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アジ・ダハーカの箱

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滅び行く人類とその天敵ドラゴンとの戦い。終末世界を放浪する者はその瞳にいったい何を映すのか。 逆噴射小説大賞ノミネート作品として始まった小説です。1900の作品の中から二次選考通… もっと読む
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アジ・ダハーカの箱 第10話:罪なき罰

アジ・ダハーカの箱 第10話:罪なき罰

「ま、待ってくれ!俺が悪かった!やめてくれ!やめろッ!やめ」

無視だ。俺はクソ野郎の口に鉄板入りのブーツをブチ込んだ。加減の無いサッカーボールキック!歯が何本も砕け、飛び散り、口唇がちぎれ飛んだ。

「ぐわッ!がッ!ああああッ!」

嗚咽、悲鳴。振り子のように揺れる芋虫。無様な姿だ。だが俺の心は冷えている。気を失われると面倒なので、次はそのたるんだ腹に一撃おみまいしてやった!全裸で縛られたクソ野

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アジ・ダハーカの箱 特別編:ボーイ・ミーツ・ガール

アジ・ダハーカの箱 特別編:ボーイ・ミーツ・ガール

俺は目の前にいる女の胸を揉んだ。

「ちょっと、やだ、うふふ、人が見てるよ」

若い女……よく知ってる女だ。俺の幼なじみ。佐田理央(さだりお)はそう言いながらも満更でもない様子だ。

「はは、誰も見てなかったら良いのか?」

俺は微笑みかける。理央は俺の手を振り払い、柔らかく笑った。

「うふふ、うふふふふふ。じゃあ、これが終わったら続きをしましょう」

「そうだな。そうしよう」

絶望的な約束を

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アジ・ダハーカの箱 第9話:死都編 【結】黄昏と暁

アジ・ダハーカの箱 第9話:死都編 【結】黄昏と暁

蜘蛛の糸……!

男がひとり、曇天から垂れ下がる蜘蛛の糸に掴まり、せっせと上っている。

そのすぐ下には、おびただしい数の亡者たち。亡者たちはいびつな組体操のように各々を足蹴にして、蟻の行列めいて男に追い縋ろうとするが……

男は手に持ったオートマチック拳銃を連射する!火花と共に吐き出される薬莢!弾丸は亡者の頭部に命中!命中!破壊!破壊!飛び散る頭蓋のかけらと肉片が汚らしい花を咲かせる!屍た

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アジ・ダハーカの箱 第8話:死都編 【転】ライブ・リビング・デッド

アジ・ダハーカの箱 第8話:死都編 【転】ライブ・リビング・デッド

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……顔に……

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俺の……顔、顔に、何か……

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「……リア……ナ……パーガトリーの……」

……

……

「……を知って

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アジ・ダハーカの箱 第7話:死都編 【転】竜喰い

アジ・ダハーカの箱 第7話:死都編 【転】竜喰い

「まいったな。これはどうにもならん」

気だるげに傭兵が呟いた。彼女は竜喰いの賞金稼ぎと呼ばれた兵士。トレードマークのトレンチコートを羽織り、両手に構えたリボルバーの銃口の先、大型の倉庫の屋根の上には……呪属性ダムドゥドラゴン!

ここは国際空港より18マイルほど離れたロサンゼルス中心地、ダウンタウン。チャイナタウンやリトル・トーキョーなどの多様な地区で構成され、いくつものブティックやモダンな

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アジ・ダハーカの箱 第6話:死都編 【転】ロッカバイ・ベイビー

アジ・ダハーカの箱 第6話:死都編 【転】ロッカバイ・ベイビー

「はははは!これで!これでやっと死ねる!やっと!やっ、と、あばばばばばッ!」

狂気めいた歓喜の叫びが空港ターミナルにこだまする!

そこでは地獄が如き光景が繰り広げられていた。まるでペットボトルの蓋を取るように、人間の首が鷲掴みで捻られ、そのまま引きちぎられる!胴体から間欠泉のように噴き出す鮮血!

「ひっ、ひいいああ」

歴戦の傭兵の口から情けない悲鳴が漏れた。地獄だ。目の前の光景は本

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アジ・ダハーカの箱 第5話:死都編 【承】

アジ・ダハーカの箱 第5話:死都編 【承】

"……それにしても、噂通りだな"

"ああ、驚いた。信じられん"

"本当に……犬属性のドラゴンどもが寄って来ない。一度も襲われてない。このまま目的地まで到着できるんじゃないか"

"そうだな。車を走らせてけっこう経ってるが、こんなにど真ん中のルートを通ってもまったく襲ってくる気配がない。不思議なほどだ"

"見ろ。向こうにいるのは犬属性ハイエナドラゴンだ。目が光ってる。……こっちを見てる。何匹も

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アジ・ダハーカの箱 第4話:死都編 【起】

アジ・ダハーカの箱 第4話:死都編 【起】

「ちょっと、旦那ァ、恵んでくだせぇ。どうかお恵みを。あなたのために祈りますから」

「邪魔だ。どけ」

人でごった返す雑踏の中、俺は擦り寄ってくる物乞いの胸を勢い良く突き飛ばした。奴はそのままゴミ捨て場に吹っ飛び、頭に生ゴミを被りながら俺に対して何かわめき散らしている。俺は無視して歩き続ける。

「ねえ!ねえ!あんた!奴隷を買わないかい?若くて良いのが揃ってるよ!」

「間に合ってる。失せろ」

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アジ・ダハーカの箱 予告編:死都へ

アジ・ダハーカの箱 予告編:死都へ

「良し。全員揃ったな」

乾いた空気が冷たい大地を撫でる。満点の星が夜空を彩り、殺風景な荒野を静かな光が照らしていた。動物はおろか虫けらすらも存在しない荒れ果てた地。闇夜の岩場。その影の中で響く声があった。

声の主はいかにも軍隊上がりといった立ち振る舞いを見せる大男だった。白髪と揃いの無精髭を撫でる姿は威厳に満ち、数多の修羅場をくぐり抜けた風格を漂わせ、その存在感だけで空気を張り詰めさせてい

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アジ・ダハーカの箱 特別編:ライク・ア・ドッグ・デイ・アフタヌーン

アジ・ダハーカの箱 特別編:ライク・ア・ドッグ・デイ・アフタヌーン

「狼が来たぞォ!」

「うるせえ!死ね!」

私は振り向き、走りながら銃を撃つ。

「ハハ!ハハハハァー!」

当然、奴は躱す。狼は私を嘲笑いながら、残像が見えるほどの速度で銃弾を避けた!くそ!無駄だとわかっていても、あまりにもムカつき過ぎたので撃ってしまった。完全に無駄な弾だ。奴は銃弾を避けるほどの速度で動くことができるのに、私と常に一定の距離を置いて追いかけて来ている。こちらが走る速度

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アジ・ダハーカの箱 特別編:竜よ、花よ

アジ・ダハーカの箱 特別編:竜よ、花よ

ラララ、ラン、ラン、ラララ、ラン、ラン

ランランラン、ラララ、ラララ

ララララ、ララララ、ララ、ラン、

…………

「うわっ!うわあああ!……ああああ、ああああ?」

俺は叫びながら上半身を起こす。前髪が汗で額にへばりついている。何か……とても、恐ろしい夢を見ていたような。とりあえず起きないと。俺は自分の脚を動かそうとする。

「いてえ!」

両脚に激痛が走った。そしてまったく

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アジ・ダハーカの箱 プロローグ:この世には知らねばならないことがある

アジ・ダハーカの箱 プロローグ:この世には知らねばならないことがある

太古の昔、古代ペルシャ文明が栄えたとき、人と竜は当たり前のようにそれぞれ存在していた。人の子は大地から奪い、竜は人の子から奪う。力が支配する時代。そこにはアジ・ダハーカという暗黒竜もいた。

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