Mizuguchi Naoki|偽薬屋

プラセボ製薬株式会社の創業者。京大大学院薬学研究科修了。公理的科学論の立場からプラセボ…

Mizuguchi Naoki|偽薬屋

プラセボ製薬株式会社の創業者。京大大学院薬学研究科修了。公理的科学論の立場からプラセボ効果を解釈し、プラセボ効果研究を後押しする方法を模索中。薬効心理学/進化心理学/科学哲学/ランダミスタ。著書『僕は偽薬を売ることにした』https://amzn.to/2rlZ3Kj

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関西財界セミナー2023のプライベートふりかえり

2023年2月9日、10日に京都で開催された第61回関西財界セミナーに参加しまして。個人的な記録としてふりかえっておこうと思います。 結論めいたことを書けば、「情報って大事やな」と。 基本的に個人名や企業名、討議内容などの具体的な記載は避けてます。あくまでも自分が考えていたことを中心に。またどれも批判ではなく、実体験から得た学びを残したいなと思って書きます。 メディア報道はこちら。 参加するまで招待参加 関西財界セミナーは関西経済同友会と関西経済連合会が共催するイベ

    • 科学哲学関連本メモ

      プラセボ効果の理解を深めるための科学哲学読書。ほんと面白い。 カルロ・ロヴェッリ『カルロ・ロヴェッリの科学とは何か』理論物理学の研究者である著者の科学哲学本。科学史上の画期をなすアナクシマンドロスの業績を紹介。 そこから科学と宗教の緊張関係などに話はひろがって…。 無知からはじまる物語。 著者のほかの本も読もうと思った。 マイケル・ストレーベンス『科学の哲学 世界を一変したブレイクスルーの思考法』哲学科教授の科学哲学本。 最後尾に付された「作中用語集」がすばらしい

      • 客観性の定義について『はじめての科学哲学』が教えてくれること

        八木沢敬著『はじめての科学哲学』を読みだしたものの、最初の章からどうも気乗りしない…がしかし、ちょっとしんどいなと思いつつ読み進めていたら中盤以降に面白い記載があったので結果的にはいい読書体験になった。 以下、節タイトルとともに気になる箇所をピックアップして紹介したい。 自然は急に変わらない:自然の斉一性「絶対時間」や「絶対空間」といった、いかめしい言葉をつかうことなくスマートに同様の表現ができる「時空の斉一性」という概念。これまで「斉一性」を使う表現といえば「自然の斉一

        • ランダミスタ:『RCT大全』に見る比較試験の必要性

          プラセボ効果について深く知るために、ランダム化比較試験(RCT: randomized controlled trial)の本を読む。 『RCT大全』邦題は『RCT大全 ランダム化比較試験は世界をどう変えたのか』(みすず書房)だが、英語の原題は『Randomistas: How Radical Researchers Changed Our World』で、訳すなら「ランダミスタ:急進的研究者たちは我々の世界をどのように変えたか」くらいの意味だろう。 もともと「ランダミス

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          オブジェクト指向科学哲学:『科学哲学へのいざない』の志向的な指向性

          佐藤直樹著『科学哲学へのいざない』(青土社)は生物学の方法論をベースとした科学哲学講義録、といったおもむきの書籍。 本書を読み、気になったあることを書きとどめておきたい。 批判的読解本書は出版時に科学哲学界隈で話題になったようで、科学哲学者・伊勢田哲治氏がブログでやや批判的な読書記事を残している。 当記事の内容はさておくとして、『科学哲学へのいざない』からの引用として下記の記載(太字追加)がある(2021-11-16確認)。 「つまり、科学研究は、〈なぜ〉疑問に答える

          オブジェクト指向科学哲学:『科学哲学へのいざない』の志向的な指向性

          『でたらめの科学』が面白い!科学実験を支えるデタラメとニセモノ

          科学実験には「エビデンス(科学的根拠)」を与えうる力がある。その力をとりあえず「証明力」と呼ぼう。証明力を保証するのは何のどういった性質だろうか? もしそれが「乱数のでたらめさ」であるとすれば、エビデンスがデタラメに支えられているという倒錯的な状況をどう理解すればいいのだろう? 科学的証明証明について知りたいなら、最善の道は数学における証明の議論を追うことだ。ここでその詳細には踏み込まないが、議論の始点としてまずは「公理系」が与えられ、規則的な推論に基づいて「定理」が証明

          『でたらめの科学』が面白い!科学実験を支えるデタラメとニセモノ

          『東京大学物語』の凄み/「公理」との偶然な出会い

          『東京大学物語』は連載終了後20年を経た2021年現在でもTwitterなどで盛んに言及される傑作マンガです。 様々な角度から語られる作品ですが、本noteでは特に「公理」との関わりに触れようと思います。なお『東京大学物語』で公理に関わる話は「●第365回●創造」で、下記の電子書籍に含まれます。単行本巻数は不明ですが、恐らく最終34巻掲載分でしょう。 公理について公理(こうり)とは、最も基本的な仮定・前提のこと。 論理学者や数学者、数学教師、数学科の学生など論理や数学に

          『東京大学物語』の凄み/「公理」との偶然な出会い

          『〈現実〉とは何か』の凄みが複素効理論を沸かす

          『〈現実〉とは何か』(筑摩書房)という本があります。副題は「数学・哲学から始まる世界像の転換」。数学者・西郷氏と哲学者・田口氏の共著作です。 きっかけこの本を知ったのは「圏論」という数学分野の入門書『圏論の道案内』の関連書籍として同著者である西郷さんの『〈現実〉とは何か』がおすすめ表示されたことがきっかけでした。 「圏論」には、複素効理論に取り込むべき豊かなアイデアが溢れています。 複素効理論を提唱した当初の目的はプラセボ効果をより深く理解することでしたが、その本質は科

          『〈現実〉とは何か』の凄みが複素効理論を沸かす

          意識の測定、測定とプラセボ効果

          プラセボ効果研究の文脈にベイズ推定を組み込むのが最近のトレンドで、そこでは何かしらの「脳内にある事前確率分布」が説明のため恣意的に仮定されます。 勝手に仮定する理由は明らかで、脳内に保持されているらしき事前確率分布を直接知る術がないため。もしこの事前確率分布を直接測定できたら、プラセボ効果研究はさらなる飛躍を遂げるでしょう。 しかし、その道のりは困難を極めるはず。なぜなら現在の脳科学は「意識のあり・なしを判定する」という根本的な問題に関して、ようやく解決への糸口を見出した

          意識の測定、測定とプラセボ効果

          (あるいは複素効理論2.0)

          複素効理論をアップグレードします。 複素効理論って?「複素効理論(ふくそこうりろん)」は、2019年7月刊行の拙著『僕は偽薬を売ることにした』(国書刊行会)で公表したプラセボ効果に関する理論です。 その骨子は高校数学で習う「複素数」のアイデアを参考とし、医薬品が人体にもたらす薬効を薬理作用とプラセボ効果という二軸で捉える考え方。薬理作用を実数(のようなもの)として、プラセボ効果を虚数(〃)として把握し、その組み合わせで薬効を捉えることから、「複素効」の名をつけました(アイ

          (あるいは複素効理論2.0)

          単位元に関する「複素効理論」の誤り

          「本を出版することは、誤りを犯すことだ」 本に誤りはつきものです。誤字脱字はもとより、重要なコンセプト上の間違いをきっちり印刷物として残してしまうことも。 複素効理論『僕は偽薬を売ることにした』では、「複素効理論」を提唱しています。 複素効理論は、以下の目的で提唱するものです。 - プラセボ効果を説明すること - プラセボ効果を医療応用すること こうした目的を達成するためには、説明についての一般的な理解が必要です。 因果律に基づく説明人間が人間に説明してわかるため

          単位元に関する「複素効理論」の誤り

          統合医療を広める戦略

          統合医療という考え方があります。 近代西洋医学に基づく医療と、伝統的な東洋医学を中心とする補完代替医療。統合医療はこれらを統合して、患者に最適な医療を提供する考え方と捉えておけば大きく間違っていないはず。 統合医療は拡大の一途をたどっているでしょうか。そうでないのが現状でしょう。 統合医療を阻む要因統合医療の理念や良し。ならばなぜ広まりが限定的なのでしょうか。 統合戦略の現状現在のところ統合医療の拡大を求める当事者は、どちらかと言えば補完代替医療の支持者・施療者に偏っ

          統合医療を広める戦略

          科学の本質論はプラセボ効果を理解する鍵になる

          プラセボ効果に関する研究が世界中で実施されています。 研究のほとんどは、プラセボ効果と呼べる現象が、どのような環境で、どの程度生じるものかを検証しています。 プラセボ効果という現象についての科学的な主張は、今後ますます増えるでしょう。 - プラセボの投与により、持久走の成績が向上した - オープンラベル・プラセボにより、炎症性腸疾患の症状が軽減した - 治験においてプラセボ効果が増強しているという報告は誤り 上記はプラセボ効果という現象を記述した例です。しかし現象だけ

          科学の本質論はプラセボ効果を理解する鍵になる

          梅棹忠夫「情報産業論」と複素効理論

          呪術は一種の情報の体系である。薬効もまた一種の情報の体系ではなかったか。 梅棹忠夫『情報の文明学』(中公文庫、255ページ) そんな問いかけで締められた一節。 ここに、複素効理論へ至る道のりの端緒を見出すこともできるかもしれません。 情報産業論本記事は「情報産業論」と題された梅棹忠夫氏の論文を『僕は偽薬を売ることにした』(国書刊行会)へ接続する試みです。 「情報産業論」は1963年(昭和38年)に発表された論文であり、現在は中公文庫『情報の文明学』で読むことができます

          梅棹忠夫「情報産業論」と複素効理論

          「高次元科学への誘い」と複素効理論

          2019年5月に公表された「高次元科学への誘い」。Preferred Networks所属の丸山宏さんが書いたこのブログ記事に関する理解を深める上で、『僕は偽薬を売ることにした』は格好の副読本になるのかなと勝手に考えています。 なぜなら本書は、「科学にとって次元とは何か?」を考えた書籍でもあるからです。 複素効理論『僕は偽薬を売ることにした』で提示する複素効理論は、一見してそう思われる以上に怪しげな理論です。 虚構とさえ表現できるかもしれません。 複素効理論とは?複素

          「高次元科学への誘い」と複素効理論

          『僕は偽薬を売ることにした』でプラセボ効果論に新展開を

          プラセボ効果ってなんだ? そうした素朴な疑問に対して新たな視点を提供することが『僕は偽薬を売ることにした』(国書刊行会)の目的の一つです。 そして、読後の感想は次のようなものかもしれません。 プラセボ効果って、一体全体なんなんだ??? プラセボ効果の本質論読者あるいは読者候補に対して言い訳するのもどうかと思いますが、『僕は偽薬を売ることにした』はプラセボ効果に関する最終回答ではありません。疑問がスッキリ解消して完全に納得のいく議論が展開されているわけではないのです。

          『僕は偽薬を売ることにした』でプラセボ効果論に新展開を