いろは

はじめまして、文章を書くのが苦手です。

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はじめまして、文章を書くのが苦手です。

最近の記事

なんてことのない、いつかどこかであったかもしれない話。

駅からビルに続く高架橋で立ち止まる。時刻は20時と30分。 「終わりにしとくか。」 思ったよりもするすると、最後の言葉は口から流れ出る。彼女はうなずくと顔を伏せた。 彼女と付き合って2年と少しの木曜日。私は大学4年で卒業間近、彼女は大学3年の冬。 その日は2人とも講義があり、と言っても私は卒業論文も提出し終えて消化試合みたいなものだが、夕方からクラシックのコンサートを聴きに来ていた。 家へと向かう電車で思い出す。そういえば告白も私からだった。 台風で講義が休みになった

    • 美術館のススメ

      美術館へ行ったことがありますか。 大きなドアをくぐってチケットを買って、音声ガイドを配ってる場所を抜けて、「ごあいさつ」を前に佇む。 ⁡ 美術館に行きたいけどなんだか敷居が高い、たまに行くけど「綺麗だった」以外の感想を思いつかない、そんなあなたへ。 これは西洋絵画について研究して、文化芸術への入口を広くする仕事をしてる私からの、小さな小さなプレゼントだ。 お酒でも飲みながら、久しぶりに会った友達の話を聞く感覚で読み進めてくれると幸いだ。 ⁡ 一つだけお願いがあって、私が話すこ

      • 袖は11月に揺れる

        窓から漏れる朝陽で瞳が圧迫される。くぁ、と大きな欠伸をして布団を剥がす。今日はデート、付き合ってから初めてのお出かけかもしれない。  向かうは京都、私は20年以上関西に住んでいるのに、京都にあまり行った記憶が無い。今日は彼女こと後輩ちゃんが案内してくれるらしいのでたのしみだ。 浴衣を着るのは久しぶりだから心配だ。これを機にお風呂上がりは浴衣にしようか。つまらないことを考えながら腰に帯をあて、巾着に指を通し下駄を履く。  駅で否が応でも視線を集めてしまう。浴衣を着るに

        • 後輩

          ほんの少しアルコールの香りを感じながら目を覚ます。昨日少し飲みすぎたか、フォルダに撮ったおぼえのない写真がたくさんある。  よし、気合を入れて身体を起こす。今日は後輩ちゃんとの3回目のデート。どこかで聞いた話だと、3回目には告白するのが定番らしい。前回のデートであと少しだけ勇気を振り絞れずに言葉を零せなかった私は、どんな気持ちで今の私を見ているんだろう。  冷蔵庫を開けて昨日買っておいたヘパリーゼを手にする。このお方に今までどれほど救われたか。お昼を軽く一緒に食べるつ

        なんてことのない、いつかどこかであったかもしれない話。

          高低差20cmにとどかない

          JRが私を運んでくれるのはいつぶりだろうか。外出がはばかれるから電車なんてほとんどつかわなくなってしまった。職場まで徒歩20分な私も、今日ばっかりは駅までの長い道のりを行く。唐突に決まった2度目のデートだ。 彼女は通称後輩ちゃん、大学時代のサークルの後輩だ。  前に会ってから2ヶ月弱、私は仕事に忙殺されていた。仕事でも謝罪の時しか履かない革靴、いつもみたいにワイドパンツと緩めのシャツ、どうせ汗かくしとワックスと香水はつけないで少し早めに家を出る。 音楽を聴きながら電車

          高低差20cmにとどかない

          在る40時間と花(1日目)

          会社の自動ドアをくぐって悩みの種である緑のアプリをタップする。彼女のことを考えるとどうしても夏を思い出してしまう。頬をなでる風が冷たくなってきた頃、私たちはどちらからともなく会うことにした。 最寄り駅に降り立つと、すこし花の香りがした。へぇ、香水変えたんだ、私のせい?彼女は楽しそうな顔で笑う。そんなわけないけど、うんと頷く。彼女は大手会社の総合職、エリートだ。大学の同期で友達で、そして去年の夏から歪な関係だ。零れた心を掬ったのは私のはずなのに、結局救われているのは私のほうか

          在る40時間と花(1日目)

          エスカレーター1段分の間柄

          ピンポーン、部屋のチャイムが鳴る。 やっと来たか、今行きますと大きめな声で返事してドアを開ける。服やら雑貨やらをAmazonさんで頼んでいたのだ。11時30分、家を出るぎりぎりだ。 今日は前から連絡をとっている大学時代の後輩ちゃんとデートだ。集合時間は13時、少し焦りながら駅へと向かう。今ではマスクをしないだけで怪訝な顔をされる、なんとも生きづらい世の中だ。 「雨、止むといいですね」 そんな後輩ちゃんの願いもむなしく天気は雨。そうそう、私は雨が嫌いじゃない。 傘を打つあ

          エスカレーター1段分の間柄

          フィルム越しに映らない

          写真とは一瞬を永遠にする魔法の道具である。  みなさんは写真を見ることが、撮ることが、映ることが好きだろうか。私は見るのは大好き、撮るのは苦手、映ることはあんまり好きじゃない。  写真を撮る人は、まさに撮ろうとするその瞬間を自分の目で見ることができない。この代償があまりにも大きいと感じるから、私は写真を撮るのが苦手だ。花火大会、あの爆音が鳴り響く中周りがiPhoneのバーストを連打してる光景に恐怖を覚えた。結局のところ、彼らは花火を見に来たのではなく、花火を見たという

          フィルム越しに映らない

          寒空に消える煙は虚空とは呼ばない

          冬の代名詞とも言えるおでん、あの袋を割った時の感動を味わいたくて私は餅巾着を食べるんだろう。  自室のドアを開けると冷たい風が頬を切った。悴んだ手で行き先階のボタンを押す。早足で駅へと向かいながら次の電車を調べていると、ぽんっとiPhoneが鳴った。  「ごめん、ちょっと遅れるわ」  彼女は申し訳なさそうな顔のスタンプを送ってきた。 小さく息を吐いて歩く速度を緩めると、私はポケットから煙草を取り出した。大学4年の冬。  男女の友情は成立するのか。この世界で1

          寒空に消える煙は虚空とは呼ばない

          見えないということは真実ではないという証明にならない。

          梅雨前の鬱屈とした空気は、それでいて季節を予告するというその一点のみで、許されうる。  日々ギター弾いて歌って、誰かの指から紡がれた言葉しか口にしないのも健康によくないと思ったので文章を書こうと思う。  17世紀のスペインなんて現代日本から遠く離れた場所の美術を研究していたはずなのに、今では現代のアートマーケットに、自分の足で赴いて生の声を聞いて、一緒に飲みながらあの作品はこうだ、この映画や音楽はここがいいとか語り合えるなんて、夢みたいだ。仕事をしてるとこれが夢ならば

          見えないということは真実ではないという証明にならない。

          初夏に霞む

          「にんにくがしっかり入った餃子をがっつり食べてビールが飲みたい。」  可愛い顔した彼女のアイコンからは想像できないメッセージが昼休みに私のロック画面を彩る。その一言から、私たちの初夏は始まった。  彼女とは10年以上の付き合いになる。身長が低くて、目が綺麗で、口が悪くて、初夏が好きで、弱いくせにお酒を沢山飲み、遠慮のない口調で私のことを「おまえ」と呼ぶその人はいつものように思いつきで私をデートに誘う、私とは少しだけ距離の近い大切な友人だ。恋人ではない。   「は

          初夏に霞む

          むかしむかしの、天才たちのお話①〜ごあいさつ〜

          結局のところ「美しい」とはなんなのか、考えたことはあるだろうか。   少しだけ私と一緒に思い起こしてみよう。美しい、綺麗だと感じるものを3つ挙げて欲しい。ぱっと思いつくもので構わない。おもいうかびましたか。 じゃあ次はその3つの特徴を探ってみよう。何色だろうか、質感は、他の人からの評価は、みんなが知ってることなのか、自分だけのものなのか、そもそも目に見えるのか、空想のものなのか、人の手によるものなのか……。 3つともに共通することが、あなたの「美しさ」の要素なんだろ

          むかしむかしの、天才たちのお話①〜ごあいさつ〜

          春についての所感

          こんな風に心に移りゆくよしなしごとを思考の奥底に沈めないのはいつぶりか。つまるところ、少しだけ頭に浮かぶ映像を久しぶりに文字にしたかったんだ、というお話。 雨が降ると桜を想うこの季節が好きだ、自分が花粉症だということを差し引いても嫌いになれない。寒かった朝の光は陽だまりになって頭を溶かす。ぼうっとした暖気に心が揺れて白昼夢を見せられてるみたいだ。 期限があることでそこまでの日々の価値は相対的に上がる。学生時代は3.4年の期限で区切られてきた生活が、死ぬまでというアップデー

          春についての所感

          陽だまりには星が落ちる

          「今日はありがとう、ゆっくりしたデートってほんとに楽しいね。あなたに彼女がいなかったら次の私の誕生日を祝って欲しいの。」 そう言うと満面の笑みで私から離れて、足取り軽く街の奥へと消えていった。 次会う約束ができないなんて思っていた私を見透かしていたのか天然なのか、彼女はずるい。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー いつも誘われてる私は、逆襲してやろうと考えた。彼女とさよならして電車に乗る直前、次は私からデートに誘うと呟いて地下鉄に飛び乗った。 思えばな

          陽だまりには星が落ちる

          言葉の弱さは飴玉よりも甘い

          ‪言葉にしないと伝わらない。‬ ‪‬ ‪本当にそうだろうか、言葉以外に自分の考えを伝える術はないのか。勘違いしないで欲しいのは、言葉とは魔法で飴玉でたかが空気の振動のくせに人の心を揺することができる、史上最強のアイテムである。FFでいうエリクサー、ドラクエでいうベホマズン、モンハンでいういにしえの秘薬、ドラゴンボールでいう仙豆であることは間違いない。どれだけ上手に言葉を紡げるかで人生がいかにイージーになるかのお話は今度しよう。‬ ‪‬ ‪どの季節でも、恋人と手を繋ぐこ

          言葉の弱さは飴玉よりも甘い

          夜とは砂糖多めの玉子焼きである。

          朝、目が覚めると初めにカーテンを開ける。私の部屋には遮光性の高い紺色のカーテンがかかっている。お気に入りだ。休日の朝、恋人と布団の中で体温を混ぜる時間が永遠に続けばいいのに。 何かを書く時は、中心となるなにかしらのメッセージが必要だ。私は目的のない文章を書くのがとても苦手である。論文の読みすぎだろうか。「明日」が嫌いで「昨日」に帰りたい私の、生きる所作を見せられたらと思う。  ‪朝はいつも私たちを待っている。だから夜は存分に楽しんでいいと思う。次の日があるという制約とゆ

          夜とは砂糖多めの玉子焼きである。