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せめて、武士/暗殺者らしく。『レオン』ばりの善児死亡フラグに騒然。第33回「修善寺」見どころ振り返り!【鎌倉殿の13人】

NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』第33回の感想です。

前回の感想はこちら↓

(※以下、ネタバレ注意)

「狩りと獲物」の伏線回収か。武士らしく散った頼家に感動の神回!

毎回、次々にレギュラーメンバーが死んでいく様を『しぬどんどん』だとか『シヌシヌエブリバディ』だとかネタにされてるいる『鎌倉殿』ですが……(いやぁ、よう考えるわw)。

しかし33回のストーリー、見終わって「感動した」とか「気持ちよかった」みたいなポジティブな感想を抱いたんですよね、私。ひょっとしたらもういい加減、「作中人物が死ぬ」状況が当たり前になってマヒしてきたのかもとか思ったんですけど……。

ただ前回の第32回があまりにも「鬱展開」だったので、その反動はあると思いつつ。後ほどまとめますが、トキューサ(a.k.a 時房)(瀬戸康史)くんだったり和田(横田栄司)殿だったり、意外とギャグやほっこりするシーンも散りばめられたりしてたのが良かったですね。

そして、覚悟はしてたんですけど、頼家(金子大地)の散り様よ。史実ではふぐり(キン〇マ)もがれて死んだとかいう話で「これはNHKじゃ再現できん」と放送前からもだいぶ話題になってましたが。

これを再現しなくてよかったどころか、ドラマではまさにこれこそ武士の死にざま。むしろこれを『新解釈・鎌倉史』として後世に遺していくべきではと思うほどの展開でした。

改めて、そこに至るまでのシーンを振り返ります。頼家の命が狙われていることを知らせにくる泰時(坂口健太郎)。しかし頼家は「座して死を待つつもりはない。最後の最後までたてついてやる」と、運命に抗う覚悟を決めていました。

それでも「お願いですから」と懇願する泰時から話題を逸らし、これから始まる猿楽に「お前も見ていけ」と誘う頼家よ……。

そもそも頼家、政子(小池栄子)が訪ねてきたときには「北条の者には会わん」と面会もせずに追い返してるんですよね。泰時も北条じゃん。しかも近習からも切捨てた相手ですよ。「危険を知らせる」という流れとは言え、普通に会うんだ?というのも、きっとただのご都合主義ではないと思うんですよね。

ひょっとしたら頼家は、もうこのときには刺客が来ていることを悟っていたのかもしれません。その上で、自分が見事に刺客を返り討ちにする様子を泰時に見せつけようとしたのかも。

なんて考えると、第23回「狩りと獲物」、まだ万寿だったころに彼が口にした「必ず自分の力で鹿を仕留めてみせる」という伏線の回収にもなって、もう涙が止まらないどころじゃない。ウワァァァァァァ!!!!三谷幸喜天才かよ!!!!!!ギャアアアァァァァ!!!!!みたいな変な叫び声を上げながら悶えたくなります。

それプラス、頼家が善児(梶原善)を仕留めるということは、顔も知らない異母兄・千鶴丸の仇討ちにもなった。SNSではそう指摘されてる方もいました。まぁ千鶴丸というか、源氏だけでも義経の息子や蒲殿の仇でもあるし……とにかくいろんな人の仇なんだよね、善児は。その負の連鎖を断ち切ったんですから、ホント英雄だよ頼家。これもうFGOで実装されちゃうわ(←また勝手なこと言ってる)。

なのにさぁ……もう泰時、ほんと泰時よ……猿楽の中に父・義時が寄越していた刺客=善児が紛れていることに気付いて正体をバラすまでは良かった。さすが名探偵。頼朝の落馬の原因を推理して以来ですな。

そして何気に従者の鶴丸(きづき)も、本来笛を吹くべきだった者が死体となって茂みに横たわっているのに気づいて知らせようとしてたんですけど……結局その後、泰時と共に、もうひとりの刺客・トウ(山本千尋)にぶん殴られて気絶。2人ともマジで役に立たねぇ!これじゃあ誰も、善児を仕留めた頼家の雄姿も見届けられず、ただ抵抗虚しくトウに殺されただけみたいじゃない……。

ああ、だからこそ資料では「ふぐり(睾丸)をおさえつけ、無力化したところを押さえつけて殺した」(『愚管抄』)なのか。とりあえず、「武勇に優れた頼家は、いろいろ抵抗したみたいだけど、やっぱダメでした」みたいになるんだなぁ……。この一連の流れが、ドラマではどう慈円(山寺宏一)さんの耳に届くかも見ものですよ。細かすぎて端折られるとは思うけど。

ただ泰時にとっては、この無念も、いずれ御成敗式目を作るための糧となっていくのだろうか……うぅっ(※そこは主人公・義時(小栗旬)の死後の話になるので、ドラマでは描かれる予定も完全にない)。

「一幡」の2文字でしくじる善児。映画『レオン』ばりの死亡フラグに騒然

一方、頼家に返り討ちに遭って死んだ善児の最期も、美しかったです。ひょっとして第24回、トウの両親と蒲殿を殺した以降は誰も殺してなかったんじゃ?と思われていた善児ジジイ。今回は最後なので出血大サービスと言わんばかりにハッスルハッスル。泰時に正体をバラされようが動じることなく、襲いかかる見張りの侍もバサッと斬り捨ててました。耄碌してねぇじゃねぇかジジィ!

頼家と対峙した際も、背中を斬られて「痛ぇ」なんて言うんですが、ぜんぜん痛くなさそうでしたね……あのまま戦っていたら普通に勝っていたんじゃと思うほどでしたが。しくじったきっかけは「一幡」の文字が目に入ったこと。恐らく、遺灰か遺髪?が入った筒に貼りつけられていた名札が落ちたんでしょうけど。

たかが名前で?と思った視聴者もいらっしゃったかもしれません。でも、善児にとっては大きな意味があるんですよね。そもそも文字を読めるのが文官や貴族、一部の豪族に限られていた時代。一幡(相澤壮太)をかくまっていたほんの一時期、一幡が紙いっぱいに自分の名を書いていた回想シーンも流れました。「一幡」の2文字はただの文字じゃない、善児を好いてくれていた特別な子を表す、善児が唯一意味を知る2文字なんですよね。

これを、同じく「文字を知らない暗殺者」を描いた1990年代のヒット映画『レオン』を彷彿とさせるなんてSNSでは話題になっていました。

思えば上総介(佐藤浩市)も晩年、「これからは文字が書けなくちゃ」と文字の練習をしていましたけど、「字を知らない人間が字を習い始めたら死ぬ」という死亡フラグをまたうまいこと使う脚本に喝采が送られてました。

マジで今後、文字の手習いのシーンが出るだけで誰か死ぬんじゃねえかとビクビクしなきゃいけなくなっちゃう……。

トウの真の目的が判明?その哀し気な表情の意味は

そして、トウの真の目的も今回判明。「ずっとこの時を待っていた」と、頼家の元から逃げ延びて満身創痍の善児にトドメを刺します。そもそもトウは、善児に両親を殺された農民の娘。SNSでも「因果応報」と話題になっており、私も1回目を見たときは「ああ、やっぱりか」とすんなり彼女の真の目的を受け入れてたところでした。

ちなみに32回でトウが一幡を殺すためにためらいなく川遊びに連れていくシーンも、インタビュー記事によると「かつて自分が家族を奪われたように、一幡を殺して善児を同じ気持ちにさせてやる」なんて演技指導が入っていたそう。ほえぇ……!

ただ、「遂に目的を果たした、やったー!」みたいな感じでもないんですよね。そういう風に見せたかったら、またちょっと演出やセリフも変えてくると思うんです。

そもそも、すでに頼家から致命傷負わされてるんですから、わざわざ追い打ちかけなくていいじゃん。善児の視界にトウが現れ、善児が「良かった、すぐに手当てしてくれ……」みたいに言ったところで、「黙れ、父と母の仇め。そのまま苦しんで死ね」で唾吐いて見殺しでもいいわけで。(それもそれでオタクウケしそうだなw)

実際の演出は、どっちとも取れる感じ。善児を仇として憎んでもいるし、反面、育ての親として感謝もしているという。ものすごくアンビバレントな描き方だったんですよね。これをインタビューでは、女優さんもこう語られていました。

・善児に鬱憤や恩といった両極端の思いを抱くトウを表現するには、(感情の)真ん中が一番いいと思っていたが、どう演技できるか悩ましかった
・(演出の)末永さんや梶原さんとお話して、自分の中ではベストの芝居に挑戦できた
・梶原さんに相談したときに、「じゃあ向き合おうか」と言ってくださった

脚本だけじゃない、演技指導や、役者同士のコミュニケーションの中であの展開が生まれたのだと。「まさに総合芸術!」と拍手を送るより他ないんですけど。

特に、トウが正面から善児を斬る直前、善児が無言でうなずくのがまたいいんですよ……「なるほど、そうだったのか」と運命を受け入れるというか。「そうだ、俺の弟子ならそれでいい」とトウを認めるというか。ああ、思い出すだけで泣けてくるわ……。

そして、斬る瞬間には「父の仇!」と叫ぶんですけど、斬り終えてからは「母の仇」とポツリ。これ、セリフを2つに分けたのにも物凄く意味がある。斬る瞬間はやはり力が入ってますから、躊躇いなく刺しこむための「父の仇!」なんでしょうけど。目的を果たして、ふと冷静になりながらの「母の仇」。自分のやった行為を自身で肯定するような、それでもこみ上げてくる哀しみを抑えるような。「お母さん、これでよかったんだよね?」と許しを請うような感情もそこにはあるのかもしれません。

それで……この先のトウの運命やいかに、ですけど。目的を果たしたんだから暗殺者稼業ももう辞めるのかと言ったら、そういうわけにはいかないでしょう。今はもう、義時というブラックに染まった主人がいるわけで。そうでなくても、すでに頼家・妻のせつ(山谷花純)・息子の一幡と、3人もの重要人物を殺めてしまった業は残るわけです。

トウにとっては、きっとこれからが、暗殺者としての暗く哀しい物語の始まりなのでしょうね……つれぇ……。

ここにも注目!筆者が独断と偏見で選ぶ「見どころ」一挙振り返り

さてさて、最後に。筆者が独断と偏見で選ぶ「見どころ」ポイントを一挙に振り返っていきましょう。

・今回も殺伐とした展開の中で、やはりブレずに「ユルい」感じを出していてくれたのはトキューサ君でしたね。冒頭で義村(山本耕史)から「北条は他の御家人たちから避けられている。近ごろ誰かとすれ違ったか?」と訊かれて「……す、すれ違っていない!みんな、どこかに出かけてるのかと思いました」とか言っちゃうオトボケっぷりですよ。ただそんな彼も、兄・義時の従者としてだんだんポジションが固まってきましたね。善児小屋に行ったときの「兄上のことはすべて私が受け入れます。何でもお申しつけください!」と。弟として可愛いやつだよなーと思いましたが、義時に完全スルーされていましたね……。何やら、古畑任三郎と今泉くんコンビみたいで、往年の三谷幸喜ファンとしては懐かしい気持ちにもなりました。義時がブラックに染まっていくぶん、良い中和剤となってくれたら良いが……!

・そんな義時も、闇堕ち具合は「比企の乱」の時点でまだ50%ぐらいだろうと私は書いていましたけれども。

今回もまた闇堕ち度が何%か進むのか?と思うような、「北条あっての鎌倉」なんてセリフも飛び出しました。かつてはお前、「鎌倉あっての北条」って言っとったやん……完全に時政(坂東彌十郎)パッパと同じ思考に染まっちゃっとるやん、と。その一方で、頼家に危険を知らせに行く泰時を止められない。「あれはかつての私なんだ」と言ったり。迷って迷って、ブレブレな感じの小四郎がまた見れて、逆に安心して見てしまった自分がいました。特に後半、運慶(相島一之)が出てくるのもまたよかったですね。前にちょろっと出て、今回なんか2回目のハズなんですけど。「お前、悪い顔になったな」「己の生き方に迷いがある、その迷いが救いなのさ。悪い顔だが、よい顔だ」なんて。名言遺しすぎでしょ……なんやこの僧!もうずっと鎌倉にいてくれぇ!!

・一方で、完全に闇堕ちしたのは妹の実衣(宮澤エマ)の方です。3代目鎌倉殿の千幡 a.k.a 実朝(嶺岸煌桜)の育ての親だからって、御台所よりも鎌倉殿に近いポジションに。しかも教育係に付けたのが、都より派遣されてきた源仲章(生田斗真)……って、そいつ、お前の息子の頼全(小林櫂人)を殺したやつやん!実衣ちゃん、知らないんでしょうか?知ってたら、そんな危ないやつを第二の息子とも言える実朝の傍に置かないでしょうから、やっぱり知らないのでしょう……。義時も善児が兄・宗時(片岡愛之助)の仇だと気づいていなかったわけですけど、ここにきて、また大切な人を奪った人間と気づかずバディを組んでしまうという悲劇が繰り返されるのでした……。まじで鬼脚本や……。

・平賀朝雅(山中崇)も、登場2回目にして怪しさ全開。実朝の妻をと都に派遣されるのですが、何やら後鳥羽上皇(尾上松也)とは楽し気に話してましたね……当時のジオラマ模型みたいなやつを見せてもらいながら、平賀「この汚い小屋みたいなものは?」上皇「鎌倉よ」平賀「コホーーーッ!!(口を天に向けて大笑い)」みたいな。たまんねぇ表情するやん。とても鎌倉へ婿に行った人間とは思えないなぁ……打算的な結婚であったのがミエミエですわ。本当、きく(八木莉可子)ちゃんが可哀そう。まぁでも、この平賀さんのアヤしい感じが、比企なき後の比企能員(佐藤二朗)ポジションな気もしてきましたよ。新キャストも、これまで去っていったキャストたちの穴を埋めるように、各々の位置に配置され始めました。代わりの人間って、いるもんなんだなぁ……それはそれで寂しい気もしますね……。

・前回、仁田(ティモンディ・高岸宏行)殿を酒に誘って断られてしまった和田殿。あの時をリベンジするように、今回は義時の方から誘われて飲み会を開いてました。「難しいことを考えず、楽しく酒が飲めると思ったから」と言う義時に、「確かに俺は難しいことは難しいから嫌いだ!」とか言っちゃう和田殿よ。本当にバカ……場数を踏んでいて頼もしいですな。もう大好き。お笑いコンビ・錦鯉の長谷川雅紀さんみたいじゃない。見た目はすげえ毛深いけど。この和田殿も、ずっとこんな感じの癒し枠でいてくれたらいいのになぁ……(遠い目)。

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