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むさしの写真帖

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「写真っていうのはねぇ。いい被写体が来たっ、て思ってからカメラ向けたらもう遅いんですよ。その場の空気に自分が溶け込めば、二、三秒前に来るのがわかるんですよ。その二、三秒のあいだに…
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2023年11月の記事一覧

モノクロ

モノクロ

カメラの設定を「モノクロ」にして歩く。
そうすると目は光と影を追い始める。
面白いモンだな、と思う。
その感じが楽しくて、いつもよりシャッターが多い。

秋の聲

秋の聲

秋の日の
ヸオロンの
ためいきの
ひたぶるに
身にしみて
うら悲し。

鐘のおとに
胸ふたぎ
色かへて
涙ぐむ
過ぎし日の
おもひでや。

げにわれは
うらぶれて
ここかしこ
さだめなく
とび散らふ
落葉かな。

落葉

上田敏『海潮音』より

子育て幽霊

子育て幽霊

ある夜の事。

店仕舞いを終えた飴屋の雨戸を叩く音がする。
主人は何事かと
「どちらさんで?」
と応える。
雨戸の向こうでか細い声がする。
「飴を一つ売って下さいませんか」
こんな夜更けに一体 … と思いながら、主人は雨戸を開けた。
店の前には青白い顔をして髪をボサボサに振り乱した女が独り。
一瞬ぎょっとしたが、それでも女は一文銭を出すので
「一つでよろしいので?」
と聞くと女は何も言わない。

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陸橋を渡る

陸橋を渡る

憂鬱に沈みながら、ひとり寂しく陸橋を渡つて行く。
かつて何物にさへ妥協せざる、何物にさへ安易せざる、この一つの感情をどこへ行かうか。
落日は地平に低く環境は怒りに燃えてる。

一切を憎悪し、粉砕し、叛逆し、嘲笑し、斬奸し、敵愾する、この一個の黒い影をマントにつつんで、ひとり寂しく陸橋を渡って行く。
かの高い架空の橋を越えて、はるかの幻燈の市街にまで。

萩原朔太郎

蜘蛛の糸

蜘蛛の糸

御釈迦様は極楽の蓮池のふちに立って、この一部始終をじっと見ていらっしゃいましたが、やがて犍陀多が血の池の底へ石のように沈んでしまいますと、悲しそうな御顔をなさりながら、またぶらぶら御歩きになり始めました。自分ばかり地獄からぬけ出そうとする、犍陀多の無慈悲な心が、そうしてその心相当な罰をうけて、元の地獄へ落ちてしまったのが、御釈迦様の御目から見ると、浅間しく思召されたのでございましょう。

しかし極

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阿吽

阿吽

向田邦子さんの小説に「あ・うん」というのがある。
もともとはNHKのドラマだったが、後に氏唯一の長編小説として発表された。
脚本として継続していたのだけど、氏が1981年に航空機事故で他界して中断してしまっている。

この小説は恋愛小説ではあるが昭和初期の戦争へ向う暗い時代の話でもあって、10代だった僕はピンと来なかった。
その後何度かドラマになったり映画になったりもしているが、小説が一番感情を移

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薬をもらいに

薬をもらいに

ぼくは持病のために毎日薬を飲んでいる。
良くなるということはない病なので薬との付き合いはこれからも続いていく。
その命綱ともいうべき薬は毎月一度通院して処方してもらっていて今日がその日となった。

「病院に行く」ということほど心躍らないことはない。
毎回大したことをするわけでもなく簡単な問診と血圧などを計ってお終いなのだけど待合室の、あのなんともいえない重苦しさが嫌なのだ。
それも当然であって、あ

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永遠

永遠

7 :1/2:2007/11/28(水) 13:48:14.91 ID:kDYoP4Sd0

子供の頃。今は永遠だと思っていた。
明日も明後日もずっとこうして続いていくような気がしていた。
大人になるってことは自分とは無関係だと思ってた。
大人っていう生き物は自分たちとは別の生き物だと思ってた。

学校へ行って、友達と昨日遊んだ事を話して。
授業中、女子の手紙を別の女子に渡しながらノートに落書きし

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托鉢僧

托鉢僧

銀座・和光の辺りでいつも見かけていた托鉢僧がいて、何かの折にお布施をした時に少しお話しをした。
真言宗の僧侶である事、午前は焼き鳥屋でアルバイトをして、それから毎日銀座4丁目で托鉢をしている事。
その程度の事をお話ししただけだったが僧侶からは絶えず白檀のいい香りがして、なにか気持ちが楽になった気がした。
写真は帰り際にさっと振り向いて撮らせてもらったもの。

一昨年の冬だったか、その方が亡くなった

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ティカムサの詩

ティカムサの詩

With that I give you Tecumseh

So live your life that the fear of death can never enter your heart.
Trouble no one about their religion; respect others in their view, and demand that they respect you

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