Asako Nakagawa

医学生作家 クマ財団5-6期生、突き抜ける人材ゼミ9期生etc. 第8-9回星新一賞学…

Asako Nakagawa

医学生作家 クマ財団5-6期生、突き抜ける人材ゼミ9期生etc. 第8-9回星新一賞学生部門優秀賞、第39回大阪女性文芸賞受賞 『ぶるぶる』(「群像」2022年9月号)、『群青の雪』(新潮社より入賞作品集発売予定)

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  • 逃走する言語 最古の、あるいは最後の知的生命

    「KUMA EXHIBITION 2022」Part.2にて配布を行った冊子『逃走する言語 最古の、あるいは最後の知的生命』のアーカイブです。

  • 作品まとめ

    作品をまとめています。

最近の記事

中京のエースから中日のエースへ。髙橋宏斗を育てた「まぜそば屋」聖地巡礼

 名古屋市営地下鉄名城線・八事駅から徒歩五分の場所に、知る人ぞ知る聖地がある。  その名も「歌志軒やごと店」。まぜそば(汁のないラーメン)を主に提供するチェーン店だ。お手頃な値段と多彩なトッピングで根強い人気を博している。名古屋圏の学生で知らない人はいないだろう。かく言う私も、高校時代によくお世話になった。  数ある歌志軒の中でも、やごと店は一際異彩を放っている。何とこのお店、とあるドラゴンズ選手と深いゆかりがあるのだそうだ。  店の前にはドラゴンズ仕様の自販機がある。青色

    • ほんとうのぼくの物語(後編)

      大学に進学し、悪夢を見る頻度が増えた。夢は記憶のパッチワークだという言葉を聞いたことがあるけれど、僕に限った話でいえば、自分が全く経験したことのないような場所に飛ばされることが多かった。駅の電車の風に吹き飛ばされる夢は、特に寝覚めが悪かった。その駅に自動改札はなく、四角い緑色の切符を、離さないように強く握りしめているのだけれど、瞬きをしたタイミングで突風が吹いてきて、寒さが皮膚を強張らせる。何度も、何度も、それが続く。ある時から切符で暖を取るようになったが、凍えに対して効果は

      • 各種研究報告

        報告一 時間発電 時間経過現象を引き起こす微小粒子の存在と、タイム・トラベルの不可能性については、これまで幾度にも渡り議論が行われてきた。唯一時空を可逆的に移動できる方法として、二次元的時間遡行法(通称:意識テレポート)が知られている。この度の江蘇科学技術大学の発表によれば、意識テレポートが行われた際、移動口となる時間の裂け目周辺に、多量のエネルギーが放散されることが判明した。現在宇宙の広範な地域で用いられている高度太陽光発電に比べ、裂け目を活用した発電法は、約七十八万倍の効

        • ほんとうのぼくの物語(中編)

          ただ目に麗しいだけの文章なんて、消えてしまえばいいのにと思った。中学の卒業式を終え、卒業アルバムを広げた時、ページ全体に有象無象のきらきらした文字が踊っていて、臭いトイレの前で互いに泣くまで口喧嘩をしたことや、修学旅行の夜に騒ぎすぎたせいで叱られたことや、その他積み上げられてきたはずの醜くも懐かしい思い出の数々は、ただ僕の頭の中にのみ封じ込まれているのではないかと、そんな風に思ってしまった。僕たちの過ごした日々は綺麗にトリミングされていた、知らない大人の手によって。 荷物の整

        中京のエースから中日のエースへ。髙橋宏斗を育てた「まぜそば屋」聖地巡礼

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        • 逃走する言語 最古の、あるいは最後の知的生命
          8本
        • 作品まとめ
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        記事

          未来人からの手紙

          一 ハロー、ワールド、平和な世界の皆さん、こんにちは、あるいはこんばんは。このポストに入れた手紙は、時空を超えて見知らぬ他人に届くそうです。三次元タイム・トラベルの不可能証明は五十年前に認められたはずなのに、このような都市伝説にも近いポストが民衆に受けるのは、人類が皆未来への夢を捨てきれないからでしょう。正直半信半疑ですが、早速使わせていただきます。ちなみに、今しがた受け取ったメッセージは、一九八四年のウィンストン・スミス氏からのお知らせです。真実かどうかはともかく、一度も会

          未来人からの手紙

          ほんとうのぼくの物語(前編)

          ある日を境に、階段の夢を見るようになった。夢の中で僕は決まって泣いていた。なぜこれほど悲しいのか、どうしたらこの悲しみは消え失せてくれるのか、そういったことを考える暇も、余裕もなく、ただ目元からこぼれ落ちる液体を袖で拭っていた。涙に含まれる塩分のせいで皮膚が赤く染まり、その部分に痒みを覚えた頃合いで、僕はいつも目を覚ました。このような夢を見るようになったのは転校してからであった。別れの会を済ませ、級友から手渡された花束を、僕は車の中でも手放すことができず、薄桃色の紙とビニール

          ほんとうのぼくの物語(前編)

          英雄のいない昔話

          眠れぬ森の美女 場末の工業大学の理学部化学科のオタサーで、大切に育てられた姫さまがいた。長い間不眠症に苦しんでおり、その症状は日常生活に支障をきたすほどひどいものだった。彼女は医者へ向かい診断を乞うた。簡単な問診の後、医者は「ストレス誘発性の不眠症ですね」と告げた。実際姫さまは、連日連夜の課題レポートで、限界まで追い詰められていた。理学部化学科とは、かくも厳しい世界であった。 事態を重くみたオタサーのサークル長は、姫さまを郊外の森へ連れて行った。そこは「眠れぬ人」の聖地とし

          英雄のいない昔話

          ぼくの物語

          ある日を境に、階段の夢を見るようになった。 いずれ消え去る思い出を手のひらに握りしめ、 うつくしい風景を灰色の壁に探し求めた。 えんえんと続く段差から目を背け、目尻の濡れるに任せてみる。 おどりばを踏む靴裏の残酷さに、あなたは一生気づかないのか。 かつて友だちだった人々の放つ愚痴、 きのうまで確かだと信じてやまなかった現実、 くるおしいほど追い求めたあの子の影、 けっきょく全ては不確かで、底の見えない穴に落ち、闇が溢れて夜が来る。 こんなにも、こんなにも、僕

          ぼくの物語

          序章 逃走する言語

          【二〇二〇年四月二十九日】 騒動の始まりは何てことのない春の日だった。散りかけた桜の木の影と、熱されたアスファルトの河が、歩道の横にただ延々と広がっていた。全てを押さえつけるような陽光を眩しく思いながら、僕は辺りを散歩した、失われた日常に些細な抵抗を試みるべく。皆同じことを考えているのだろうか、人通りはまばらながらも途絶えなかった。 パンデミックは僕たちから平凡な日常を奪った。街の喧騒は減り、電車が止まり、キャンパスも閉ざされた。有名人のインスタライブとプライム・ビデオを交互

          序章 逃走する言語

          炎舞(2021年度織田作之助青春賞最終候補)

          炎舞 1  むせかえるような煤と灯油の匂いが、身体の表面を包む度に、後戻りできないことを思い知る。トーチ棒の先端から発せられる熱がちりちりと皮膚を刺激して、私は私の役割を実感する。瞳孔には黒と黒以外の全ての色がまとわりつき、心臓と呼応して拍動を繰り返している。  熱気も規則的に頬をなぶる。頬の産毛が痺れて歪む。数分前にかぶったバケツ水は、早くも蒸発し始めている。 「火付け練始めまぁす」  マネージャーの花村東吾はいつもどおり演台に腰掛けて、ビデオカメラと私たちの様子をせわし

          炎舞(2021年度織田作之助青春賞最終候補)

          はじめに~KUMA EXHIBITION 2022に向けて~

           みなさん、おはようございます。  クマ財団5期生の中川朝子と申します。  表題の通り、今日からぼちぼちと「KUMA EXHIBITION 2022」に向けた思索・創作の過程、並びにインプット・アウトプットの記録、(気が向けば)自らの執筆の進捗などを記録していきます。 1. なぜ今note? 理由は主に3つあります。 ①創作過程の透明化・効率化  皆さんは「小説」がどのように作られるかご存知ですか? 多分ほとんどの人は知らないと思います。具体的にどういう手順で小説と

          はじめに~KUMA EXHIBITION 2022に向けて~