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短編小説集

19
短編小説、増幅中。
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#少年

サナトリウム201号室

サナトリウム201号室

 くすんだグリーンのリノリウム。留まった儘、淀んだ空気。窓。格子。細い木の枝が見える。
 凡そ簡素なベッドに、白は四六時中寝ている。病。それは三歳のときに始まり、十四歳の今迄一度たりとも良くなることは無かった。
 「そろそろ、春たろうか。」
呟いても、答えは無いに決まって居る。独りだから。白は、ずっとこの201号室に唯一人きりだった。
 春の花の香りは、この窓に届かない。格子が嵌められ、閉じ切っ

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少年の為の小さな海

少年の為の小さな海

 緑、飛ぶ虹彩。刺すやうに。見る。
 ソラスは立ち尽くしていた。港。船着き場に船は一艘も無い。海は白ばんで、たおやかに息をしている。
 少年と呼ばれる時間は幾ほどだろうか。13歳。新浜中等学校の二年、夏、七月。未だ、ソラスはただ少年でしか無く、青色だった。
 爪が伸びている事に気づく。僕は生きて居るやうだ。気持ち悪い。
 齧り、爪など剥ぐこゝろ。生など、嗚呼なんと醜い!コンクリートに仰向けて、空に

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