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レオンの小説

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私が書いた短編小説を集めました。
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#小説

【あとがき】存在

【あとがき】存在

本編を読んでくださった方ありがとうございます。こちらはそのあとがきになります。

今回は何か普遍的なものを書きたいと思っていました。まずは人間にとって(可能なら他の生き物にとっても)普遍的な事柄は何だろうと考えました。

「生き物」と限定したことから答えは想像していたよりも簡単に導かれました。それは死です。

どんな人間も死ぬことは避けられない。そしておそらく生きている間に他の人や他の生き物の死を

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【短編小説】存在

【短編小説】存在

 蟻を殺した。殺してしまったと言った方が適切だろうか。とにかく殺意がなかったことだけは強調しておきたい。たまたま踏んづけてしまっただけなのだ。そんな言い訳を並べても蟻を殺した事実が覆ることはないと分かっている。
 とにかくまずはこの死体をどうにかしないといけない。遺棄するわけではなく埋葬したいのだ。いや、火葬が正しいのだろうか。蟻はどのようにして死者を弔うのだろうか。蟻の死生観について考えてこなか

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【小説】睡蓮池にかかる橋の上で

【小説】睡蓮池にかかる橋の上で

 穏やかな水面に映し出された白い雲と青々と茂る木々の葉を見つめながら、私の心もこんな風に鮮やかに映し出してくれる鏡があったらいいのにと思った。

「ねえミドリ、あの花どこから舞い降りてきたんだろうね」モネが私に尋ねた。
「あの赤い花のこと? 」
「うん」
「あれは睡蓮の花だよ」
「そうなんだ! 睡蓮の花言葉って何だろうね?」
「それは知らない」
「じゃあ睡蓮の葉言葉は何?」
「それも知らない。そも

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【紺青のズボン】エピローグ/あとがき

【紺青のズボン】エピローグ/あとがき

エピローグ
太陽が沈み月がだんだんと存在感を表し始めたころ、少年は街の中心部からだだっ広い駐車場へと帰ってきた。

ろうそくの炎を吹き消すような優しく冷たい風が黒柿色の木の葉を揺らしている。

今回は少年の心の炎が消えることはなかった。

少年は黒い服の男と夜行バスで交わした会話を思い出していた。

少年が持っているひとつひとつの個性は平凡なもので他の誰かも同じようなものを持っているのだろう。

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【小説】紺青のズボン

【小説】紺青のズボン

静まり返った夜のだだっ広い駐車場で若草(わかくさ)という名の少年はひとり夜行バスを待っていた。

若草は同世代の少年が選びそうもない紺青のズボンを身につけていた。自分以外の何かで個性を主張することは好きではなかったが、皆と同じように白い服と黒いズボンで学校に行くのは嫌だった。だから紺青のズボンは他の人にはない彼だけのトレードマークだったのだ。

冷たい夜風が頬をさすりながら冬の訪れを告げていた。雪

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