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ランダミスタ:『RCT大全』に見る比較試験の必要性

プラセボ効果について深く知るために、ランダム化比較試験(RCT: randomized controlled trial)の本を読む。

『RCT大全』

邦題は『RCT大全 ランダム化比較試験は世界をどう変えたのか』(みすず書房)だが、英語の原題は『Randomistas: How Radical Researchers Changed Our World』で、訳すなら「ランダミスタ:急進的研究者たちは我々の世界をどのように変えたか」くらいの意味だろう。

もともと「ランダミスタ」という呼称には「ランダム化比較試験をなんにでも適用したがる研究者」などとやや侮蔑的な意味合いが込められていたようだ。しかし本書が描くのはそのこだわりがいかに重要で、いかに彼らが成果を上げたかを説くストーリー。「ランダミスタ」が賞賛含みの呼称となる価値転換が核となっている。

著者のアンドリュー・リー氏はオーストラリアの政治家で、政策の決定にランダム化比較試験が有用かつ必要であることを強調する。これには同意せざるを得ない。

プラセボ効果について

本書の第二章は「瀉血からプラセボ手術へ」で、当然、プラセボ効果に関する言及がある。

錠剤を服用する患者と服用しない患者を比べるだけでは、起きたインパクトはすべて錠剤の有効成分によって引き起こされたと誤認する可能性がある。一方、きちんと設計されたRCTならば、プラセボ効果の存在を特定することが可能だ。

『RCT大全』34ページ

「プラセボ効果の存在を特定する」がどういった意味なのかやや気になるところだが、「きちんと設計されたRCT」を好意的に捉えれば、特定の可能性があると言えるのかもしれない。

とは言え、これ自体が知りたかったことではない。

知りたいのは、比較試験を行う理由だ。

比較試験について

本書の説明によると、比較試験を行う理由は「反実仮想」にあるという。

反実仮想。

現実に反する仮想。

鎮痛薬を例に反実仮想を試みてみよう。

もし鎮痛薬を飲んで頭痛が治まったら、それは鎮痛薬のおかげだろうか?それは直接的にはわからない。偽薬を飲んでも治ったかもしれないし、何もしなくても自然に治ったかもしれない。しかしながら、鎮痛薬を飲んだという現実に反する「偽薬を飲んだら」、「何も飲まなかったら」といった場合の想像は、どこまでいっても仮想に過ぎず実際に確かめることはできないのだ。

反実仮想を現実化する、そんなトリッキーな手法があるのかだろうか?

ある、と本書は述べる。それがRCT(ランダム化比較試験)だと。

信頼できる比較対象を確保するにはどうするのが一番良い方法なのか、研究者は長年検討を続けているが、そのつど浮上してくる答えがRCTなのだ。被験者を二つのグループに無作為に割り当てる――片方は介入を受け(介入群)、もう片方は介入を受けない(対照群)――というやり方以上に優れた方法で反実仮想を判断する策は、単純に言って存在しない。

『RCT大全』12ページ

反実仮想を現実化するために個体からグループへ興味の対象を移す点にトリックの本質があるように思われる。またほかの箇所で補足されるように、ランダム化(無作為化)は条件を揃えるために必要なステップだ。

本書を超えた説明を求めて

説明にはレベルがあって、必要に応じた説明レベルを選択する必要がある。

『RCT大全』においては、RCTがなぜ高いエビデンス創出能力を発揮するかについて詳細な説明はない。原題の「急進的研究者たちは我々の世界をどのように変えたか」というストーリーを物語るにおいて、RCTの能力は前提だからだろう。

RCTがなぜ高いエビデンス創出能力を発揮するか?

そんな問いがあることすら、一般にはほとんど意識されていないようにも思われる。

でもこの問いへの答えが、プラセボ効果を深く知るきっかけになる。そんな予感がしている。

探求の歩みはつづく。



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