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【ハードボイルド的な何かへの憧れと現実(山エッセイ)】

50キロの荷を担ぎ100キロの道を平然と歩く。日が沈めば荒野にテントを張り火を起こす。猟銃で仕留めた獲物を食って腹を満たす。嵐の夜はテントの中で寝転がり、ウイスキーをぐびりと飲んで風雨の止むのをただ待つ。

そういったハードボイルド的な何かへの憧れが昔からあった。

西部劇主演時代のクリント・イーストウッドのように襲い来る不運も敵も涼しい顔で乗り越える不敵さ、あるいはシュワルツェネッガー演じるマッチョのように撃たれても無傷みたいな荒唐無稽な強さ、でなければスタローンのロッキーのように倒れても倒れても立ち上がるド根性。そういったものを兼ね揃えるハードボイルド的なものに憧れる。

まあ、そんなものは理想であって現実の私は低山の暑さで倒れそうになる体力しかないし、大雨の夜はテントの中でぶるぶる震えて眠った。弱さと臆病を兼ね揃えた完璧に普通の山男として生きている。

そんな弱山男の私でもやっぱり強い酒をぐびりとやるのには憧れる。お酒を味わうとかそういう問題ではなくて難所を乗り越えた時やトラブルに見舞われた時に、どこからともなくスキットルを取り出してウイスキーをぐびりとやりたい。この「ぐびりとやる」という動作に憧れるからだ。

現実には酒にも弱いのでウイスキーをストレートで飲もうものなら喉は焼けるし顔は歪む。酔ったら帰れなくなるし、山の上でお酒は飲めない。そもそも平日に登る時は幼稚園のお迎えまでに下山しなきゃならない。お酒なんて飲んだ状態てまお迎えに行ったら家庭環境に問題がありはしないかと先生方に疑われる。ハードボイルド的な何かへの憧れはあくまでも憧れであって、現実のほうが当然大切。でもスキットルだけは持っている。

ハードボイルド的な何かへの憧れは憧れに過ぎないけれど、こういうアイテムは時々眺めて悦に浸るだけでも悪くはない。  

手に入れたけど出番の無いスキットル


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