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「こちらインスタ班!あと2分で解析終わります!」

そこは戦場だった。兵士たちは敵を傷つけ、倒す必要に駆られ、目を血走らせて敵の弱点を探した。

 「おい、アイツの情報はまだ集まらないのか!」

上長が部下を怒鳴る。

 「こちらインスタ班!あと2分で解析終わります!」
 「こちらツイッター班!あと5分です!」

敵意をガソリンにして奔走する部下たちは、敵軍司令官がパンケーキの画像をアップしているのを見つけた。

 「パンケーキを狙うのはいかがでしょう!」
 「そんなんじゃ甘い!もっと致命的な弱点を探せ!」

二班はさらに調査を進める。

 「こちらインスタ班!某著名アーティストの誕生日パーティで、女優Aのとなりに座るターゲットの写真を確認!」
 「こちらツイッター班!女優Aのブランドが出す化粧品を、『メンズも使える』と褒めるツイートを発見!」

上長はにやりとして檄を飛ばす。

 「Aだ!Aを狙え!」

部下たちは、CPUがギリギリ付いてこれる速さで情報を飛ばし始める。出演作品・過去の交際関係・質素なブランディングと派手な日常の対比関係etc…




こんな戦いが、延々と続いた。日づけの感覚を失っていたから、何年続いたかもわからない。
両軍の司令官はともに傷つき、時間と想いを注いで手にした宝物を失った。
今日は、戦争が始まって以来初めて、二人が交渉の席に着く日だ。

 「なあ、もうやめにしないか。」

意外にも、優勢だった軍の司令官が切り出した。しかし、もう一人もすぐには賛同しない。

 「仮に私達二人がそれに納得しても、部下たちは受け入れられないだろう。大衆は変化に弱いものだ。」
 「いや、きっと大丈夫。兵士たちも含めて、我々ほどにお互いの価値観を理解してる関係性は、そうはないだろう。うまくやれるさ。」

他人にベタベタ触れられたくない弱点ー個々人が密かに大切にしているものーを知り尽くした両軍は、成熟したコミュニティを築きあげたようだ。


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最後まで読んで頂きありがとうございます!!
ここだけの話、僕はとても恵まれているので、毎日とても不安です!

生計を立てるのにも、友達をつくるのにも、勉強するのにも、大した苦労をしてきませんでした。時間をかけずに手に入れてきたので、毎日モヤモヤとした虚しさと戦ってます!

そしてある日、もしかしたらそんな虚しさに追われてるのは僕だけではないかもしれないと思い立ちました。SNSによって、「すぐに手軽に」楽しめるよう社会になったからです。
そこで僕は、一瞬で消費できるコンテンツではなく、読み終わりに問いが生まれたり、美しい表現に思わず惚(ほう)けてしまったりといった、「余韻」が残る作品を作っています!

しかし、読み終えて下さった方がどう感じたのかを知るのは難しいので、もし余裕があればコメント等のリアクションを貰えると嬉しいです!

それでは改めて、読んで頂きありがとうございました!
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