見出し画像

真の悪は比企か、北条か。頼家の“ヱヴァQ”みもヤバすぎ。第31回「諦めの悪い男」見どころ振り返り!【鎌倉殿の13人】

NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』第31回の感想です。

前回の感想はこちら↓

(※以下、ネタバレ注意)

遂に滅亡!比企一族の最期に涙・涙・涙

遂に「比企能員の乱」が描かれた第31回でしたが……皆さん、ぶっちゃけどうでした?「比企が死んで済々した!」「比企ロスは流石に無かったww」みたいな意見もチラホラ見ましたけど、個人的には一番泣いた回だったかもしれない。「義経ロス」「蒲殿ロス」「全成ロス」より涙腺の緩み具合がハンパなかったっすわ。

言うて、規模が物凄い。比企能員(佐藤二朗)ひとりが亡くなるならまだしも、一族皆殺しですからね。いままでレギュラーキャラとして華々しく描かれていた女性や子供まで、みんな。そりゃ、泣きますよ。怖すぎるもん。一幡を連れて逃げ延びようとしたせつ(山谷花純)も、泰時(坂口健太郎)の軍勢に見つかり、善児(梶原善)の弟子・トウ(山本千尋)によって鮮やかに斬られました。そんなシーンだって哀しくてたまらなかったです。

そして一幡(相澤壮太)も善児に……殺す瞬間こそ描かれなかったですけど。それでSNSには「一幡、実は生きてる?」説も流れてましたが、少なくとも『吾妻鏡』によれば、あの局面で命を落としているとのこと。

まさに冒頭で実衣(宮澤エマ)が言った「比企を滅ぼしてください。首を取って大きい順に並べるの」の通りの結果になってしまいました……。

先に手を出したのは比企?実衣と全成の子、頼全の殺害

そもそも事の発端は、京都で修行中だった実衣と全成(新納慎也)の子、頼全(小林櫂人)が殺されたこと。これを北条一家は「比企の差し金だ」と判断したわけですが。ただ、頼全殺害の際に出てきた源仲章(生田斗真)が、比企とどう関わりあったのかは謎。

まあ仲章と比企が関わりなくても、比企の一存でやれたと言われれば……そもそも「鎌倉殿の命令」なのに、鎌倉殿=頼家(金子大地)は病でぶっ倒れて昏睡状態。「じゃあ誰が命令下したんだよ。今、頼家にべったりなのは比企じゃねぇか。比企だろ」と言うならそうかもしれないですし。

ただ『吾妻鏡』によると、頼家がぶっ倒れたのは建仁3年(1203)7月20日。ドラマでは描かれていないですが、「源仲章の使者が京から鎌倉に到着。去る16日に在京御家人を動員し」とあり、頼全殺害の命令が下されたのは、頼家が倒れるより前です。じゃあ本当に頼家が命令を下した可能性だってある。

ただ頼家、良くも悪くもまだ若いですからね。全成を殺した第30回では、蹴鞠を手に持った際、悪夢のように全成の生首がフラッシュバックするというシーンもありましたが。あれで「もうこんなことは二度と御免だ」と思ったのか、「ああ怖い怖い。きっとやつの息子も復讐心を燃やすに違いない。怖いから息子も殺せ」となったかどうかはわかりません。

ともかく北条家は「犯人は比企だ」と疑わないわけで。視聴者としても「なるほど、あの比企だったらやりそう」と納得して見ちゃいましたけど、その証拠がどこにも描かれていなかった点は気を付けておきたいところです。

ブラック義時、降臨。比企を罠にはめるも、闇堕ち度合いは50%か

ともあれ、またも身内が殺されたことで、実衣も義時(小栗旬)もブラックに染まり、北条家は比企滅亡のために動き始めました。これ「完全に闇堕ち」とSNSでは話題になってましたけど、私の個人的な見方としては、いやいやまだ50%ぐらいじゃないのという印象です。

その証拠に、もう比企を滅ぼす気満々のりく(宮沢りえ)から「比企を滅ぼしたとして」と話を持ち掛けられたときは「まだです」とすぐに否定していますし。

そして「守護地頭の補任権を、一幡と千幡で半分ずつにする」だなんてどう考えてもダメな案を出して比企をキレさせ、攻め滅ぼすための大儀名文を作った後も、すぐに攻め込もうとはしない。

まぁ戦のための準備も必要なわけですから、この期間で着実に足固めしてたのかもしれんですけど。時政(坂東彌十郎)と話し合ったときも「もう一度、能員殿に会ってまいります」なんて言って「お前も諦めの悪い男だなぁ」と時政から呆れられてしまいます。まさか、サブタイトルになってた「諦めの悪い男」って、義時のことだったの⁉てっきり比企能員のことだとばかり思っていたら……。

そもそも比企能員って、別にこの段階では「諦めの悪い男」でも何でもなかったのです。頼家がこのまま目覚めないとなれば一幡が次期・鎌倉殿になることは決まっていますし、アドバンテージは完全に比企能員にありました。もはや「諦める」というポジションではまったくない。

にもかかわらず、比企が「悪役」として意地汚く振舞っているような印象に映っちゃうのは、これも視聴者としてはうまいこと踊らされている気分になっちゃいますね……。

比企能員の殺害、最大の原因は「気持ちが大きく出すぎちゃったせい」?

でも逆に、この「アドバンテージは比企」という余裕が、比企滅亡の引き金になったかと思えば、人生ってままならないものです。

時政からの“和睦”の申し出を受け、丸腰で北条の館にやってきた能員。これも『吾妻鏡』に記載の通りの展開ですが、道(堀内敬子)など家族からも武装するように言われて「心配するな。かっこいいところ見せちゃる」みたいに勇ましく飛び出して行ったのは、ちょっと最後の最後で詰めが甘かったのかもしれないですね。

かつては「「表に出ろ」と言われて表に出て良かった試しはない!」なんて名言を残した能員さんがですよ。やっぱり気持ちが大きくなりすぎていた。わかりますけどね……だって人生、一度はカッコつけてみたいじゃないですか。でもそれが命取りになることだってあります。株だって、一度大儲けして、勝負をかけて注ぎ込んだ直後に、一気に下落の波がきます……いや、何の話をしているんだw

ただそれでも仁田(ティモンディ・高岸宏行)殿に背中を切られ、「あれ、手応えが?」みたいな怪訝な表情を仁田殿がしていると。能員、着物の下から甲冑が現れました。やっぱり用意してたーーーー!史実とは違いますけど、しかし史実よりもよほどリアリティを感じる展開です。

お蔭で最期の最期に、めいいっぱいの呪詛を叫んであの世へ行く時間を稼ぐことができました。「北条は策を選ばぬだけのこと。そのおぞましい悪名は、永劫消えまいぞ」と。

佐藤二朗、圧巻の演技ですよ……。ただのコメディ俳優じゃないです。彼にこんな役をやらせたらもう、鬼気迫るどころの話じゃない。「佐藤二朗劇場」というツイートもあり、あの顔にすべて持っていかれた気がします。

ただ、どんなに北条メインで、比企が悪役みたいな描かれ方をしていてもですね、やっぱり本当の悪は北条だったのかと考えてしまう。すべて終わったあとの「これで良かったのでしょうか」と言った政子(小池栄子)に対する、義時のセリフが、またシビれます。「良かったかどうかはわかりません。しかし、こうするより他ありませんでした」。これも北条が生き残るためなんですよね。

結局、北条が生き残ることが、鎌倉のためになっていくのか?なっていくと言えば、長い「鎌倉時代」の歴史で見ればそうとも感じられますが。ただこの後の「鎌倉殿」の在り方を考えると、なかなか肯定もできかねます。

まるで『ヱヴァQ』!目覚めた頼家に残された絶望

この回の最後の最後で、もう目覚めることはないと思われていた頼家が、まさか回復を遂げました。いや、そんなことってあるかよ!と思いますけど、これも『吾妻鏡』にある通りの史実なんですよね。っていうか、そもそも倒れたのが全成の呪詛のせいだとしたら、呪いが効いて死に至るか、その確率は五分五分だって言ってたでしょうが……やっぱりだよ!

「随分長い間眠っていた気がする……せつは?一幡はどうした?呼んで参れ」なんて言われて、「いや、もう皆死にましたよ」なんて誰も言えるはずがない。オマケに頭を触ると、ハゲている。なんで出家させられてんの!?って感じですけど、これも父・頼朝が晩年、昏睡状態にあったときと同じ流れでやっちゃってました。

この、誰も説明してくれない、しかし事実を伝えようとすれば絶望しか待っていないという状況、まるで『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』のシンジ君かよと思いながら見てたわけですけど。いや、見方によってはシンジ君より絶望感すごいですよ。愛する妻どころか、その子供も、今まで自分を育てて支えてくれた比企一族も、みんな滅んでしまった。オマケに次回予告を見ればわかる通り、自分自身の命だって脅かされようとしている。

「お願いですから、もう鎌倉殿にはならんといてくださいよ!」なんて頼家に言ってくれるサクラちゃんもいないわけです。いや、誰だよサクラちゃん。『ヱヴァQ』の話はもうやめましょうか……。

ともあれ、ここから北条氏と頼家の全面戦争が勃発。北条家にとってはもはや大義名分なんてなんもないですよ。完全に「悪の結社・北条」となってしまったわけですが。これをドラマでどう描くか……。

予告編では、さっそく今まで北条家に尽くしてきた仁田殿と和田(横田栄司)殿にまで「時政の首を持ってまいれ!」なんて命令が下されてました。この2人もどうなっていくのか……まぁ史実の通りで描かれるとは思いますけど、前もって語ると辛くなるだけなので止めておきます。

もう絶望しかないよこのドラマ……なのに「ウッ、面白い……面白いよ……」と完全に毒に侵されながら喜んでるような気分になってきました。マジで中毒ってのはこういうやつだよ……やってくれたな三谷幸喜ィ……。

ここにも注目!筆者が独断と偏見で選ぶ「見どころ」一挙振り返り

さてさて、最後に。筆者が独断と偏見で選ぶ「見どころ」ポイントを一挙に振り返っていきましょう。

・今回、本当に殺伐とした回で、笑えるところがひとつもなかった……と思いきや、どんどん出てくる三浦義村(三浦義村)の遺言操作とか、佐々木の爺さんの康すおんさんがまさかの孫役として再登場してくるとか、ちゃんと爆笑ポイントも入れてあるの、さすがすぎました。

・三浦義村も、中盤は比企の館に招かれ、取り込められようとしていました。最終的には北条側に就いて「親子二代に渡って仕えてきた絆を見くびってもらっちゃ困る」的なことを義村は言うのですが、あれ、本心ではないでしょう。また義経が晩年に「三浦の倅は損得勘定がわかるやつだ」と述べていたように、「北条に付くか、比企に付くか、どちらが得をするか」と、必ず一度、天秤にはかけていると思います。確かに比企の言ったように、頼家とつつじ(北香那)の子・善哉(長尾翼)の乳母夫としては、ポジション的な意味で、北条側に付いても三浦の世が訪れることは未来永劫ない印象も受けてしまうのですが。ただ、鎌倉を裏で操っていく存在として北条と比企のどちらがやりやすいかと言えば、間違いなく北条という判断を下したように思います。いよいよここから真のボス・三浦義村が鎌倉を動かしていきますよ……楽しみで仕方ないですね!

・今回、政子の孫でもある一幡を殺す沙汰を下した義時。その前には政子に「仏門に入っていただきます」なんて言い、「誓いなさい!」と言われて「誓います」と明らかな嘘を吐いたのも話題になっていましたが。

これもTwitterでは「頼朝や八重が生前に言ったセリフから繋がっていた」と指摘されている方がいたのはシビれました……。ただ私としては、それよりも、実際に一幡が死んだあとで義時が政子に言ったセリフの方に注目して見ていました。その際には「行方不明ということにしました」と言い、「予定通り仏門に入らせた」なんて嘘はもう吐いていないんですよね。これ心理学的な話、「これから悪いことやるぞ」と思っている人間はいくらでも嘘が言えるんですが、実際にそれをやって後ろめたい気持ちでいるときには、もう嘘は吐けないんですよ。むしろ「殺しました」と正直に言った方が気が楽になる。そこでせめて、嘘でも事実でもないまったく別のことを言って気を紛らわせているようにも感じました。ある意味、「まだ人の心がある」と言いますか、完全にブラックになりきれていない義時の心境をも表す絶妙なセリフだなと感じましたね……。

・比企能員を北条の館に呼ぶ前に、もう一度能員と話し合ってくると言う義時を制して「埒が明かねえ」と出向いた時政ですが、その際に2人で、頼朝が大敗を喫した「石橋山の戦い」の思い出が語られたのは震えました。

しかし「あのとき加勢していれば頼朝様は勝っていたかもしれない」と言う比企に、「良いことを教えてやろう。あのとき比企が加勢していても、頼朝様は負けておったわ」と時政は言い放ちます。あのセリフ、比企滅亡の展開から逆算してよくよく考えれば「比企なんていてもいなくても何も変わらねえ。むしろいない方が清々する。これからてめぇらを滅ぼしてやるから覚悟しておけ」みたいな時政の決別宣言だったような印象も受けて、またビビリます。能員からしてみれば、「おっ、ワシらが役に立たんだなんて、ハッキリ言いやがったなチクショー。これからワシらが鎌倉の中心になるのに、負け惜しみも大概にしろや」みたいな感情だったでしょう……時政や義時が何か企んでること、あの時点で気づいていてほしかったな……。

・前回、「話がある」「覚悟はできております」と、2人きりで語り合った義時と比奈(堀田真由)。一体何を話したのかと思えば、なんと比奈を比企家のスパイ役に任命していたのでした。まさか目的のためには妻をも利用するかよ……と、これには息子の泰時も「父上が信じられません!」とブチ切れていましたが。同じ妻なのに、八重さんのときとは関わり方が真逆じゃないか……。

これも「義時のすべてを受け入れる比奈だからこそ頼めた」と言えば、まだ少し見方も変わりますでしょうか……変わらないでしょうか。そもそも「私の方を向いてくれとは言いません。私が小四郎殿を想っていれば、それでいいのです」と言って連れ添っている女性ですからね、比奈は。

ただそこに「付け込んだ」という言い方をしたらなぁ……やっぱりブラックだよな、義時。次回、この2人の仲はどうなっていくんでしょう。頼朝には起請文まで書かされて、「絶対に離れない」と誓い合った2人がですよ。ただ、一幡を生かすという政子との誓いも破りましたからね、義時。もう……辛いわ……。

この記事が参加している募集

テレビドラマ感想文

おすすめ名作ドラマ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?