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【どうする家康】文字通り鬼気迫る攻防!氏真はとんでもない呪いを残していきました。第12回「氏真」深掘り

NHK大河ドラマ『どうする家康』(以下、『どう康』)第12回の深掘り感想です。
(※本記事は一部有料です。ドラマレビュー箇所はすべて無料でご覧いただけます)
前回の感想はこちら↓

(※以下、ネタバレ注意)
(※本記事のセリフの引用箇所は一部ノベライズに準拠しており、ドラマのセリフとは異なる場合がございます)

(前書き)前回も様々な反響をいただきました。ありがとうございます!

前回、奥歯にものが挟まったようなレビューをしてしまって、僕の中では割と冒険してしまった感がありました……またいろいろ文句が飛び交うのではないかとw

しかし各SNS・コミュニティで「やっぱり氏真の主人公回だったのね」「氏真に対してあまり感情移入できず泣けなかったけど、自分だけじゃなくて安心した」など一定のご理解をいただけたようなコメントも見られ、書いて良かったなとホッとしたところでした。

やっぱり今まで楽しんでご覧になってきた方の中にも、第11・12回は「どちらも神回だった」という声だけでなく、「自分にはあまり感動できなかった」という意見も、両方あるんですよ。だからと言って「感動できないなら、あなた向けの大河じゃないからもう見なくていいです!」なんて冷たいことは言わなくていい。1年間、これから先もいろいろな展開を見せていくドラマなので、次回に期待していただければと思います。

ただ、それでも「私だって泣きたかったのに」「なんでモヤモヤが残っちゃったんだろう」という方は、僕のレビューを見て「ああ、今回はそういう物語だったのか」「その視点なら泣けたのかも」とヒントに感じていただければ良いですし。少しでも腑に落ちるような感覚を味わっていただければ幸いなのです。

一方で、「でもここがわからなかった」「いや、ここはこうなのでは」「ここは筆者とも意見が違うな」と各々で意見交換されているようなコメントもいくつか拝見しました。それ自体、すごく良いことですし、僕が記事を書く上でのもう一つの目的も達成できたような気がします。

僕の書く記事って、あくまで一つの「ものの見方」なんですよね。それが絶対正しいと言うつもりはまったくないですし、逆にそれを否定していただくことで、また新たな視点や鑑賞ポイントを見つけていただけるのであれば、ネタを提供した甲斐があったというもの。そこからまたファン同士の意見交換に発展していただくのも大変ありがたく思います。

また、筆者である僕自身がコメントに対してなるべく直接返信しないという方針も決めましたが、それはそれでよかったなと。「どう受け止められても結構ですよ」と言いつつ、やはり僕的に主張したいこともあるわけで……ただそれを個人に向けて言うと、「なんだかキツイもの言いだな」と感じられることもあるでしょうし、「結局、コイツの押し付けじゃないか」という誤解を生んでしまう。

なので、皆さんのコメントはちゃんと受け取りつつも、またこうしたレビュー記事の中で、読者さま全体に向けた形でお返しできればなと思っております。

……はい、また前振りが長くなってしまいましたね!💦では改めまして、今回は今川氏真とその妻・糸にフォーカスして、物語を深掘りしてまいります。

第2回の元康と対をなす、氏真の「将としての目覚め」。本当の地獄への一歩か

まずアバン、今川館で、裏切りの岡部元信が氏真に切腹を迫るシーン。ついに第6回で石川数正が「この岡部様とて!」なんて言って立てていたフラグが回収されたわけなんですけど。

ただ、ここでは一度、言われるままに切腹しようとしていた氏真。ふと過去を思い出して切腹を取りやめていますが、やはり第2回で家康(当時は元康)が自害しようとして思いとどまっていたシーンとの対比という気がしました。

幼き日、尾張にて「ええぞ、それじゃ、その目じゃ!」と信長に認められたことを思い出し、死を思いとどまった家康。

桶狭間へ赴く父・義元との、別れの直前に言われた「氏真。そなたに将としての才はない」の言葉を思い出し、死を思いとどまった氏真。

どちらも「将としての目覚め」なんですけど、後者はあまりにもドス黒く……今までも地獄を巡ってきていた氏真くんでしたが、むしろここからが本当の地獄だったんですよね。

妻・糸の家元である北条から迎え入れるとの申し出もあったのに、「逃げるなどあり得ぬ!」と突っぱね、もう意地になってんじゃん!とも思える様子でしたが。ノベライズでは一応、「今川の所領がある限り、余は余の領国を守る」というセリフが続いていたことも補足しておきましょう。

またノベライズでは、掛川城の攻防で氏真の戦う様を「鬼気迫るものがある」と形容しているのですが、こちらはむしろドラマもそれに沿った演技で迫力がありましたね。弓を口にくわえて次々に射る形相は、まさに般若のようでした。

城の縁側に座って飯を食う様子も恐ろしかったですけど……あれ、副音声では「干した飯を口に押し込みながら、家康の陣を見据えている氏真」と言っていました。確かに「ボリッ、ボリッ、ガリッ!」と、硬そうな感じ。徳川の本陣にはうまそうな握り飯が置かれていたのとも非常に対照的ですね。

氏真の周りは疲弊した兵たちばかりでしたし、ひょっとしたら飯を炊く女たちの多くにも暇を取らせたのではないでしょうか。

第3回との対比?内輪揉めもしながら前へ進む徳川勢、ひたすら付き従いつつ地獄に落ちる今川勢

それでも「敵が来るぞ~!」と氏真が叫べば、「お~!」と叫んで立ち上がる今川勢。徳川勢に比べて、こちらの方がよほど一枚岩な感じです。

土壇場なのに、第3回で描かれた三河家臣団の内輪もめや、数正&左衛門尉の土下座談判のようなものもない。けれど今川勢、全員が言われるまま氏真に従っているところを見ると、こっちの方がよほど地獄なのよ……。

4か月も耐えたとはいえ、徳川勢を押し返しているわけでもない。ただ、氏真本人が前線に立って号令をかけるもんだから、きっと逃げることもできない。奈落へ落ちるときは全員一緒に、という印象すら受けます。

そんな氏真くんも、平八郎の槍を肩に食らって、いよいよ終わりを覚悟しました。妻の糸へ北条領に逃れるよう言い渡したあと、ノベライズでは家来にも「兵にも逃げたい奴は逃げろと言え」と伝えています。そっちの方が、まだ将として立派な気がするな……。

もちろん、どっちの描き方が優れているというわけではありません。ドラマではカットされたセリフがあるから、より氏真自身の心の方にフォーカスして描かれていたような印象も受けます。つまり、ドラマとノベライズでも、ちょっとした書き分けでこんなに差が出るほど、めちゃめちゃ複雑な物語を作り上げていたのが改めてわかる気がしますね。

氏真の正室・糸。「足が不自由」設定なのも、瀬名との差を明らかにするためか

そして一部では物議を醸していた、氏真くんの正室・糸さんなんですけど。史実としては「糸」なんて名も残っておらず、今川領を追われた後に移り住んだ北条領の地名(現:神奈川県小田原市早川)から「早川殿」と呼ばれているそうです。

「足が不自由」設定も、第10回のお葉の「レズビアン」設定に続くドラマの完全創作とのことですが、とりあえずここで「多様性の時代ならではですね~」なんて視点では片付けたくはありません。単に時代の流れとしてそんな性質をムリヤリ取り入れたのではなく、ちゃんと物語としても意味のある設定になっていたと思うんですよ。

そもそも氏真くんが最初に好きだった女性は、瀬名でした。幼き日の回想シーン、槍の稽古で負けた家康(当時は次郎三郎)を見ながら心配しそうにしている瀬名を見て、氏真は慌てたように父・義元へ瀬名を正室に迎え入れたいと言うのですが。「そなたの妻は、北条の姫じゃ」と突っぱねられてしまいました。

そこでやってきた北条の姫・糸。彼女が氏真にとって瀬名との違いを感じてしまうポイントとして、「足が不自由」というのは、ある意味ではわかりやすい表現だと思うのです。

「おみ足は、幼い頃石段からお落ちになったのだとか」「なかなか貰い手がなかったようじゃな」「若君様もお気の毒なことよ」なんて家来がヒソヒソ喋ってましたけど……これもノベライズではしっかり氏真の耳にも届いてたって書かれてますからね。それで「屈辱に似た気持ちを抱いてい」たんですって、氏真くん。あの家来たちも、よう輿入れの際にようあんなヒソヒソ話できるわと思いつつ、当時はそれが許されるくらい駿府も暢気で平和だったことの象徴のようにも思えます。

そして初夜を迎えた日も、氏真は夜更けまで書を読み続け、朝は糸が起きるよりも早くに寝床を抜け出して、刀の稽古。あれはきっと、ふたりの間に性的な交渉も何もなかったのでは?とさえ感じられます。糸ちゃん、よく離縁せずに耐えたよね。可哀そうになってくるわ。

ただ、だからこそ、糸が受け取っていた義元公の言葉――「氏真。そなたに将としての才はない」の続きなんですけど。ドラマ1周目を見たときには「なんでそれをもっと早く言ってくれなかったのよ!そうすればここまで氏真が闇堕ちすることもなかったかもしれないのに!」なんて気持ちも一瞬だけ湧いたのですが……。

そもそも、言えるような関係性じゃなかったと思うんです。逃げ落ちた先の先の掛川城、必死に声をかけ、「お屋形様…あっ!」と転ぶ糸にも「何じゃ」なんて冷たい態度を取る氏真。糸ちゃんだって、そんな風に自分に見向きもしない氏真に対して気後れしていたでしょう。それに本来は、義元公が自ら伝えるべき言葉。見向きもされない自分が代弁するなど、恐れ多いとすら感じたかもしれません。

最後の最後、氏真が家康との一騎打ちに負け、本当の意味で敗北を知り、自害しようとした時。その時にこそようやく糸ちゃんも叫び、届けることができた。そしてあのタイミングだったからこそ、氏真の心にもすっと響いてきた言葉だったと思うんです。

氏真は、とんでもないものを残していきました……家康への呪いです!

そして最後、憑き物が落ちたように穏やかな顔になって、氏真が家康に吐いたセリフですよね。

「そなたはまだ降りるな、そこで、まだまだ苦しめ」

もちろん、これは氏真から家康へのエールなんですけど。やっぱりこの先の家康くんの人生を思うと「辛いなぁ、めちゃめちゃ辛いこと言うよなぁ……」なんて思うわけです。結局、氏真を生かしてしまったから、信玄との密約も破棄するような形になってしまうわけですし。

ただ、この言葉を受け止めたときの家康の顔ですよ。もはやヘタレてなんかいませんでしたね。ああ、やはりここが一つのターニングポイントだったんでしょう。「厭離穢土、欣求浄土(おんりえど、ごんぐじょうど)」ですから。穢れた世を正すには、まだまだ地獄を味わわねばならないのも、家康だってとっくに覚悟ができている。

だからこそ、去っていく氏真の背中を目で追う家康の表情に、もう涙は浮かんでいないんですよ。憧れるその背中の分まで、自分は戦うという決意に燃えているようでした。

ただ……ただ、もう一つありましたよね、呪いの言葉が。

「わしは何ひとつ事を為せなかったが、妻ひとりを幸せにすることなら、できるやもしれぬ」

これはマジで……家康に対して、第5回の巴ママの呪いの言葉に続くとんでもないフラグを立てていきましたよ。

いや、大河初心者の方は「何の話だろう?」ぐらいに思っていてくださいね……でも僕ら大河オタク、これで「ヒエッ」って思っちゃったから、泣くに泣けないというところもあったと思うんです。穏やかなBGMで包まれた感動より、恐怖の方が勝っちゃう。ホラーなんよ……。

まぁ気を取り直して、糸ちゃん、a.k.a早川殿とのその後についてですけど。ちゃんと有言実行して、仲良く暮らしたみたいですね。しかも、掛川城を出た後で、5人も子供をつくったとか。

4男1女の子供をもうけました。

・長男の今川範以(のりもち)

・次男の品川高久
・三男の西尾安信
・四男の澄存
・長女の吉良義定室

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流転してから子供をつくるってことは、まじで駿府にいたころは仲悪かったのかなとか邪推しちゃいますけど。にしても、ドラマではまるで引退宣言のような形で北条の元へ赴いた氏真くん。史実ではその後もいろいろ悶着あって、徳川の庇護下に入るそうですね。

史実としては、糸の実家・北条を頼った後、氏真は70代まで生き、数奇な運命をたどる。“溝端氏真”の再登場が注目されるが「僕も詳しいことは聞かされていないんですけど、家康とは茶飲み友達になればいいなと思っています」と願った。

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……ということらしいです。ウーン、個人的には「家康よー!助けてくれー!」みたいな感じでヒィヒィ言いながら北条領から逃げてくる氏真くんも見てみたいもんですけどね。12回での感動が台無しになっちゃう気もしますが……まぁ、それはそれとしても。

しかしこれで70代まで生きるとは。信長や秀吉よりも長生きです。本当に、人生とは数奇なものですね……。

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