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河合隼雄を学ぶ

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河合隼雄先生の著作や関連書籍から、河合隼雄先生の思想を学んでいきたいと思います。
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2020年3月の記事一覧

河合隼雄を学ぶ・5「子どもの宇宙」

河合隼雄を学ぶ・5「子どもの宇宙」

子どもたちひとりひとりのなかには、無限の広がりと深さをもった宇宙が存在している。

しかし、大人は子どもを大きくしようと焦る余り、子どもたちの中にある広大な宇宙を歪曲したり、回復困難なほどに破壊したりする。それは、教育とか、指導とか、善意とか、愛情とかいう名のもとになされる。

この本は、そのことに対する、河合隼雄の警告の書といっていいだろう。河合隼雄は、心理療法家として、子どもの宇宙が圧殺される

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河合隼雄を学ぶ・6「母性社会日本の病理①」

河合隼雄を学ぶ・6「母性社会日本の病理①」

この本は私が生まれた年、1976年に刊行されたものだが、内容が古びていない。現代社会の病理に繋がる問題提起がなされていて、改めて、河合隼雄の先見の明、時代を見通す感覚に驚かされる。

河合隼雄は生涯を通じて、日本とは、日本人とは、ということを考察し続けた。この本は、日本を考察した数々の著作の中のひとつである。

私は、河合隼雄が、日本をどう見ていたか、そして、この世界における日本の「位置づけ」につ

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河合隼雄を学ぶ・7「母性社会日本の病理②」

河合隼雄を学ぶ・7「母性社会日本の病理②」

(前号の続きです)

母なるものの「包含し飲み込む力」、父なるものの「切って分ける力」、どちらの原理がより強く働くかは国、文化によって異なる。日本は明らかに母性文化に属するが、ひとつの原理によってのみ成立している文化などない。

日本においては、母性原理に基づく文化を、父権の確立という社会構造で補ってきた。一昔前、家において家長である父の強さは絶対的であった。しかしそれは、父性原理に基づくものでは

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河合隼雄を学ぶ・8「母性社会日本の病理③」

河合隼雄を学ぶ・8「母性社会日本の病理③」

(前号の続きです)

ところで、この本の第二章として、【ユングと出会う】という章が挟まっている。日本社会の原理を、ユング派の視点から考察するための前提として必要な章である。ユング派の心理療法家である河合隼雄には、ユングに関する著書が多数あり、今後紹介している機会も多いと思われるので、今回は、この本の中で印象的な部分を抜粋するにとどめたいと思う。

【第二章:ユングと出会う】

・夢こそは、人間の内

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河合隼雄を学ぶ・9「母性社会日本の病理④」

河合隼雄を学ぶ・9「母性社会日本の病理④」

(前号の続きです)

【第三章:日本人の深層心理】

河合隼雄はまず、「自我」を「われわれの意識体系の中心」と定義する。そして、私たち日本人の自我は、西洋人のそれとは著しい相違があるという。

ユングは、「西洋人は、意識というものを自我なしで考えることはできないが、東洋人は、自我なしの意識ということを考えるのに困難を感じない」と述べている。つまり、西洋人にとって、意識は、自我を中心としてそれに関連

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河合隼雄を学ぶ・10「これからの日本①」

河合隼雄を学ぶ・10「これからの日本①」

この本は、河合隼雄がさまざまなところに呼ばれて講演したものの記録集である。

テーマは講演ごとに違うのだが、すべて「これからの日本」ということに何らかの形で関連しているようだ、と河合隼雄もあとがきで述べている。
それぞれの講演から、特に印象的だった内容を紹介していきたい。

【心の子育て】

小・中・高校にスクールカウンセラーが入るようになり、ある中学校で、茶色い髪でピアスをした子がやってきた。は

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