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『モノリネ~あるいはネリモノ~』

ぶわぷわ、ぷるる。
目覚めると全身真っ白い《はんぺん》になっていた。
まあ、よくあることで今更驚くことでもないが。
なぜ私は今回、《ちくわぶ》になれなかったのか?
そのことの方がむしろ由々しき問題だ。

外は今ごろ《串男》が歩き回っている頃だろう。
今日はさすがに外出は控えた方が良さそうだ。
ぶわぷわ、ぷるる。

「田仲のやつ、ちくわぶになれたのかな」
人と自分を比べるのはよくないし、
不安になるだけで何の役にも立たないことは知ってる。

だが、同期の出世頭と言われてる田仲の動向だけは
いくら頭から追い払おうとしても、
しつこいからしの辛味のようにヒリヒリと脳内に
残り続け、劣等感を刺激されるのだ。
ぶわぷわ、ぷるる。

トゥルル……トゥルル……

《かまぼこ》からだな。
直感でわかった。
おおかた、さしみ醤油の件だろう。
私は居留守を決めて、ベッドに身を投げ出した。
ぶわぷわ、ぷるる。

今日がどんなにはんぺん日和だとしても
どこにもいかんぞ。
そうひとりごち、私は再び夢の世界へと
舞い戻っていった。
ぶわぷわ、ぷるる……

水もしたたる真っ白い豆腐がひどく焦った様子で煙草屋の角を曲がっていくのが見えた。醤油か猫にでも追いかけられているのだろう。今日はいい日になりそうだ。 ありがとうございます。貴方のサポートでなけなしの脳が新たな世界を紡いでくれることでしょう。恩に着ます。より刺激的な日々を貴方に。