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人として振る舞う「リテール」のデザイン。

ブランドは人として振る舞う時代へ。

信頼を得る為に顧客一人一人を把握し、呼応し、姿形を変えていく。

例えばリテール(小売店舗)の場合、それはどうなるでしょうか。


中国に、「フーマー」という「新鮮を届ける」をコンセプトにした生鮮食品スーパーマーケットがあります。

フーマーは、店舗を展開する小売ブランドでもあり、店舗から3キロ圏内に居住する顧客に、30分以内に商品を届けるサービスを展開するECブランドでもあります。

フーマーは近年、日本のマーケティング業界で話題になりました。その理由は、オンライン(デジタル)とオフライン(リアル店舗)を融合したサービス構造(チャネル戦略)が注目されていたからです。

機能中心のレポートはこれまで様々なメディアで取り上げられてきましたので、ここではデザイン的な視点でフーマーが顧客にもたらす「感性の価値」、つまり信頼を獲得する為に人としてどの様な振る舞いがデザインされているかについて分析していきたいと思います。


ここで、フーマーの機能についておさらいをしておきます。


<リアル店舗>

フーマーの店舗は、一般的な生鮮食品スーパーマーケットと変わりません。日本の都市型スーパーマーケットと少し異なるのは、鮮魚コーナーに水槽がずらりと並び、生きた魚や貝を販売している点でしょうか。鮮魚コーナーの隣には広いイートインスペースがあり、買った魚をその場で調理して貰い、食べる事ができます。故に、レストランとして訪れる利用者も多くいます。レストラン利用者にとってここは、日本で言う魚屋が経営する寿司屋と同じ価値を持ち、新鮮であることを売りにしたレストランです。


<EC>

フーマーのECは、生鮮食品を販売しています。お店から3km圏内の居住者であれば、30分以内で届けてもらえます。配達時間の早さは「新鮮」という価値と直結しますが、EC利用者の購買体験自体は一般的なECと変わりがありません。


では、なぜフーマーは中国の顧客に支持されるのでしょうか。

ブランドが人として振る舞うべきである最も大きな理由は、企業の価値が「認知度」から「信用スコア」に変わったことにあります。ブランドは、顧客一人一人と一つ一つ信頼関係を積み上げていかなくてはなりません。

相手に如何に信用してもらうか、如何に安心してもらうかを考え、企業の生体と行動をデザインしていくことが大切です。フーマーは、中国の顧客から信頼を得る為に、早く届けるという機能的な価値以上の感性的な価値を生体に組み込んでいます。


実はこのフーマー、中国の巨大プラットフォーマー「アリババ」が展開しています。アリババがECに限界を感じてリアル店舗を作った訳ではありません。ECをより信頼できるサービスにする為にリアル店舗を活用しているのです。

フーマーは、「ECも展開するスーパーマーケット」ではなく、「リアル店舗で信用を担保するECブランド」です。EC側に視点を置きフーマーを観察すると、その計算された生体のデザインが見えてきます。


フーマーが目指したのは、安心して付き合える生鮮食品ECブランドです。


中国では、ECに対する信頼性が低いという課題がまだまだあります。本当に指定した商品が入っているのか、賞味期限が切れたものではないのか、新鮮なのか、こういった顧客の不安を解消し、安心して生鮮食品ECを利用してもらう為に、どの様な生体と振る舞いが求められたのか。そのストーリーをみていきましょう。

フーマーのECを利用し、顧客が野菜や魚等を注文したとします。その注文は即座に近隣フーマーの店舗内で待機しているスタッフが持つモバイルに送信されます。着信を確認したスタッフは、買い物カゴを持って売り場に出てきて、他の利用者と同様に、店頭の商品を注文通りにカゴに入れていきます。もちろん鮮魚は水槽から網ですくいます。


つまりEC利用者からすると、普段自分が買いに行く店舗の商品がそのまま届けられる為、商品に対する透明性が高いのです。注文した商品が、倉庫の在庫から配送されるECブランドとは異なり、頼んだ商品が、どこで、誰が手配したかが解る仕組みになっています。

 逆にECブランドであるフーマーにとってこの店舗は、顧客の近くに設置した配送センターといえます。


さらに、スタッフが商品をいれたカゴは、天井のコンベアーに吊るされて、店舗奥に待機する配送スタッフに直接送られ、すぐに配送されます。つまりスタッフが途中で商品をすり替えることもできません。
また、鮮魚コーナーの隣には、イートインスペースがあり、沢山の人が買った魚をその場で調理して貰い食べています。その様なシーンが、ここで売られている魚が新鮮であるという信頼につながり、EC顧客も安心して鮮魚を注文できます。


さらに、顧客の特性に合わせて形態を変えていく人としてのスパーマーケットには、他にもデジタルを駆使した変容の仕組みがあります。

例えば店頭の商品に付けられた電子プライスタグ。リアル店舗で買い物をする時は、ひょっとするとECで買った方が安いかも、と思う時がありますよね。フーマーの電子プライスタグは、店頭とECの価格が連動していて、店頭で買う人も、ECで買う人も全く同じ値段で購入することができます。もしもタイムセールが始まっても、店頭の価格も、ECの価格も同時に変わるのでどちらがお得か迷うことはありません。


また、出店する地域ごとに売れ筋商品がデータ化されている為、地域毎に陳列される商品の種類やボリュームが異なっていることも特徴です。地域のパーソナリティを把握し、地域に合わせて振る舞いを変えていく様は、フーマーが人間として振る舞っていると言えます。

この様に、顧客との信頼を積み上げていく時代において、フーマーはその生体を信頼できる人としてデザインしていることがわかります。


最後にフーマーのビジュアルデザインにも触れたいと思います。

事業やブランドの価値を顧客に早く正確に伝える為には、CI・VI、WEBサイト、店舗空間、店内ツール、スタッフユニフォームから店内のBGMに至るまで、全てのコンテクストを整えていく必要があります。

フーマーのサイトはこちら。https://www.freshhema.com/

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写真はフーマーの店舗写真です。

ロゴは、カバのキャラクターと丸文字を組み合わせ、親しみやすいデザインになっています。店内は天井に特徴的なデザインの照明が配されています。照明は斜めにクロスし、未来的スーパーマーケットを意識した空間デザインになっていることが解ります。

親しみやすさや未来的であることは、フーマーのブランドを構成する要素かもしれませんが、最も大切な価値である「新鮮」を中心にデザインコンテクストをまとめていくと、より顧客に価値が伝わりやすいデザインになるかもしれません。


ブランドが人として振る舞うという事は、ブランドのコンセプトを中心に、その生体(事業構造やサービスデザイン)を整え、その価値を持った人としての見た目を整えていく必要があります。

強いブランドは、コンセプトに従って全てがデザインされています。日常生活の中で、ブランドの生体や見た目のデザインの「理由」を考えてみると、そのブランドが目指している価値が見えてくるかもしれません。


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室井淳司