瀬尾幸子(著)

本書はその続編です。

ちなみに池田書店といえば、実用書の出版として知られる老舗。

1960年刊行の「性生活の知恵」は、戦後を象徴するミリオンセラーとなりました。

料理の本といえば、雑誌サイズの大判がポピュラーだけど、これまでのジョーシキを打ち破った「新書」の造りが人気が出たポイントだったそうです。

コンパクト。

それでいて器に盛り付けられたカラー写真が見た目にもきれいで、食欲をそそられる構成です。

パラパラとめくっているうちに、今晩はこれだな、あ、こっちもいいな。

なじみの居酒屋で、本日のおすすめメニューを眺める気分。

新書のサイズで、1ページないし見開きに収めるため、レシピは一、二、三の三段階、それもいたってカンタン、初心者向き。

砂糖、塩、醤油、薄力粉、ごま油など、一般的な調味料があれば、あとはメインの食材を調達するだけ。

食材ごとのインデックス付きで、冷蔵庫であまった野菜を使い切るにも便利と、こまかい気配りが行き届いています。

ヒット商品は、誰もが考えつかないものではなく、これまであったものをちょっとだけ改良することから生まれる、とはよくいわれること。

本書も斬新なメニューの考案より、盛り付けの器に凝るなど、視覚的な心遣いに重点が置かれていました。

千円を払ってこの本を買わなくても、スーパーとかに置いてある料理カードを集めれば済むんだけどね(^^)

なんて思ったりしながらも、一冊にまとまっているのと、カンタンにプロっぽく作れるという、相反した要素を盛り込んでいるあたりが魅力です。

繰り返すけど、写真の盛り付けがすばらしいのもプラス!

いうなれば、これ一冊でなんちゃってシェフ気分が味わえます。

レシピにもさりげなく一言アドバイスが利いているんだよね。

「卵サンド」はナイフ2本(片手に1本ずつ持ち)で粗く刻む、ベシ。

具がパンからはみ出るぐらいたっぷりはさむのが美味しさの秘訣。

まあ、こういってはなんだけど、ただの卵サンド。

しかし、上品な皿に並べられるとこれが、うまそうなんだよねぇ(^^)

卵と食パンとマヨネーズと塩・こしょうしか使ってないのに、ね。

これから寒くなるにつれ重宝しそうなのは、鍋かな。

小鍋にレタスと水、塩で煮立て、豚肉を加えて好みのタレで食べる「豚肉とレタスのしゃぶしゃぶ」をはじめ、「はまぐりとねぎの湯豆腐」「牛肉と水菜のすき焼き」「ごぼうやセリと煮込む鶏肉の鍋」といった鍋料理が充実しています。

しかし、いちばん惹かれるのは、もっと簡単につくれるメニュー達。

塩むすびに七味唐辛子をふりかけた「塩七味唐辛子おむすび」。

大根の葉を熱湯でさっと塩ゆで、水けをきってみじん切りにして、あつあつのご飯にしらすと混ぜ合わせる「大根菜めし」など、ああそういうのあったよなぁ、というか、あまりにシンプルすぎて、料理の写真を眺めるだけで、忘れていた時間を取り戻したかのようなシアワセ気分が味わえます(^^)

レシピは、料理にも値しないものなのに、ね。

さて、本書を買ってからというもの、厨房に立つ機会は変わらないけど、あれこれ料理のエッセイを読むようになったかな。

そうそう、嬉しいことに、本書には、前述の玉ねぎリングフライも載っていて、その「衣」について、こんな一言アドバイスが添えられていました。

「衣の「卵1個+水」は、計量カップに卵1個を割り入れ、 1/2カップ(100cc)の目盛りまで水を注ぐという意味」

素人がつまずかないようにという配慮で、説明するまでもない、ふだん料理する人にとっては、今更というあたりを、念入りに助言しているのが売れた秘密だったのかもしれないなって、そう感じました。

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