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【小説】睡蓮池にかかる橋の上で



 穏やかな水面に映し出された白い雲と青々と茂る木々の葉を見つめながら、私の心もこんな風に鮮やかに映し出してくれる鏡があったらいいのにと思った。

「ねえミドリ、あの花どこから舞い降りてきたんだろうね」モネが私に尋ねた。
「あの赤い花のこと? 」
「うん」
「あれは睡蓮の花だよ」
「そうなんだ! 睡蓮の花言葉って何だろうね?」
「それは知らない」
「じゃあ睡蓮の葉言葉は何?」
「それも知らない。そもそも葉言葉ってあるの?」
「分かんない。ないなら作ってみようよ」
「じゃあモネが思う睡蓮の葉言葉は?」
「んー。永遠の愛とかどう?」モネは微笑みながらそう言った。

 私たちはこの睡蓮の池にかかる橋で多くの時間を過ごした。橋の上から眺める赤い睡蓮の花はなんだか照れているようだった。

 モネと出会ったのは大学生の時だった。一つに束ねた長い髪と黄金色の丸いメガネがよく似合う人だった。クラスが同じでほとんど毎日会っていたが、特別仲が良いというわけではなかった。席が隣だったら授業が始まるまで少し雑談をしたり、課題で分からないことがあればお互いにメッセージをするくらいの関係だった。

 モネの最初の印象は柔らかくてあたたかい人だなということだった。モネがいるだけでこの空間に私がいてもいいんだと思わせてくれるような空気感があった。
「私のあたたかさはミドリから教えてもらったものだよ」
 モネを褒めるといつだって私を褒め返してくれた。モネの言葉は丁寧で素直だった。だから私はモネの言葉を信じることができたのかもしれない。

 モネと仲良くなったのは出会って一年くらい経ってからだった。お昼を一緒に食べたり、二人で出かけたりもした。行く場所も食べるものも決めるのはいつだってモネだった。私はモネと一緒ならどこでもよかったし、何でもよかった。
「今度はミドリの好きなもの食べようよ! っていうかミドリの好きな食べ物って何?」
 私の好きな食べ物って何だろう。小学生の頃から好きなものを答えることが苦手だった。苦手というより分からなかったのだ。

 嫌いな物から先に食べるような子供だったと母はよく言った。お腹いっぱいになるまで嫌いなものを食べてからようやく好きなものを食べるような子供だったらしい。自分の好きな食べ物が何かさえよく分かっていなかった。小学生の頃の自己紹介カードに好きな食べ物は寿司と書いていた。特に好きなわけでもなかったが、なんとなくそう書いていた。
 授業参観の日に教室の後ろに飾られている自己紹介カードを見た母は笑いながら言った。
「ミドリの好きな食べ物が寿司だなんて知らなかった。これからは寿司握ってみようかな」
 母が嫌味のつもりで言っていないことは分かっていた。ただ、私は母に申し訳ないことをしたと思い、次からは好きな食べ物の欄にカレーと書くことにした。


 日差しが熱く照りつける夏の日だった。モネと二人で動物園に行くことになった。モネがどうしても私が行きたい場所がいいと言ったので、悩んだ末に動物園に決めた。
 モネが動物のこと苦手だったらどうしようかと考えて前日はよく寝れなかった。モヤモヤした気持ちを抱えたまま当日の朝を迎えたが、そんな心配は無用だった。
 モネは楽しみすぎて昨日は眠れなかったと言った。モネはゾウの餌やりを見て喜んで、トラの昼寝を見て大きなあくびをした。とても感情が豊かな人だなと感じた。でも怒ったり悲しんだりしているモネは見たことがない。モネは怒ったり悲しんだりできているのだろうか。急に不安になった。
 終始テンションの高かったモネが一番喜んでいたのはインコの展示場だった。インコをカメラに収めようと必死になっているモネの隣で、黄、橙、黄緑、緑と色鮮やかな羽を持つインコに私も心を奪われていた。インコの展示場を過ぎたあたりでモネがこう言った。
「ミドリって興味あるものとそうでないものがはっきりしてるよね。見てたらすぐ分かっちゃう。インコあんまり好きじゃなかった?」
 感情を上手く表に出すことのできるモネとは対照的に私は感情を表に出すことが苦手だった。心奪われたとき、楽しかったとき、どのようにして表現すればいいのだろうか。自分自身の感情や考えを言葉にできるモネが羨ましかった。

 鳥のコーナーを過ぎると屋台からいい匂いがしたが、私たちは我慢して通り過ぎた。お昼は動物園近くのお店で海鮮丼を食べる約束をしていたからだ。まだ動物園は半分ほどしか見ていなかったが、二人ともお腹が空いていたし、とにかく暑かったので涼む意味でも動物園を出てお店に向かおうということになった。

 お昼時にも関わらずそのお店は人が少なかった。モネが穴場のお店を調べてくれたおかげだと思った。モネはマグロづくし丼、私はサーモンづくし丼を注文した。
「人を愛するってどういうことだと思う?」
 モネが唐突に聞いてきた。モネはいつだって唐突だ。それに私からの答えを期待しているわけではなかった。話すことで、聞くことで、頭の中の言葉を整理しているんだといつか話してくれたことがあった。
 私はモネからの質問に答えきれずにいた。愛することって何だろう。

「このマグロ丼美味しい!!! ミドリもぜひ食べてみて!」
 私が愛について考えている間に話題はマグロ丼に移っていた。私は常々会話は速すぎると感じていた。昔から私が頭で考えをまとめているうちに次の話題に進んでいることが多かった。落ち着いているとか、物事を俯瞰してみているなんて褒められたこともたくさんあったけど、そう見えていただけだと思う。実際には会話のスピードについていけなかっただけだから。
 
 それでもモネとの会話は心地よかった。会話というよりはモネと一緒にいる空間が心地よかった。この人は私を絶対に傷つけてこないという安心感があった。人に傷つけられて生きてきた私にとってこんな人は初めてだった。でもモネは私といる空間のことをどう思っていたのだろう。それを聞く勇気はなかった。

「この後どうする?」モネが尋ねた。
「どうしようか…。まだ帰りたくないな」
「じゃあ旧市街の広場に行かない?」
「そうしようっか」

 お腹を満たした私たちはその店を出た。小雨が降っていたので屋根付きのアーチが続く通りを抜けて旧市街の広場を目指すことにした。はちみつ色の建物が並ぶこの通りが私はとても好きだった。
 旧市街の広場が見えてくる頃には雨は上がっていた。広場には多くの人がいた。人が多い場所はあまり好きではなかったが、本を読んだり、お喋りをしたり、各々が好きなように過ごしているこの空間は好きだった。
 モネはここでよく本を読んでいた。私は風や鳥の声に耳をすませたり、頭や心に浮かんだ考え感情をメモしたりして時間を過ごしていた。
「今日はどんなメモしたの?」モネが尋ねた。
 私のことは忘れても相手の心の中に幸せな気持ちだけは残り続ける、そんな人になれたらいいなと思う。と書かれたメモを恥ずかしそうにモネに見せた。
「私、ミドリの言葉も考え方も好きなんだ。ミドリだったらいつか小説家になれるかもね」
 モネは軽い気持ちでそう言ったのかもしれないが、私の心にはその言葉が深く刻まれていた。


 大学を卒業した私は小説家になるために家庭教師のアルバイトと執筆作業を行う日々を選択した。モネは地元を出て就職した。しばらくして営業部に配属が決まったと連絡が来た。人見知りな私には到底無理だが、明るくてコミュニケーション能力にも優れて人にも好かれるモネなら適職だろうと感じた。

 違う土地で違う道を選んだ私たちが会う機会は減っていった。離れてからも連絡は頻繁に取っていたが、モネからの返信が段々遅くなっていることは薄々感じていた。日をまたぐことがなかった返信が、三日、五日、十日と間隔が空いていった。その時は働き始めてモネも忙しいだけだろうと思っていた。ついに返信も来なくなってしまったトークルームを見ながら私は虚無感に襲われていた。
 連絡するのはいつも私の方だった。普段は自分から連絡することなんてできないが、モネは特別だった。そんな特別なモネに対しても私の感情変換装置は段々とおかしくなっていくことを感じていた。
 モネが私に何かしたわけではないと分かっていた。人に傷つけられたのではなく、自分で自分を傷つけているんだろうなと分かっていた。悪意のない言動や行動に傷つくときはいつだってそうだった。そうやって自分を慰めるのに必死だった。

 私の人間関係はいつも短命だった。喧嘩したとか、相手のことを嫌いになったとか、そういうわけではなかった。
 最初は相手から好かれている理由に喜ぶものの、段々と嫌われていない理由ばかりをかき集めて自分の気持ちを抑え込むのに必死になってしまうのだった。
 会ってくれて嬉しいと思っていたのに、会ってくれているということは最低でも嫌われていないんじゃないかと思い始める。そう思っていたのに、私と無理して会っているんじゃないかと思い始める。そうやって相手から嫌われたのではないか、私といると迷惑なんじゃないかと勝手に思い込んでしまっていた。
 相手の行動は変わっていなくても私の感情変換装置が段々とおかしくなるのだった。それが続くと相手と一緒にいることが苦しくなってしまって私の方から離れていくことが多かった。
 何回確認しても返信が来ないトークルームを見ながら今回ばかりは私の方が離れられたんだと実感した。私の物語でモネは主要人物なのに、モネの物語での私は村人Bですらなくなったのだろうと感じた。虚しい気持ちを抱えながらも目の前の現実を生きるのに必死で次第にモネのことは忘れてしまっていた。


 いつどのような形で出版会社から声がかかるか分からないので、新人賞に応募することに加えて小説投稿サイトに短編小説を載せることも始めた。
 あまり縁のなかったネットの世界に文章を放り投げることは怖かった。とにかく批判を恐れていた。しかし、想像していたような悪意のこもった言葉はなく私の文章は好意的に受け止められたようだった。私の文章が好きだと言ってくれる人にも出会うことができた。
 しかし、相手の言葉を素直に受け取ることは私には難しかった。お世辞で言っているんじゃないか、何か見返りが欲しくて言っているだけなんじゃないか。書かれたことだけを信じる、話してくれたことだけを信じるというのはもしかすると相手にも私自身にもとてつもない信頼がないとできないことなのかもしれないと思った。
 最初はコメントを残してくれたり、リアクションをしてくれる人もいたが、投稿する度にその数はどんどん減っていった。
 移動の片手間に画面をスクロールしている人たちには私の文章の良さは分からない、なんて言い訳をしておきながら、読んでもらえるほどの文章を書いていないくせに読まれないと嘆いた。読んでもらうための努力もしてないくせに読まれないと嘆いた。
 別に読まれなくてもいいなんて思っていながら、読まれないと落ち込んだ。どちらの感情も間違っていなかったとしても、矛盾する二つの感情が共存することをこの時に知ったのだった。


 滝のように雨が降る日だった。
「返信できてなくてごめん。久しぶりに電話で 話さない?」
 モネからの一年ぶりのメッセージだった。一年もの間返信がなかったことに苛立つ気持ちもあったので仕返しの意味も込めて返信を遅らせてやろうかとも考えたが、そんなことよりモネからの連絡が嬉しかったので、もちろん、とすぐに返信した。

「久しぶり」
 その声は明らかに元気がなかった。無理して明るく振る舞っていることが透けて見えるようだった。
 それからモネは心がダメになってしまったと語った。ご飯も食べれず睡眠もなかなか取れていない日々が続いていた。会社に遅刻することが増え、ついに会社に行けなくなってしまった。今まで当たり前にできていたことができなくなった。残り少ない力を振り絞って病院に行き、それから休職をして療養に励んだが、なかなか回復しないまま休職期間が終わり、復職か退職か迫られたのちに退職することを決めたと言った。そして今は実家に帰って外にも出れず人にも会えずに引きこもっていると細々とした声で話してくれた。
 私は今まで精神疾患は嘘じゃないかと思っていたし、あるとしても心の弱い人がなるようなものだと考えていたが、実際にモネの声を聞いて、モネの話を聞いて、そんな薄っぺらい自分の考えを悔やんだ。恥じた。何か気の利いたことを言おうと頭の中の引き出しを探したがなかなか見つからない。
 私が放つ全ての言葉がモネにとっては刃となってしまうのではないかと考えて怖かった。私はモネの人生全てを知らない。モネが何を経験してきたか、どう考えてきたか、どう感じてきたか、それを知らない。だから私が何気なく放った一言でモネを深く傷つけ、その傷を癒すためにモネがその後の人生の貴重な時間を費やしてしまう。そんな言葉を選択してしまうかもしれないと思うと何も言葉が出なかった。  
 モネだって人間だ。いつも楽しそうに見えていたが悩みの一つだってあるだろうし、苦しむことだってあるだろうとは思っていた。だが、私の考えは甘かったのかもしれないと思った。
 相手がどれほどの苦しみを抱えて生きているか知らない時、それはとても幸せなことなのかもしれない。相手が苦しんでいるなんて想像をしなくてもいいから。そんなこと想像にすら及ばないから。でもその態度が、私を傷つけないあなたをどれだけ傷つけていたか気づいた時にはもう遅いのかもしれない。私を傷つけないあなたを私は傷つけたくない。その気持ちが人を愛するということなのだろうか。

「死にたいと思うことが増えちゃったんだよね。何度も何度ももうダメだなんて思ったけど最後の一歩を踏み出す勇気さえ私にはなかったみたい。でもね、死のうとするたびにミドリのことが頭に浮かんだ。たぶん心の中でミドリが私を救ってくれたんだと思う。苦しくても死にたくても誰にも助けてって言えなくて、ほら私しっかりしてるとか明るいとかよく言われるじゃん? だから余計に助けを求められなくて。それで結局心が壊れてしまってからしか大丈夫じゃないって言えなかったんだよね。こうなってしまった後だけど、素直に言葉を届けられる相手がいてよかった。ミドリ本当にありがとう」
 もっと苦しい人もいるとか、みんなそれぞれの悩みがあると、モネを責める言葉を投げつける人もいるだろうが、私にとってはモネが今苦しんでいることが全てだった。
 針に糸を通すように丁寧に言葉を選び、現状を話してくれたことに対する感謝を述べ、私にとってはモネの健康が一番大切だということ、いつでも連絡してほしいということを伝えた。そのあと十分ほど雑談をして通話を終えた。
 
 それから私たちは週に一度くらいの頻度で電話をした。私が食べたものや見たものの話をしてモネは聞いていることが多かった。時々モネが今日はお風呂に入れた、五分だけ散歩できたと話してくれた。モネの健康に関する質問はできる限りしないようにした。モネを焦らせてしまうと思ったからだった。会って話そうよと誘ってみたことはあったが、今は人に会える状態ではないと断られていた。


 モネとの電話は楽しかったが、小説が行き詰まっている日々から目を背けていることにそろそろ向き合わなければならないと思っていた。
 サイトに短編小説を載せることも再開した。人見知りながらも小説を書いているコミュニティにも参加し仲間を増やした。添削をしあったり、意見を交換することで自分の文章の稚拙さを思い知らされたがその分文章を書く力は伸びてきているのではないかという感覚はあった。それに伴い、サイトに投稿していた短編小説へのリアクションやコメントも日々増加していた。 
 しかし、新人賞への応募作品はことごとく落選していた。最終選考にすら残れていなかった。
 新しい作品を書き終えるたびに全てのアイデアが枯渇してしまった。これ以上は何も生み出せないという状態から新しい作品を書き始める繰り返しだった。小説のアイデアが出ない日々が続くと苦しかった。書こうと思えば思うほどに書けないこともあった。本を読めば読むほどに新たなアイデアへの道が閉ざされていくようだった。
 コミュニティの仲間が小説家デビューした時には悔しさと同時に、おめでとうのメッセージさえ送れない己の人間としての未熟さに嫌気がさすこともあった。
 このまま小説家を目指す生活を続けてもいいものなのかという考えが頭をよぎることがあった。ちゃんとした生活をしないといけない、普通の人のように生きないといけないという誰も発していない社会の声が私を惑わせていた。
 しかしこの生活は好きだった。小説を書くことは好きだった。私は今の私のことが大好きだった。
 ちゃんとしろという誰も発していない社会の声と、このままでいいという私の心の声、どうして聞こえもしない社会の声が大きく、そして正しいように聞こえてしまうのだろうかと不思議だった。
 そんな悶々とする日々が過ぎていく中、小説サイトに投稿していた短編小説がサイト内のコンテストで最優秀賞を受賞したとの連絡があった。ささやかな賞金よりも嬉しかったのが、サイト内で月に一度、全十二回の連載が決まったことだった。
 賞をもらった二万字ほどの短編小説『睡蓮の葉言葉』を十万字ほどまで増量して連載するということらしかった。人物背景や心理描写など書き足りないと思っていた箇所があったので文字数を増やすことが特別重荷になることはないだろうと予想していた。だが、初めて原稿料をいただいて行う執筆なので、その責任と重圧に耐えられるかとても心配だった。
 そんな心配を抱えながらも締め切りに遅れることもなく時間は過ぎていった。


 五回目の記事が掲載された頃だった。
「久しぶりに会おうよ!」 
 モネからのメッセージだった。気付けば半年以上電話どころかメッセージさえ送りあっていなかったので私の心は飛び跳ねた。私たちは睡蓮の池にかかる橋の上で待ち合わせすることにした。
 
 待ち合わせの日はよく晴れていた。先に着いた私は睡蓮を眺めながらモネのことを考えていた。
 モネの傷は癒えたのだろうか。忘れる瞬間はあってもその傷が完全に癒えることはないのだろうか。いや、そんなこと当事者でない私が決められるものではなかった。
 生きていれば自分ではどうしようもないことに巻き込まれて傷を負ってしまうことから逃れられない。大切な人が傷ついたと知ったとき、私には何ができるのだろう。本人が自分一人で抱え込もうとしているとき、私は何と言ってあげられるだろう。私の愛を持って大切な人たちの傷を一瞬でも癒すことができるなら、私はその一瞬のために私の最大限の愛情を注ぎたい。
 私はモネを愛していた。それがどんな種類の愛だったかは分からなかった。ただ愛していることだけは知っていた。

「ミドリ! 久しぶりー!」懐かしい声がして振り返るとそこにモネがいた。
 元気そうだねという言葉を飲み込んで、会えてよかったとモネに伝えた。私たちは睡蓮池にかかる橋の上でたくさんの話をした。
 モネは体調が完全に良くなったわけではないが、今は書店で働けるまでに回復したということ、心身ともに疲れることが多いが好きな本に囲まれて楽しく働けていること、その全てを丁寧に言葉を選びながら話してくれた。
「ミドリの本が出版されたら書店の一番目立つところに飾りたい!」
 プレゼントをもらった子供のような笑顔でモネはそう言った。
 小説家デビューが決まったらモネに一番に報告するね、という言葉がなぜか言えずに睡蓮池を見つめていた。
 大きな白い鳥が飛び立った。橋の上から眺める赤い睡蓮の花はなんだか照れているようだった。




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