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河合隼雄を学ぶ

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河合隼雄先生の著作や関連書籍から、河合隼雄先生の思想を学んでいきたいと思います。
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記事のテーマは「河合隼雄を学ぶ」

記事のテーマは「河合隼雄を学ぶ」

仕事で人の心を扱う者としても、心理学を学ぶ者としても、児童文学作家を志す者としても、故・河合隼雄先生をとても尊敬している。

河合隼雄先生は、ユング派の心理学者で、子どもの本にも大変造詣が深かった。

日本人の心、ということを、生涯通じて探究された方だと思う。

河合隼雄先生の著作や講演、色々な分野の有名人との対談から、河合隼雄先生が見ていた世界観を、読者の方々と、一緒に学んでいきたい。

河合隼

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河合隼雄を学ぶ・1「コンステレーション」

河合隼雄を学ぶ・1「コンステレーション」

ユング心理学における「コンステレーション」という概念を知った時の衝撃は大きかった。

もともとは「星座」を意味する英語だが、ユング心理学では、布置とか、配置の意である。

星座は、もともとはただの点である星々を繋いで、夜空に壮大な世界を見たことから始まっている。

一見、無関係に、偶然に配置されているとしか思えない数々の出来事が、繋ぎ合わせて見てみたときに、思いがけず、全体的な意味のあるひとつの世

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河合隼雄を学ぶ・2「ファンタジーを読む①」

河合隼雄を学ぶ・2「ファンタジーを読む①」

児童文学作家を志すものとして、河合隼雄の「ファンタジーを読む」は何度も読んだ。

心理療法家である河合隼雄が、なぜファンタジーや子どもの本に関する著作をたくさん出しているのか。それについては、こんなふうに書かれている。

『心理療法を長年行ってきて、近年はあまり流行しなくなった、などというより、心理学の世界では完全に忌避されていた「たましい」ということを、最も大切なことに感じるようになったものの、

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河合隼雄を学ぶ・3「ファンタジーを読む②」

河合隼雄を学ぶ・3「ファンタジーを読む②」

(前号からの続きです)

【エリコの丘から】

スターになるには才能がいる。それでは才能がないものはどうすればいいのだ。このことをアイデンティティの問題と関連して考えるならば、誰もが自分自身の宇宙の星(スター)になるのだと考えてみるとよくわかる。スターになるのを、単純に有名になることや目立つことなどに結びつけて考えすぎると、「出世病」にかかることになるだろう。誰もが自分の宇宙のスターになる才能をも

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河合隼雄を学ぶ・4「ファンタジーを読む③」

河合隼雄を学ぶ・4「ファンタジーを読む③」

(前号の続きです)

【影との戦い ゲド戦記1】

ユングは「影をリアライズすることが、人間の責務である」ということを主張する。つまり、影のことを真に「知る」ためには、なんらかの「実行」が必要なのである。この物語は、まさにゲドによるゲドの影とのリアライゼーションが語られているのである。長い苦しい航海の末、ゲドはついに「影」に会った。一瞬に、ゲドも「影」も同じ名を語った。「ゲド!」

【こわれた腕環

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河合隼雄を学ぶ・5「子どもの宇宙」

河合隼雄を学ぶ・5「子どもの宇宙」

子どもたちひとりひとりのなかには、無限の広がりと深さをもった宇宙が存在している。

しかし、大人は子どもを大きくしようと焦る余り、子どもたちの中にある広大な宇宙を歪曲したり、回復困難なほどに破壊したりする。それは、教育とか、指導とか、善意とか、愛情とかいう名のもとになされる。

この本は、そのことに対する、河合隼雄の警告の書といっていいだろう。河合隼雄は、心理療法家として、子どもの宇宙が圧殺される

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河合隼雄を学ぶ・6「母性社会日本の病理①」

河合隼雄を学ぶ・6「母性社会日本の病理①」

この本は私が生まれた年、1976年に刊行されたものだが、内容が古びていない。現代社会の病理に繋がる問題提起がなされていて、改めて、河合隼雄の先見の明、時代を見通す感覚に驚かされる。

河合隼雄は生涯を通じて、日本とは、日本人とは、ということを考察し続けた。この本は、日本を考察した数々の著作の中のひとつである。

私は、河合隼雄が、日本をどう見ていたか、そして、この世界における日本の「位置づけ」につ

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河合隼雄を学ぶ・7「母性社会日本の病理②」

河合隼雄を学ぶ・7「母性社会日本の病理②」

(前号の続きです)

母なるものの「包含し飲み込む力」、父なるものの「切って分ける力」、どちらの原理がより強く働くかは国、文化によって異なる。日本は明らかに母性文化に属するが、ひとつの原理によってのみ成立している文化などない。

日本においては、母性原理に基づく文化を、父権の確立という社会構造で補ってきた。一昔前、家において家長である父の強さは絶対的であった。しかしそれは、父性原理に基づくものでは

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河合隼雄を学ぶ・8「母性社会日本の病理③」

河合隼雄を学ぶ・8「母性社会日本の病理③」

(前号の続きです)

ところで、この本の第二章として、【ユングと出会う】という章が挟まっている。日本社会の原理を、ユング派の視点から考察するための前提として必要な章である。ユング派の心理療法家である河合隼雄には、ユングに関する著書が多数あり、今後紹介している機会も多いと思われるので、今回は、この本の中で印象的な部分を抜粋するにとどめたいと思う。

【第二章:ユングと出会う】

・夢こそは、人間の内

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河合隼雄を学ぶ・9「母性社会日本の病理④」

河合隼雄を学ぶ・9「母性社会日本の病理④」

(前号の続きです)

【第三章:日本人の深層心理】

河合隼雄はまず、「自我」を「われわれの意識体系の中心」と定義する。そして、私たち日本人の自我は、西洋人のそれとは著しい相違があるという。

ユングは、「西洋人は、意識というものを自我なしで考えることはできないが、東洋人は、自我なしの意識ということを考えるのに困難を感じない」と述べている。つまり、西洋人にとって、意識は、自我を中心としてそれに関連

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河合隼雄を学ぶ・10「これからの日本①」

河合隼雄を学ぶ・10「これからの日本①」

この本は、河合隼雄がさまざまなところに呼ばれて講演したものの記録集である。

テーマは講演ごとに違うのだが、すべて「これからの日本」ということに何らかの形で関連しているようだ、と河合隼雄もあとがきで述べている。
それぞれの講演から、特に印象的だった内容を紹介していきたい。

【心の子育て】

小・中・高校にスクールカウンセラーが入るようになり、ある中学校で、茶色い髪でピアスをした子がやってきた。は

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河合隼雄を学ぶ・11「これからの日本②」

河合隼雄を学ぶ・11「これからの日本②」

(前号の続きです)

【物語のなかの男と女・夫と妻】

その人の人生がすなわち「物語」である。

河合隼雄は心理療法家として、「物語」に関心をもたざるを得ないという。例えば夫は夫の、妻は妻の「物語」を生きていて、同じ家で夫婦として暮らしていても、「物語」が違うから、喧嘩になるし、わかりあえない。二人が共有できる「物語」を新たに紡がない限り。

また、河合隼雄のところに来たクライエントの女の子が「私

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河合隼雄を学ぶ・12「これからの日本③」

河合隼雄を学ぶ・12「これからの日本③」

(前号の続きです)

【日本の土を踏んだ神 ~遠藤周作の文学と宗教~】

ユング心理学というものは面白いが、これを日本に導入しようとする当初、河合隼雄はなかなかに苦労したという。

文化であれ、思想であれ、どこかの土、違う土を踏むということは大変なことであって、その土を踏んだ途端に変容するという性格を持っていると言ってもいいくらいであり、ユング心理学も、日本の土を踏んだ途端に、これはもう変容を始め

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河合隼雄を学ぶ・13「こころと脳の対話①」

河合隼雄を学ぶ・13「こころと脳の対話①」

某研究センターの茂木健一郎さんの講演を聴いたら、とっても楽しくて、興味深くて、新しい視点を得られて、茂木健一郎さんを好きになってしまったので、河合隼雄×茂木健一郎の「こころと脳の対話」も、とても楽しく読んだ。

対話集なので、一応テーマは設定されているのだが(というか、後から本にするときに無理くりテーマをつけたのかもしれないが)、話は二人の興の赴くまま、自由にあっちこっちへ飛ぶ。そのため体系的にま

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