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掌エッセイ

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心に水を。日々のあれこれを随筆や掌編に。ほどよく更新。
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#バイト

【エッセイ】続・弁当屋にいた頃

【エッセイ】続・弁当屋にいた頃

前回に続いて、弁当屋にいた頃の話を。

当時は一軒家を買い上げた社員寮に、男四人で暮らしていた。その家は背高な雑草に囲まれ、玄関からは異臭が漂い、全体的に壁がこう、くすんだオレンジ色をしていた。元はもっと違う色だったと思われるが、経年劣化や汚れによって、なんとも微妙な色に染め上がっていた。

環境への適応力には自信がある私だが、この家に関しては一目見た瞬間、あ、こりゃ知り合いを呼べないわ、と即断し

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【エッセイ】弁当屋にいた頃

【エッセイ】弁当屋にいた頃

大学を卒業してすぐ、弁当屋に勤めた。

面接は五分で終わった。その場で「いつからこれる?」とバイトのような乗りで初出勤日が決まった。それが自分の就職活動のすべてだ。

そこは千葉の片隅にある仕出し弁当の工場で、私は配達ドライバーとして雇われた。住み込みだった。特徴のない住宅街にある社員寮はごく普通の一軒家を買い上げたもので、そこに自分も含めて四人の若い男が暮らしていた。

当然、誰も家事などしない

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