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武田敦
2024年2月11日 07:00
「わたしは、風のデイテ!――」 エリザの逞しい首筋を、いとおし気に撫でる。 「――マウンテン・デビルの背に乗って旅する吟遊詩人!」 ……わたしは、あえて帝国から来たことを言わなかった。考えてみれば、自由民だから、もともと国境は関係ないのだけれど…… 「こちらのお姉さん……あら、あなた達、このデビルが雌、女性だって分かった?」 わたしは、耳の後ろに手のひらをあてがって、住人たちの返事を待
2024年1月6日 07:00
……その後の残酷な過程は省略する。彼女は、うめきながらも、ぎゅっと目を瞑ってよく耐えた。切断されたロープがはらりと肉体を離れ、どさっと洞窟の床に落ちた時、彼女は、まるで人間のような、万感こもった溜息を吐いて、うつ伏せにくずおれた。かわいそうに、気絶したのである。 わたしは、改めて、恐る恐る彼女の痛めつけられた肉体を見た。ロープで圧迫を受けていた部分は、ロープがなくなったことによって早くも盛り返
2023年12月27日 07:00
「鉱山のことばかり考えてたけれど、林道かしら……」 わたしは、独り言をいうことに全く抵抗を感じなくなっていた。不思議なことに、怖がりのわたしが、この闇夜に荒野を一人で横断しているというのに、お化けや野獣のことは全く念頭になかった……疲労から、警戒心が麻痺していた、とも言えるし、変に神経質になってなかったから、どんどん先へ進めたのだ、とも言える。 「ままよ!」 わたしは、謎の九十九折に足を踏